〈ヒューマン〉 プロダクトデザイナー 秋田道夫さん2023年9月21日

  • なぜこの形なのか――
  • 奇をてらわず
  • 穏やかなデザインを。

 〈街で見かける信号機、日常で使う湯飲みやルーペ。製造工程やコスト等を考慮しながら、さまざまな製品のデザインを担うのが秋田道夫さんだ〉
 
 ――プロダクトデザインにおいて意識することは?
 
 もちろんデザイン自体も大切ですが、デザインとは関係ないように思えることも考える必要があります。例えば、輸送効率です。「80㎜」という湯飲みをデザインしましたが、これは直径と高さが同じ80ミリなんです。こうすれば箱が正方形になり、輸送しやすくなります。大量生産が前提のプロダクトデザインにおいて、輸送効率やコストといった制約を考慮することはとても重要です。ちなみに、「80」という数字自体は思いつきでしたが、海外の有名なティーカップの直径は、80ミリのものが多いようです。
 
 ――他の製品についても教えてください。
 
 一般的なルーペは、光を取り込んで文字を見やすくするために、全体が筒状で透明か乳白色でできています。しかし、私のデザインした「ルーペ45」は、レンズの下に3本脚によるアーチ状の空間があります。より多くの光を取り込むことができる上、糸通しやピンセットを使った細かな作業も可能になりました。
 
 ――アイデアの引き出しはどのように増やすのですか。
 
 街中で人や物事を、よく観察するようにしています。「これはなぜこういう形なのだろう?」「昨日と今日で電車に乗っている人が違うな」といった思考や気付きを大事にしています。
 先ほどの湯飲みについてですが、なぜ80ミリにしたかというと、両手で包むように持った時の収まりが良かったからです。普段の生活で培った感覚が、良い製品のデザインにつながりました。
 
 ――良い製品とはなんでしょうか。
 
 道理にかなっていなければ、その製品が生き残ることはできません。デザインにおいても、本質的に何年経っても変わらないものがあります。それらは自然の中にある、“基本的な形”を用いてデザインされており、新しくも古くもありません。奇をてらっていないため、うるさくもない。デザイン自体が「穏やか」です。そのような製品は「見たら使い方が分かる」くらいシンプルで、愛され続けるのではないでしょうか。(永)

 〈プロフィル〉
 1953年、大阪府出身。トリオ、ソニーを経て、現在フリーのプロダクトデザイナーとして活動。LED式薄型信号機など、公共機器から日用品まで手がける。8月に新著『かたちには理由がある』が発刊された。

 〈MEMO〉
 「それを作ってみたかったんです」。秋田さんは、仕事の依頼が来た時に、こう言うそうだ。持ち込まれた依頼は断らない。どんなものでも作ってみせる。それも、日常の中でさまざまなことを観察し、関心を持っているから。秋田さんの仕事に対する姿勢に、プロダクトデザイナーとしての矜持をみた。