〈紙上セミナー 仏法思想の輝き〉 養鶏家 宮下寛美2023年9月12日

  • 「地産地消」の生産者

宮下寛美さん㊧と妻・三代子さん(宮下ファームの養鶏場で)

宮下寛美さん㊧と妻・三代子さん(宮下ファームの養鶏場で)

 【プロフィル】みやした・ひろみ 酪農・養鶏等の「宮下ファーム」を営む。家畜人工授精師。農業経営士。認定農業者。75歳。1967年(昭和42年)入会。愛知県瀬戸市在住。副支部長。県農漁光部長。

食する「命」に全力で向き合う

 “物価の優等生”と呼ばれるタマゴ。しかし、最近では、飼料や輸送費の高騰などで、価格が値上がりを続けています。やはり今の時代、地元の食材を地元で消費する「地産地消」で、「食」を守っていくことこそ、大事なことだと感じています。
 「宮下ファーム」では、標高約600メートルの涼しい気候下で、名古屋コーチンやウコッケイなど約3000羽のニワトリを飼育しています。そのタマゴを、地元の愛知県瀬戸市を中心に販売しています。
 地域の方々からは、「このタマゴばっかり買ってるよ」と、とても好評。かつて近隣に住んでいて、他県に引っ越した方も、“宮下ファームのタマゴじゃないとダメなんです”と、わざわざ取り寄せてくださるほどです。
 農家になって、妻(三代子さん=副本部長)と歩んできた約半世紀。地域の皆さまに愛していただき、ここまで続けてくることができました。

少しも気を緩めずに

 もともと、ウシ1頭から始めた酪農業が宮下ファームの“原点”です。酪農も養鶏も、毎日の世話を欠かしてしまっては成り立たない“一日も休めない”仕事です。
 休めないだけではありません。ニワトリやウシの鳴き声から体調を推測し、温度変化に気を使い、エサの配合も工夫。朝は午前5時に起きて祈り、タマゴの配達に駆け回り、戻ってきたら翌日配達するタマゴの回収……。やることは尽きません。
 少しでも気を緩めてしまえば、みんな病気にかかってしまいます。逆に、少しの目配りで、大きな違いが表れるともいえます。
 日蓮大聖人は、「白米は白米にはあらず、すなわち命なり」(新2054・全1597)と仰せです。「食」としていただく大切な命に全力で向き合い、私たちも命を注いでいく――。こうした思いがありますから、いかなる小事もおろそかにすることはできないのです。
 歩んできた日々を振り返ると、「月々日々につより給え。すこしもたゆむ心あらば、魔たよりをうべし」(新1620・全1190)との御文も、心に迫ってきます。
 信心の歩みとともに、環境の変化に対応するため、今でも農業の勉強を重ね、少しでも質の高い「食」を皆さまに届けようと、奮闘しています。
 2011年にオープンした、最寄りの「道の駅」では、地域の方々と共に、発展に尽力してきました。宮下ファームは、産みたてタマゴをはじめ、シフォンケーキやプリン、飲むヨーグルト、野菜などを販売しています。
 2015年には、農畜産物の生産拡大と、「地産地消」の推進への貢献を評価していただき、瀬戸市から功労表彰を受けました。厳しい農業の世界で、“他の人の何十倍も”との思いで積み重ねてきた努力が実を結んだ瞬間でした。

地域を「食」で照らす

 妻と私は、これまで地元農協の責任者も経験。地域の小中学校の職場体験や、農業大学の研修の受け入れなど、池田先生が農漁光部に贈ってくださった「地域の灯台たれ」との指針を胸に、常に進んできました。
 ここ数年は、海外からの農業実習生も受け入れ、学んだことを彼らが帰国後、自国で実践している様子を伺い、世界とも農業でつながっていることを実感しています。
 一方、全国各地の農家では、後継ぎに悩む所ばかりで、瀬戸市でも農家は激減しており、厳しい現状です。そうした状況の中でも、大学卒業後、ヨーロッパでも農業を学んだ次女(優子さん=地区副女性部長)夫妻が、酪農を担ってくれ、孫たちも「後を継ぐよ」と農業を学びながら携わってくれています。
 ウシ約60頭の飼育や、搾った牛乳を使用した菓子の生産など、挑戦を重ねています。後を継いでくれる家族がいることにも、感謝の思いでいっぱいです。全て題目の力だと実感しています。
 地域を、世界を「食」で照らしゆく使命を胸に、まだまだ頑張っていきます!

妻・三代子さんの話

 夫と共に歩んできた半世紀は、苦難の連続。「我ならびに我が弟子、諸難ありとも疑う心なくば、自然に仏界にいたるべし。天の加護なきことを疑わざれ。現世の安穏ならざることをなげかざれ」(新117・全234)との一節を抱き締めて進んできました。
 夫は、これまで胃潰瘍や、胃穿孔などで何度も入院を重ねてきました。近年も、入院する事態が。少しでも後遺症などが残ってしまった場合、仕事は即、廃業せざるをえません。
 しかし、信心の功徳で、その後は回復。今も元気に働くことができています。
 池田先生に教えていただいた信心と、“地元のために”との思いがなければ、多くの苦難を越えて長年、農業を続けてくることはできませんでした。現在、経営は安定。事業の規模を拡大できており、信心の喜びを実感しています。

【視点】食の三徳

 宮下さん夫妻は、「自分たちのことだけ考えていたら、絶対にここまで続けることはできなかった」と語っていました。
 日蓮大聖人は「食物三徳御書」(新2156・全1598)で、「食の三徳」――すなわち、食の三つの働きについて教えられています。①生命を維持する働き②健康を増す働き③心身の力を盛んにする働きです。食は命の源です。その食を守り、人々を支える功徳が絶大であることは、間違いありません。
 この御書には、「人のために火をともせば、我がまえあきらかなるがごとし」とも。“人々のために”――この思いで行動を起こしていく中に、自身の福徳がらんまんと咲き薫っていくのです。