〈SUAリポート〉 アメリカ創価大学の科学棟と理系教育の魅力2022年8月26日

  • ハマスリー教務部長代理に聞く

 2001年の開学以来、“学生第一”の理念のもと、教育の充実に力を入れてきたアメリカ創価大学(SUA、カリフォルニア州オレンジ郡アリソビエホ市)。一昨年に、科学棟「キュリー棟」が完成し、3年生から履修する集中コースに「生命科学」が加わった。生物地球化学が専門で、教務部長代理を務めるロバート・ハマスリー教授に、理系分野のカリキュラムや科学棟の施設などの魅力について聞いた。

 〈ハマスリー教授は2007年、SUAに赴任されたと伺いました〉
  
 私がSUAの存在を知ったのは、南カリフォルニア大学で働き、新たな研究ポストを探していた時です。SUAのホームページに目を通し、“人類の平和に寄与する世界市民を育む”という素晴らしい理念と、美しいキャンパスに魅了され、ここで働きたいと思いました。
 私が赴任してきた当時、在籍する教員のほとんどが文系分野の専攻で、常勤の科学者は2人しかいなかったと記憶しています。しかし、今では14人もの科学者が籍を置き、科学に強い大学へと成長を遂げました。
 その中で、以前は理系科目を専門的に学ぶ学生は、大学で5~6人ほどでしたが、今では60人以上が学ぶようになりました。

ガラス張りの外観が印象的な科学棟。棟内には自然光が明るく降り注ぎ、開放的な造りになっている。地上3階、地下1階建ての同棟は、科学の発展に貢献したピエール・キュリー、マリー・キュリー夫妻にちなみ、「キュリー棟」と命名された

ガラス張りの外観が印象的な科学棟。棟内には自然光が明るく降り注ぎ、開放的な造りになっている。地上3階、地下1階建ての同棟は、科学の発展に貢献したピエール・キュリー、マリー・キュリー夫妻にちなみ、「キュリー棟」と命名された

 〈理系を専攻する学生が格段に増えたのは、20年に理系分野のコースが設置されたからでしょうか〉
  
 そうです。リベラルアーツ(一般教養)教育を行うSUAでは、1、2年次に幅広い分野の学問を修め、3年次からは専門分野を深めるために集中コースを一つ、専攻します。
 従来のコースには、①文学や芸術、哲学、歴史学などを学ぶ「人文科学」、②心理学や社会学、経済学などを学ぶ「社会・行動科学」、③政治学、国際関係、平和研究などを学ぶ「国際研究」、そして、④環境学、政策、都市計画などを学ぶ「環境」の四つのコースがありました。これらは、主に文系分野のカリキュラムです。そこに「生命科学」コースが加わり、生物学や化学、物理学、数学などの理系の授業が行われ、さらに生理学、遺伝学といった、より専門的な学問も修められるようになりました。
 私自身、学生と共に、湿地帯でのメタン生成に関する研究に取り組んでいます。湿地は、二酸化炭素より温室効果の強いメタンガスの主な発生源であり、このメタンガスの生成をどうすれば制御できるのかを調べています。

科学棟内の実験室。棟内には14の実験室が設けられている。各実験室は暖色の壁紙が使用され、落ち着いた雰囲気がつくり出されている。企業の研究者や他大学の学生も使用し、SUAと共同研究を行う

科学棟内の実験室。棟内には14の実験室が設けられている。各実験室は暖色の壁紙が使用され、落ち着いた雰囲気がつくり出されている。企業の研究者や他大学の学生も使用し、SUAと共同研究を行う

 〈「生命科学」が設置されたことで、生命工学関連の企業への就職や理系大学院への進学など、学生の進路も広がっていますね〉
  
 進路の選択肢が増えた背景には、「生命科学」コースの設置とともに、20年に「医学大学院進学準備プログラム」がスタートしたことも大きいと思います。このプログラムは、文系、理系を問わず、3年次にどの集中コースを選んだ学生でも受講することができ、アメリカ国内のメディカルスクール(医学系の専門職大学院)の出願に必要とされる科目(授業)を履修することができます。
 アメリカの大学には、日本のような医学部や薬学部はなく、医学を学ぶためには、大学を卒業してからメディカルスクールへの進学が必要です。
 一般的にメディカルスクールに進む学生たちは、理系の大学で専門知識を学ぶ場合が多く、さまざまな分野の学びが必修のリベラルアーツ教育を行うSUAから進学するには不利のように思えるかもしれませんが、幅広い学識と多角的な視点を培うSUAだからこその強みもあります。
 このプログラムのカリキュラムを作る過程で、現役の医師やメディカルスクールで教壇に立つ先生と意見交換をしましたが、皆がSUAのカリキュラムに賛同してくれました。ある方は「現在の医療現場では、単に患者の診察を行うだけでなく、患者の心理や背景などを理解し、ケアすることが求められています。そうした意味でも、医療の専門的な力だけでなく、広い視野を持った人材を育むSUAのようなプログラムこそ、私たちが必要とするものです」と話してくださり、SUAの世界市民教育は、医療の世界にも貢献できることを確信しました。

科学棟の自習スペースで学ぶ学生たち。文系、理系を問わず、多くの学生が使用するSUAの人気のスポットである

科学棟の自習スペースで学ぶ学生たち。文系、理系を問わず、多くの学生が使用するSUAの人気のスポットである

 〈2年前に完成した科学棟「キュリー棟」の施設の特徴についても教えてください〉
  
 科学棟の設計には最初から携わらせていただきましたが、本当に素晴らしい夢のような施設になったと思います。
 私は以前、ドイツのマックス・プランク研究所で博士研究員を務めていましたが、この研究所での日々は、科学者としての大きな経験になっています。この研究所には、最新の研究機器がそろっているのはもちろん、実験室には自然光が差し込み、研究者たちが活発に議論できるスペースが各所に設置されているなど、さまざまな工夫が施されていました。
 SUAの科学棟も、外観は全面ガラス張りで、各研究室も室内が見えるよう、多くの窓が設置されています。また、これまでの研究室は、アメリカでもヨーロッパでも、専門分野ごとに部屋が分かれていましたが、科学棟では、それぞれの研究室のスペースを広く確保しており、異なる分野の研究チームが同じ研究室内で実験を進め、研究者同士の交流や共同作業などを積極的に行いやすい環境になっています。
 さらに、大小さまざまな会議室や談話スペース、自習できる空間を設け、理系を専門に学ぶ学生だけでなく、全ての学生たちが24時間、利用できるようにしていることも特徴でしょう。
 今、科学棟のあちこちで、美しいキャンパスを眺めながら勉強し、さまざまな議論を交わす姿が見られます。科学棟はSUA生にとって、“新たな知恵や知識”と出合う場になっています。

美しいキャンパスを一望できる科学棟のラウンジ

美しいキャンパスを一望できる科学棟のラウンジ

 〈SUAの学生たちに対し、どんな印象を持っていますか〉
  
 教壇に立つたびに、学生たちが、創立者の理念に賛同し、“世界市民として羽ばたきたい”との思いを糧に、真剣に勉学に励んでいる姿に感銘を受けます。特に、英語を母国語としない学生たちの勤勉さには、いつも感心させられています。母国語以外で学ぶ苦労は、並大抵ではありません。私も幼少期から小学校の高学年まで日本で暮らし、学んだ経験を持っていますので、少なからず、その大変さを理解できます。
 最近では、英語が堪能ではない2人の学生を受け持ちましたが、2人とも後れを取らないよう懸命に学び、素晴らしいリポートを書き上げていました。ネーティブの学生でも、あそこまで優秀なリポートを書くのは難しいでしょう。
 私自身、そうした姿に触発を受け、多くの学生たちに高水準の理系教育を提供できるよう、日々努力しています。
 このSUAから「生命尊厳の世紀」を開く未来の科学者たちを、多く輩出していきたいと考えています。