【社会は今 青年の視点から】④ 〈対談〉認定NPO法人「Homedoor」理事長 川口加奈さん×池田華陽会委員長 林玲子さん2022年7月24日

  • 誰でもやり直せる社会へ つながりが「生きる力」育む

 「社会は今 青年の視点から」では、学会の青年リーダーと有識者の対談を通して、危機の時代に立ち向かう視点やヒントを探ります。今回は、池田華陽会の林委員長が、大阪でホームレス支援を行う認定NPO法人「Homedoor」理事長の川口加奈さんと語り合いました。(創価新報2022年7月20日付)
 
 

認定NPO法人「Homedoor」理事長 川口加奈さん

認定NPO法人「Homedoor」理事長 川口加奈さん

池田華陽会委員長 林玲子さん

池田華陽会委員長 林玲子さん

おっちゃんとの出会い

 林 川口さんは、中学2年生からホームレス支援を始めて、2010年に「Homedoor」を設立されました。取り組みのきっかけは何ですか。
  
 川口 中学2年の時、電車の窓から、ホームレスの人たちの姿が見えました。“豊かな国であるはずの日本で、なぜホームレスの人がいるんだろう”――疑問を抱いた私は、「知って終わりにしたくない」と思い、炊き出しや夜回りに参加するようになりました。
 高校生の時、一人のホームレスの“おっちゃん”に出会います。
 その方は、経営していた会社が倒産し、家族と離別しました。日雇い労働を求めて大阪にやって来ましたが、心臓が悪く、働けなくなり、ホームレス状態になったとのことでした。
 ある日を境に、おっちゃんを見掛けなくなりました。心配になって、ほかのおっちゃんに聞くと、「亡くなった」というのです。頭を殴られたような衝撃でした。“もう一度やり直したい”と願っても、その思いをかなえることができない。そんな社会を変えたいとの思いで、私は「Homedoor」を設立しました。
  
 林 決して目を背けることのできない「重要課題」であるだけに、団体の立ち上げ、支援事業の開始には、さまざまな困難もあったかと思います。
  
 川口 そうですね。何度も心が折れそうになりました。“私がやらなくても、誰かがやってくれるのでは”と考えたこともあります。たとえ小さな一歩でも、“自分の行動が社会を変えていくことにつながる”――そう信じて、今まで何とかやってこられたというのが率直な思いです。
  
 林 「Homedoor」が設立されて、今年で12年になります。この間、ホームレスの方を取り巻く環境に変化はありましたか。特に、今回のコロナ禍の影響はいかがでしたでしょうか。
  
 川口 コロナ禍が要因となって、失業した方、住む家を失った方の相談は多かったですね。「Homedoor」の存在が認知されたこともありますが、2020年度は前年度と比べて約1・5倍の1100件の問い合わせが寄せられました。
 私が懸念しているのは、コロナ前から、10代から30代といった若い世代の相談者が増えている点です。多くが児童養護施設や困窮家庭の出身だったり、家庭環境が複雑だったりと、困ったことがあっても誰にも頼れない状況に置かれています。精神的なつらさを抱えている人も少なくないため、一層のサポートが必要だと考えています。
 

語らいを通して、絆を強め合う池田華陽会のメンバー

語らいを通して、絆を強め合う池田華陽会のメンバー

「無」で向き合う

 林 創価学会では、目の前の一人と関わり続ける中で、悩む相手に寄り添い、「励まし」を送るよう心掛けています。私も、友人やメンバーと会った際には、その時に聞いた相手の悩みや状況などを「励ましノート」に書き残し、心にとどめておけるようにしています。川口さんは、ホームレスの人と接する際に意識していることはありますか。
  
 川口 もともとの性格もあるかもしれませんが(笑い)、自分の感情を「無」にするようにしています。人の感情って、誰しも波があるじゃないですか。その日の気分やモチベーションによって、支援の「質」が変わってしまってはダメだと思って。
  
 林 たしかに、困った人を前にすると、“助けてあげなきゃ”“アドバイスしなくちゃ”という思いが先行しがちになることもあります。時にそれが、「上から目線」のようになり、相手の気持ちを損ねてしまう場合もありますよね。
 また、こちら側の思いが強くなりすぎて、相手の思いとの間にギャップが生まれてしまい、こちらの善意が「押し付け」になってしまう可能性も考えられます。
 
 川口 そうですね。私たちはまず、相談に来た方の「意思」を尊重するようにしています。一方的に「あなたはこうすべき」といった「答え」を与えても、根本的な解決にはならないからです。本人の状況などをヒアリングした上で、就職支援制度や生活保護といった「選択肢」を提示して、本人に決めてもらうようにしています。
  
 林 支援者自身の気分や先入観を抜きにして向き合うことが、自分本位の支援にしないための予防線であり、支援を持続させるための一つの方法なのですね。
 私も、友人から悩みを相談された時には、その人の話に耳を傾けるようにしています。その上で、相手のニーズに合った「選択肢」を提示できるかどうか、「あなたと話せて希望が持てた」と思ってもらえるかどうかが、大切ですね。
  
 川口 そのためには、一回きりの対話では足りません。ホームレスの方は特にそうですが、多くの人の悩みや問題は、すぐには解決できない。
 林さんの「励ましノート」ではないですが、私たちも目の前の相手と“つながり続けていくこと”を、常に意識しています。
 「Homedoor」では、ホームレスの方が路上生活を脱した後も、気軽に戻ってこられる工夫をしています。事務所に隣接する「おかえりキッチン」を無料で利用できるチケットを渡したり、「Homedoor」を卒業した方を対象に「1カ月後面談」を設けたりしています。
  
 林 創価学会では、地域ごとに小単位の「座談会」を定期的に開催しています。
 世代を超えた「地域のつながり」が希薄になっている社会の中で、お互いの経験や思いを語らい、励まし合える場は、とても重要だと感じています。
  
 川口 「孤立・孤独」の問題が叫ばれる今、地域でつながれる仕組みは貴重ですね。その上で、若者世代は昼間に地域にいなかったり、家庭とのつながりが希薄であったりする場合も多いです。そうしたつながりの中に、若者をどうコミットさせていけるかが、今後ますます大事になってくる気がします。
 

「Homedoor」の事務所に隣接する「おかえりキッチン」。入り口のスペースは「HUBchari」の駐輪場になっている

「Homedoor」の事務所に隣接する「おかえりキッチン」。入り口のスペースは「HUBchari」の駐輪場になっている

働くと「前向き」に

 林 「Homedoor」の特徴の一つは就業支援です。「HUBchari」と呼ばれるシェアサイクルのサービスでは、自転車のメンテナンスやバッテリー交換などをホームレスの方の仕事にすることで、働く機会を提供しています。
  
 川口 先に話したおっちゃんが生前、「もう一度ちゃんとした仕事をしたい」と言っていたことが、「HUBchari」の取り組みを考えるきっかけになりました。
 ホームレスの方は、空き缶回収などで自転車を使うため、メンテナンスや修理が得意な人が多いです。また、大阪は駐輪場不足により放置自転車が多く、問題になっていました。ホームレスと放置自転車――この二つを掛け合わせて、思いついたのが「HUBchari」でした。
  
 林 実際、「HUBchari」に従事した方には、どのような変化がありましたか。
 
 川口 働いた人の多くが、人生に対して前向きになりました。本当に驚きです。働くことを通じて得られる、社会とつながっている感覚が一人一人の自信になっているのだと思います。
 こうした方々の姿を見ていると、人間は、社会や人々とのつながりの中で、「生きる力」を見いだしていくんだなと実感しますね。
  
 林 本当にそうですね。同世代の友人らと語り合う中で、仕事や人間関係、将来の不安などの“壁”にぶつかり、立ち止まりそうになる人も少なくありません。悩みを抱える人にとって、手を差し伸べてくれる学会の同志の存在や先輩からの励ましが、大きな「心の支え」になっていくと実感します。
 誰でも、何度でも、「やり直せる社会」をつくっていく――そのため、「人と人とのつながり」は欠かせないと思います。私たちも、川口さんたちと同じように、自然体の自分で、目の前の相手に励ましを送り続けていきます。
 

巡回活動「ホムパト」の様子。弁当と、歯ブラシやカイロなどの生活物資を配布する©2014 DaisukeGondo

巡回活動「ホムパト」の様子。弁当と、歯ブラシやカイロなどの生活物資を配布する©2014 DaisukeGondo

プロフィル

 かわぐち・かな 大阪府出身。大阪市立大学卒業。14歳でホームレス問題を知り、炊き出しなどの活動を開始。19歳で「Homedoor」を設立した。現在、理事長を務める。近著に『14歳で“おっちゃん”と出会ってから、15年考えつづけてやっと見つけた「働く意味」』(ダイヤモンド社)。
 

川口さんの近著『14歳で“おっちゃん”と出会ってから、15年考えつづけてやっと見つけた「働く意味」』(ダイヤモンド社)

川口さんの近著『14歳で“おっちゃん”と出会ってから、15年考えつづけてやっと見つけた「働く意味」』(ダイヤモンド社)

認定NPO法人Homedoorとは

 “ホームレス状態を生み出さない日本の社会構造をつくる”をビジョンに掲げる認定NPO法人「Homedoor」は、大阪を中心にホームレス支援を行う。
 
 具体的な取り組みとしては、「届ける」「選択肢を広げる」「“暮らし”を支える」「“働く”を支える」「再出発に寄り添う」「伝える」の6段階に分かれている。
 
 例えば、「選択肢を広げる」「“暮らし”を支える」の観点でいえば、「アンドセンター」と呼ばれる施設では、無料で宿泊できる個室や団らんスペース、洗濯機やシャワーなどが備えてあり、ホームレスの人が生活を再建するための支えになっている。
 
 こうした「Homedoor」の取り組みは、大きく注目・評価されており、2015年には「Googleインパクトチャレンジ」グランプリを受賞。理事長の川口さんも、米フォーブス誌による日本を変える30歳未満の30人「30 UNDER 30 JAPAN」に選ばれた。
  
 〈連絡先・アクセス〉
 〒531-0074
 住所:大阪府大阪市北区本庄東1-9-14
 TEL:06-6147-7018
 (電話応対時間:平日11:00~18:00)
 Mail:info@homedoor.org
 
●主な取り組み内容
 
①届ける
 巡回活動「ホムパト」の実施、食料や生活物資の配布、店舗等へのポスターやバナー広告設置
  
②選択肢を広げる
 アセスメント(初回面談)の実施、個室型宿泊施設「アンドセンター」の提供
  
③“暮らし”を支える
 「おかえりキッチン」での食事の提供、健康測定プログラムや健康相談会
  
④“働く”を支える
 シェアサイクル「HUBchari」を通しての仕事の提供、企業との求人マッチング
  
⑤再出発に寄り添う
 物件探しのサポート、行政窓口への相談同行、引越しや荷物運搬のサポート
  
⑥伝える
 講演・ワークショップの実施、路上生活者調査
 

 ※「Homedoor」について、より詳しく知りたい方は、団体のホームページをご覧ください。こちらから、アクセスできます。