ある日パワハラ社長から、私の前任者Dが在職中に成立させた契約書の束を差し出された。


細かいことはよく分からないが、Dと社長の間では、Dが成立させた契約の手数料は、会社には入れずにDの懐に入れて良い、ということになっていたらしい。


故に、社長はDがどれほどの仕事をしていたのかを把握していない様子だった。


「この契約書をチェックして、Dが手数料をいくら手に入れたのか計算してちょうだい。」と言われた。


ちゃんと記入してあったものもあったけれど、半分以上は手数料の欄は空欄になっていた。これ以上調べるとしたら、お客様に連絡して聞くしかないが、さすがにそれはできない。


「ちゃんと書いてないのね。やっぱりね。思った通りだったわ。Dのやつ、確定申告してないわね。絶対脱税してるわよ。」と言っていた。


私は、自分のわかる範囲のことを社長に報告したので、この件についての私の仕事は終わったと思っていた。


しかし後日、社長の機嫌がすこぶる悪かった日、この件を蒸し返された。


「あなたね、Dの契約について調べたでしょ?どうしてそれを、税務署に持っていかないのよ。『Dは確定申告を正確にしてますか?』って聞かなきゃダメでしょ?聞いたらすぐわかる事じゃないの。なぜあなたのところで止めるのよ。ねえ、そうでしょ?」


いや、意味が分からない。会ったこともない人の、社長がそうだと決めつけているだけの脱税の可能性を、なぜ私が告発しに行かねばならないのか。やるとしたら、それは雇い主だった社長の仕事なのでは?ってか、それをやるべきだと思っていたのなら、なぜその時に指示をしないのか。それに、他人の納税の状況をそんなに簡単に教えて貰えるとも思えない。


普段、事務所の窓を開ける、というような些細なことすら、社長の許可を得ないと「あなたはいつもそうなのよ。自分で勝手に決める癖がついているの。なぜ私に聞かずに勝手にやるのよ!」と怒り出すクセに、特に指示のなかった仕事を、後になって『なぜやらないのか。』とキレるとは。


万が一本当に、Dが脱税していたのだとしたら、雇い主だった社長の責任もあるのでは?など、モヤモヤが止まらないが、こういう時は沈黙は金、なので、悔しいが聞き流す。