パワハラ社長が会社を継いでもらおうと思っている若者Bがいる。Bは今は隣県に1人で住んでいる。


社長は時々、Bにお米や自分が作った野菜や漬物やらを送っているらしい。相当なお気に入りだ。


「私はね、安納芋を作っているのよ。今は買うと高いでしょ?Bに話したらすごく喜んでね。『ぜひ送ってください』て言うもんだから、今準備しているところなのよ。」と言われ、不用意にも「独身の男性でも、自分でおイモ料理したりするんですね。偉いですね。」と言ってしまった。


途端にパワハラスイッチの入った社長。


「あのね、あなたは本当に視野が狭いわね。あなたは物事をひとつの視点でしか見られないのよ。私はね、あなたとは全然違うところから見てるの。あのね、あなたは知らないでしょうけど、世の中には色んな人がいるのよ。Bはね、肌のアレなのよ。痒くなるの。だから自分で料理するのよ。無農薬でないとダメなのよ。私が作っている野菜は無農薬だから。うちのご近所の人はね、お孫さんが障害があって、食事の世話もお風呂に入れたりするのも大変なのよ。それでも面倒を見ているのよ。本当に気の毒だと思うわよ。あなたは本当に世間知らずだから分からないでしょうけど、そういう人もいるのよ。」


世の中には色々な人がいるってこと、分かってないのはおまえだよ。今アンタがバカにしている目の前の私は、子供が鬱になって不登校の子の親になったし、その子が自殺未遂して、救急に駆け込んだ事もあるよ。

私の兄弟には統合失調症もアトピーもいるよ。親はステージIVのガンで慢性心不全だし脳梗塞もやったよ。


そうぶちまけられたらどれだけスッキリするだろうか、と思いながら、「はいはい、そうですね。すみません。」と壊れた人形のようにただ頷く。


他人がどんな過去を持っているかなんて分かるはずもないのに、何もかも分かった気になって上から目線で話す社長が、心底嫌いだった。