役所への登録が終わり、いよいよ本格的に仕事スタート。


毎日特に決まった仕事はなく、朝から社長のおしゃべりに付き合いつつ、主に「これを調べて」と言われたことを、ネット検索や電話で調べる日々。


取り留めの無いように聞こえる社長の話には、今進めようとしている案件についての話が散りばめられており、聞き流していると「この前話したでしょ!」と叱られるので、気が抜けない。しかも、不用意に口を挟むと「だから違うわよ!」「ホントにあなたは、何も考えてないのね。」とパワハラが始まるので、黙って頷き続ける。


そんな中、唯一とても分かりやすく指示された仕事は名刺の整理。


ある朝、社長の出社が遅かったので名刺の整理をしていたら、現れた社長に「ちょっとそれ、もうやめてちょうだい。片付けなさい!あのね、他にやることがいっぱいあるのよ。あなたは何も気がついていないみたいだけど。それはね、他に何もやることがない時にやるのよ!」と朝から怒られた。


そして「あなた、ダメだわ。やっぱり試用期間を作るわ。あなた、全然やる気がないもの。普通はどんな会社でもお試し期間ってあるものなのよ。私はね、失礼だからそれは無しにしたのよ。でも、あなたはダメだわ。」と言われた。


そして、この時まだ決まっていなかった給料の資格手当の金額について「私は前の人には3万払っていたのよ。仕事のできる人だったから。あなた、どう思う?3万円分の仕事、できていると思う?出来ないわよね。そこに座っているだけなんだから。今までの人は、そこにずっと座ってなんて居なかったわよ。『うちの資格持ちは何を言っても、は?え?分かりません~』ばかり言ってるって言うとね、『よくそんなんで資格あります、なんて言うなぁ』ってね、周りに言われてるのよ。1万円で十分だと思わない?」と言われ、「はい。頂けるだけで十分です。」と答えるしかなかった。


確かに、社長の求めるレベルは非常に高く、1を聞いたら社長の脳内と自分の脳内がほぼ同期できるくらいを求められる。素人の私はとてもではないがそんなことはできる訳もなく、何も出来ていない。誰かに聞きたくても、前任者は既に退職済み。とても未経験の私に務まるものではないと思った。それに、パワハラにこれ以上耐えるのも辛い。1日考え、辞めようと思った。


翌日退職願を差し出すと、社長は「こんなもの出されても困るのよ!引っ込めてちょうだい!あなたがいないとウチの会社は営業できないのよ?あなた、よく分かってないんでしょ?だからこんなもの出すのよね?契約書にはあなたのハンコが必要なのよ!あなた、ワガママな人だとは思っていたけど、ここまでとは思わなかったわ。よくそんなので子供3人育てたわね!仕事が出来ないから給料も要らないから辞めさせてくれって言ったってね、そうはいかないのよ!責任とってもらうからね!考えられないわ!」と激高し、事務所を出ていってしまった。


すごい勢いでまくし立ててたけど、私、一言でも「給料はいりません。」なんて言ったっけ?言ってないよねぇ。そもそも、口挟む余地なんてなかったし。


とは言え。確かに私は社長の指示を待っていただけだった。未経験なのだから何をすれば良いかなんて分からないし、出された指示に何も考えずに従っていただけで、自分で勉強しようとはあまり考えていなかった。それで叱られたから辞めようとは、ワガママだとと言われても仕方ないか、と思った。


退勤時間まで待って、事務所のすぐ近くの社長の家に行き「やっぱり、このまま働かせてください。」と頭を下げた。


社長は「気にしなくていいわよ。明日からまた頑張れば。あなた、更年期よ。だからすぐに頭に血が上るのよ。私には分かるのよ。私もそうだったから。」と、あっさり許してくれた。


この日から、資格を持っていると胸を張って言える仕事をしようと、もう一度勉強を始めた。そしてこれが、私が短期間で仕事を辞めようと行動したきっかけになる。