面接の前に、会社についての下調べをしようと思った。けれど、どんなに検索しても名前と住所くらいの情報しか出てこない。ホームページなども一切見当たらなかった。


そして迎えた面接当日。


指定された場所は、とあるアパートの一室。住所を何度も確認はしたけれど、どこにも看板らしきものは無い。何度も確認をして、普通のアパートの一室のインターホンを押した。


出てきたのはおばあちゃん。この人が社長だった。


部屋の中は本当に必要最低限のものしか置いておらず、形だけ事務所風に整えた感じだった。


最初は好印象を受けた社長。とても気さくで話好きな人だと感じた。一応履歴書やハローワークの紹介状を提出したけれど、ちらっと見ただけで横に置かれてしまった。けれど、これだけは確認しなければと「私は資格はあるけれど、実務経験は全くありません。ズブの素人です。が、事務の経験は豊富です。パソコンは人並みに使えます。」と、それだけは辛うじて伝える。すると社長は、「パソコンはできるのね。私は一切できないの。だから、パソコンできる人を探してるの。」と言う。私はこの言葉を勝手に良いように解釈し、「実務経験<パソコンスキル」と思い込んだ、


そのあとは、おばあちゃん社長のお喋りが止まらない。


自分の恵まれなかった生い立ち、元夫の多額の借金を、朝から晩まで働き詰めで返したこと。自分を捨てた母親との感動の再会、夫と離婚して貧乏を味わいながらも子供二人を育てたこと。この仕事を始めたきっかけ。自分の子供や兄弟たち、その配偶者の細かな情報。さらにどこそこの町長と自分は仲が良いとか、隣町の大きな仕事を自分が見つけたとか、今までで一番大きな仕事を取った時の細かい経緯やら金額やらなんやら。まあ正直、今会ったばかりの赤の他人の、そんな細かい個人情報や過去なんて1ミリも興味はなかったけれど、愛想笑いで聞き流す。


1時間以上も気持ちよく喋り続け、やっと本題。私の他にもう1人、少し年配の方の面接の予定があること。けれどその人を雇うつもりは無いこと。私の前任者は社長の気に触ったらしく、社長いわく「クビにした」ということ。さらに、どこが気に入らなかったのかの細かい情報まで。「そんなこと、私に話していいのか?」と思ったけれど、曖昧に笑って誤魔化すことしか出来ず、もちろん何も言えない。で、最後に「それであなた、給料はいくら欲しいの?」ときた。驚いて「それ、私が決めるんですか?」と聞くと「いくらあったら生活できるの?」と言う。


いや、そもそも私が応募した仕事は週4日、3時間のパートだし、生活ができる出来ないのレベルは稼げない。戸惑いながらも「ハローワークの情報では、時給は1000円から1300円、資格手当は3万から5万と書いてあったんですけど。」と伝える。


すると社長、「まあいいわ。次来る時までに考えておきなさい。あら、もうこんな時間。随分演説しちゃったわね。早く帰りなさい。」とな。


ん?これは、採用ってことでいいのか?いいんだよね。

てか、あの社長、かなり変わった人だな。ほかの面接予定者のこととか、前任者の詳細とかって、喋っていい情報じゃないと思うんだけど。

物凄いおしゃべりだったな。話長いわ。


と、諸々の疑問をかみ締めながら長い面接は終わった。