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【現場の事故を減らすための心理学】
普段、業務上の事故を防止することに腐心している・・・・
失敗学のアプローチに加え、別の視点からも掘り下げたいと思っていたが、早稲田大学のオープンカレッジでの「現場の事故を減らすための心理学」という公開講座があったので、全3回の講義を受講した。
島崎敢教授による講義ノートをまとめたい。
教授は、島崎 敢(しまざき かん、1976年2月 - )は、日本の心理学者(認知科学・実験心理学)。学位は博士(人間科学)(早稲田大学・2009年)。早稲田大学人間科学学術院助教、西埼玉中央病院附属看護学校講師、財団法人交通事故総合分析センター分析委員。
元トラック運転手というおもしろい経歴の教授で、若くて、面白く、おだやかな先生だった。
スーツやネクタイのご趣味が少々エキセントリックだったが、見た目に反して深い洞察、考察、研究背景を持たれることが講義のなかで拝察される。
なお、講義はパワーポイントによる講義であったが著作権の関係もあると思われるのでそのまま掲載せず、私の印象に残った事項のみメモ書きしてみたい。
1.事故率が高いのはどちらか(心理学的アプローチ)
ABSを装備した車両とそうでない車両の事故率については、ドライバーのABSの過信による運転のため事故率を引き上げ、結果として効果が相殺されてしまう。
2.ナースコール装置に対するリスクの知覚
一般の者には、ベットの上に結ばれたナースコースには気づかず、これを使えないことを認識できないが看護婦など看護経験があればすぐにリスクを認識できる。
いわゆる、知識や経験は危険を回避する前提となる。(ハザード知覚スキル)
いわゆる、知識や経験は危険を回避する前提となる。(ハザード知覚スキル)
3.リスクとリスク知覚
客観的リスクと主観的リスクは異なる。
リスク知覚を下げる要因は、経験不足、過信、知識不足、などがあげられる。
リスク知覚を下げる要因は、経験不足、過信、知識不足、などがあげられる。
4.リスクホメオスタシス(ワイルド1982)
ホメオシタス(恒常性)を保とうとする仕組や働きをいうが、目標となる危うさを一定なるように他のことを調整しようとする。
このリスク補償行動は、例えば、前述の1.のABSに限らず、道路が広いからスピードを出す。高齢になったので速度を落とすなど・・・
このリスク補償行動は、例えば、前述の1.のABSに限らず、道路が広いからスピードを出す。高齢になったので速度を落とすなど・・・
5.まとめ
多くの事故は行動の結果発生する。リスク・コスト・効用の評価から総合的に判断され実行される。主観的リスクはハザード知覚と回避能力の自己評価に影響を受け、客観的リスクとずれている。
適切なハザード知覚には、経験や知識が必要
適切なハザード知覚には、経験や知識が必要
6.注意に対する科学的な捉え方
「気をつけろ」というのは非科学的、人間の注意にはリソースがあり同時に複数の対象に注意を向けられない。回避不可能な人間の錯覚は存在する。
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ハイヒールの効用
① 足と靴の境界が足首
② 折れ曲がっているところが足首
③ 脛と腿の長さは約1:1
② 折れ曲がっているところが足首
③ 脛と腿の長さは約1:1
知識や経験は認知のゆがみになり、足が長く見える。
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7.視覚と色覚
視覚には、中心視~9度 から 両眼視野~190度 まであるが、色覚があるのは~60度程度の視野しかない。
眼は思っているよりも性能が悪く、世界を見ているのは脳
眼は思っているよりも性能が悪く、世界を見ているのは脳
8.産業革命とアフォーダンス
産業革命により、人間の操るエネルギーは極端に増えた。
人間はこの200年でほとんど進化していないが、道具も直感的に使いやすい(アフォーダンス)原始的な道具から、解りにくい進化した機具に進化した。
人間はこの200年でほとんど進化していないが、道具も直感的に使いやすい(アフォーダンス)原始的な道具から、解りにくい進化した機具に進化した。
9.機械と人間のインターフェイスを有効に使う必要がある。
適切なグループ化、距離、位置により使いやすい機械と人間のインターフェイスを実現する必要がある。
また、クリティカルな操作ミスに対しては明確な防止措置を講じるなどの対策を要する。
また、クリティカルな操作ミスに対しては明確な防止措置を講じるなどの対策を要する。
10.まとめ
注意のリソースは限られている。感覚器官や体力には限界がある。集中力は続かない。体は進化していない。
11.人間のエラー率
一般の人間のコミッションエラー:10マイナス2乗(1/100)
極度の緊張状態でのご操作最初の5分:9×10マイナス1乗
同じ 30分:10マイナス1乗
極度の緊張状態でのご操作最初の5分:9×10マイナス1乗
同じ 30分:10マイナス1乗
12.どちらを選ぶか
90%の確立で10000円を獲得
50%の確立で20000円を獲得
50%の確立で20000円を獲得
90%の確立で10000円を失う
50%の確立で20000円を失う
50%の確立で20000円を失う
客観的な確立は・・・
-0.9×10000 = 9000
-0.5×20000 = 10000
つまり、獲得の場合は下を、失う場合は上を選んだほうがよいが、多くは逆を選んでしまう。
-0.9×10000 = 9000
-0.5×20000 = 10000
つまり、獲得の場合は下を、失う場合は上を選んだほうがよいが、多くは逆を選んでしまう。
13.代表性ヒューリスティック
典型的なものは発生する確率が高いと判断すること
ヒューリスティック、経験則、判断のショートカット(行動の省略)
ヒューリスティック、経験則、判断のショートカット(行動の省略)
14.情報処理の二重過程仮説
分析的、論理的、客観的、低速 労力が大きい
直感的、感情的、自動的、高速 労力が小さい
15.人間的特性のまとめ
機械に比べて、耐性やパフォーマンスは低く、動作が不安定
慣れてくると無意識で色々なことをやってしまう
活動量や思考量を減らそうとしたりストレスを回避しようとする。
慣れてくると無意識で色々なことをやってしまう
活動量や思考量を減らそうとしたりストレスを回避しようとする。
16.事故対策1
人間の信頼性向上(メタ認知スキルの獲得)
事故対策2
自動化、インターフェイスの改善、フェールセーフ
事故対策3
総合的対策 ダブルチェック
事例分析とフィードバック
冗長性
事例分析とフィードバック
冗長性
17.教育や訓練による信頼性の向上
KYT 危険予知トレーニング
18.横浜市立大学付属病院患者取り違え事故
ポイント・患者の取り違えに気づくチャンスは何度もあった
・Aさんは手術室に降りているかという質問は意味がなかった
・麻酔時に主治医が立ち会っていなかった
・声がけは「Aさんですか?」ではなく「お名前は?」であるべきだった。
リーズンのスイスチーズモデル
対策 ・手術室の移送は複数のスタッフで行なう
・複数の患者を移送する場合は10分以上ずらす
・名前を呼びかけずに患者に名乗らせる
・患者識別バンドを導入し足の裏にも氏名を書く
・予期しないことがあった場合は一旦中断し確認がとれるまで進まない
・麻酔時には主治医も立ち会う
判決は現場スタッフが有罪
・Aさんは手術室に降りているかという質問は意味がなかった
・麻酔時に主治医が立ち会っていなかった
・声がけは「Aさんですか?」ではなく「お名前は?」であるべきだった。
リーズンのスイスチーズモデル
対策 ・手術室の移送は複数のスタッフで行なう
・複数の患者を移送する場合は10分以上ずらす
・名前を呼びかけずに患者に名乗らせる
・患者識別バンドを導入し足の裏にも氏名を書く
・予期しないことがあった場合は一旦中断し確認がとれるまで進まない
・麻酔時には主治医も立ち会う
判決は現場スタッフが有罪
19.責任追及と原因究明
・責任追及 ・原因究明
-目的は被害者救済 -目的は再発防止
-直接原因のみ判定 -構造的欠陥を指摘
-最も悪い人を糾弾 -システムを再構築
・責任追及 ・原因究明
-目的は被害者救済 -目的は再発防止
-直接原因のみ判定 -構造的欠陥を指摘
-最も悪い人を糾弾 -システムを再構築
?
当事者はペナルティを恐れて口を閉ざす
背後要因がわからず構造的欠陥が指摘できない
真の原因が取り除かれないので再発する
当事者はペナルティを恐れて口を閉ざす
背後要因がわからず構造的欠陥が指摘できない
真の原因が取り除かれないので再発する
過度の責任追及は再発防止に悪影響を及ぼす
20.自己認知
タクシーの運転手と動画撮影による運転技術の自覚
21.オペラント条件付け
ねずみの餌やりレバーによる条件付け
必ず餌が出るレバー → 連続強化
時々餌が出るレバー → 部分強化
ギャンブルにのめり込む原因
・学習速度: 連続強化>部分強化
・消去抵抗: 連続強化<部分強化
- 欠報が必ずしもマイナスにならない
- システムの信頼性はほどほどでよい
ギャンブルにのめり込む原因
・学習速度: 連続強化>部分強化
・消去抵抗: 連続強化<部分強化
- 欠報が必ずしもマイナスにならない
- システムの信頼性はほどほどでよい
22.メタ認知とは
メタ認知とは、認知を認知すること。人間が自分自身を認識する場合において、自分の思考や行動そのものを対象として客観的に把握し認識すること。
それを行なう能力をメタ認知能力という。
それを行なう能力をメタ認知能力という。
23.他人を客観視 ? メタ認知(自分を客観視)
・ 知識のメタ認知
- 何を知っていて何を知らないのか
・ 能力のメタ認知
- 何ができて何ができないのか
・ 自分の状態のめた任地
- 今、眠いとか、イライラしているとか
・ 方略選択のメタ認知
- やろうとしていることに対してこの方法でいいのか
- 何を知っていて何を知らないのか
・ 能力のメタ認知
- 何ができて何ができないのか
・ 自分の状態のめた任地
- 今、眠いとか、イライラしているとか
・ 方略選択のメタ認知
- やろうとしていることに対してこの方法でいいのか
24.組織と個人
模範的影響、情報的影響 集団の極性化が起こることがある
25.組織文化の二面性
・組織文化に沿った決定は組織メンバーに受け入れられやすい
・強い組織文化のほうが意思決定がスムーズ
・強い文化を持つ組織ほど業績がよい
・強い組織文化のほうが意思決定がスムーズ
・強い文化を持つ組織ほど業績がよい
・一旦固定すると変容しにくい
・認知や解釈に偏りが発生する
-存続のために繰り返される不正
-不正隠しなどの嘘などに一致団結する
・認知や解釈に偏りが発生する
-存続のために繰り返される不正
-不正隠しなどの嘘などに一致団結する
26.集団的愚考 北朝鮮
・集団の圧力で思考が現実に適合するかの検証能力や問題の同義性判断力が低下すること
・前提条件
-集団の凝集性が高い(まとまりがよい)
-組織構造に問題がある(孤立、独裁、類似競争団体・企業の存在など)
-状況的文脈(外圧、自尊心の低下など)
・症状
-不敗幻想・集団の課題評価・固有モラルの受け入れ
-不都合な情報の割引、ステレオタイプ的判断
-全会一致へのプレッシャー
・前提条件
-集団の凝集性が高い(まとまりがよい)
-組織構造に問題がある(孤立、独裁、類似競争団体・企業の存在など)
-状況的文脈(外圧、自尊心の低下など)
・症状
-不敗幻想・集団の課題評価・固有モラルの受け入れ
-不都合な情報の割引、ステレオタイプ的判断
-全会一致へのプレッシャー
27.集団的愚考による欠損的意思決定
・代替案、集団の目的、選択肢のリスク検討の不完全化
・再検討の省略
・情報収集の省略
・状況に応じた計画修正機能の損失
・最終的に誤った意思決定
-有能な人物による集団でも発生する
・代替案、集団の目的、選択肢のリスク検討の不完全化
・再検討の省略
・情報収集の省略
・状況に応じた計画修正機能の損失
・最終的に誤った意思決定
-有能な人物による集団でも発生する
28.集団的愚考の予防策
・選択肢に対して批判的な議論をする
・リーダーが中立性を保ち、積極的意見表明を避ける
・複数の集団に分けて討議する
・副作用:決定の遅延、責任の分散
・選択肢に対して批判的な議論をする
・リーダーが中立性を保ち、積極的意見表明を避ける
・複数の集団に分けて討議する
・副作用:決定の遅延、責任の分散
29.危ない組織(属人的組織)の特徴
・権威勾配がきつい
・職場への忠誠心や所属意識が過度に強い
・中身ではなく誰が言ったかが重視される
・原因究明よりも責任追及が優先される
・反対意見が自由に言えない雰囲気がある
・異なった意見をもつ人を排除しようとする
・上司が誤りを認めず苦労話をよく話す
・権威勾配がきつい
・職場への忠誠心や所属意識が過度に強い
・中身ではなく誰が言ったかが重視される
・原因究明よりも責任追及が優先される
・反対意見が自由に言えない雰囲気がある
・異なった意見をもつ人を排除しようとする
・上司が誤りを認めず苦労話をよく話す
<内容を吟味するのは思考の労力と能力が必要、誰が言ったかで判断したほうが思考の負荷が低い>
30.不当な評価と不適切な規範
・不当に低い評価や待遇は仕事に対するモチベーションを下げ、事故リスクを高める。
・集団(性別、職業、会社、部署など)が不当に低い評価を受けると「適当にやる」ことが規範化する
・集団(性別、職業、会社、部署など)が不当に低い評価を受けると「適当にやる」ことが規範化する
脱同一視
→ 仕事で評価さればい場合、自分の価値は仕事とは無関係だと思うようになる
→ 自尊心は防衛されるが、仕事は適当になる
→ ますます仕事の評価が下がる
→ 仕事で評価さればい場合、自分の価値は仕事とは無関係だと思うようになる
→ 自尊心は防衛されるが、仕事は適当になる
→ ますます仕事の評価が下がる
31.評価とモチベーション
・不当に高い評価はできないが、感謝や敬意を示すことは可能
- いつもありがとう
- ご苦労さま
- 助かっているよ
- いつもありがとう
- ご苦労さま
- 助かっているよ
・可能な範囲で権限を移譲することも重要
- 任せてもらっているのでしっかりする
- 任せてもらっているのでしっかりする
32.レジリエンス(弾力性)
釜石の奇跡 中学生の判断でより高い位置に避難
33.マニュアルの功罪
・利点
- 一定のクオリティが保てる
- 平時は問題がない
・問題点
- 目的や理解がないと思考停止
- ルールだからは理由にならない
- 管理者は責任回避のためにマニュアルを増強し続ける
- 現実の実情と合わなくなり逸脱が起こる
- 「予見可能性」から逃れるためには管理者は現場のことを知らないほうがよい
- 一定のクオリティが保てる
- 平時は問題がない
・問題点
- 目的や理解がないと思考停止
- ルールだからは理由にならない
- 管理者は責任回避のためにマニュアルを増強し続ける
- 現実の実情と合わなくなり逸脱が起こる
- 「予見可能性」から逃れるためには管理者は現場のことを知らないほうがよい
34.外乱に強い文化
・報告する文化と非難する文化
・原因究明と責任追及
・安全目標と生産目標
・報告する文化と非難する文化
・原因究明と責任追及
・安全目標と生産目標
ノーマルオペレーションでは脆弱な組織でも逸脱が起きないが、外乱がおきたときにはレジリエンスの強い文化が真価を発揮する。
35.外乱に強い組織になるには
・マニュアルではなく目的、文化、哲学を共有する
・非常時の決定権を速やかに最前線に移譲する
・創造力とリソースを最大限に使って最善を尽くす
・マニュアルではなく目的、文化、哲学を共有する
・非常時の決定権を速やかに最前線に移譲する
・創造力とリソースを最大限に使って最善を尽くす
36.安心と安全
安全な社会 = 安心な社会
安心な社会 ≠ 安全な社会
安心=リスクを感じない
37.まとめ
人間は不安定でエラーを起こしやすい、その特徴は変えられない
行為者に悪意がある場合を除いては個人を罰して排除しても事故はなくならない
外乱に強靭な組織を作るためには目的や哲学を共有し、安全文化を醸成する必要がある。