もう、10年ほど前になるが、畑村洋太郎教授の「起業と倒産の失敗学」を文庫本で読み、失敗のデータベースを集め、さまざまな視点からその原因を掘り下げて体系化・知識化するテーマについて、深く興味を持った。
 
もし、具体的な実務上の 業務事故を防止するために活かすことができればよいと考えている・・・
 
畑村教授の本について、新書を中心に、失敗学とこれの応用にかかる体系を俯瞰してみたいと思ったので、これまで読んでいる本の要旨を再整理してみる。 
 
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* 失敗における人的要因について、経営者についてまとめなおすと、10に分類される。
 ①欲得、②気分、③うっかり、④考え不足、⑥惰性、⑦恰好(体面)、⑧横着、⑨思い入れ、⑩自失(無判断)
 もちろん、現実の倒産事例は複合的であって、単純に①~⑩のひとつに絞ることができないが、これらの人的要因に分類できることは確かだ。
 
* 倒産までの時系列の経過は、「売上高推移グラフ」で推察できる。
 売上の推移が、不自然な粉飾を表す場合もあり、破たんに至るまでの時系列的な経過が示されることとなる。
 できれば、B/SCFがあるほうが説得力が増すような気がする。
 
* これらの事例分析は、当事者からすれば結果を分析するものにすぎないと言うだろうが、倒産に至る典型例を見れば、失敗のデータベースの蓄積が有用であると感じる。
 
 
 
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 この本は、JR西日本福知山線脱線事故、みずほ銀行の失敗、三菱自動車連続不祥事、雪印事件、コロンビア号などなど、多くの事件の記録と検証を掲載している。
 これらの失敗データの蓄積の重要性を説き、失敗を防ぐ教訓を引き出すように工夫している。
 巻末には次の内容が強調されている。
 1.失敗についての見方~失敗の積極的な取扱いが必要
 2.失敗を捉える視点~失敗を立体的に捉えよう
 3.失敗知識の伝達~知識にしなければ伝わらない
 4.失敗の必然性~失敗の出来には必然性がある
 5.失敗を生かすための工夫~工夫しなければ生かせない
  
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*  世界の三大失敗、タコマ橋の崩壊、コメット飛行機の墜落、リバティー船の沈没が新たな課題を与え、その教訓を生かして極めて有用な技術向上の機会を得た。
 * 失敗は、未知との遭遇による「良い失敗」と、人間の怠慢による「悪い失敗」の2種類に分けられる。不可避である「良い失敗」から物事の新しい側面を発見し、仮想失敗体験をすることで「悪い失敗」を最小限に抑えることが重要である、と筆者は説いている。
 ハインリッヒの法則では、129300の労働災害における発生確率が示されており、重大災害の影には29件のかすり傷程度の軽災害、300件の「ヒヤリ」「ハット」の体験がある。
* 客観的失敗情報よりも、本当に役に立つのは、失敗に際して当事者が何をどう考え、感じ、どんなプロセスでミスを起こしてしまったかという主観情報が有用となる。(その場合の知識化のコツとしては、決して当事者を批判しないこと)
「論理的思考」ABCDの順序は、実際の創造の作業における人間の思考の流れは順序が異なり、ADCBとなる場合が多く、その思考平面上に有用なアイディアがある。
* この設計に対して、仮想演習を繰り返すことが大事である。
* また、よいものを創造する場合は、アイディアの種を欲張って入れずに思い切って切り捨てることも必要である。
* QCTQCの品質管理は、そもそも形式的にならず、品質管理を実施することであるが、書類化、数値化を進める管理強化によって、形骸化を生む恐れがある
 ダメ上司は「そんなことをやってもうまくいかない」「自分も過去にやったけど、ムダだったからやめておいたほうがよい」と部下のやる気をそぐが、いわゆる偽ベテランのダメ上司によると発生している失敗を見過ごす恐れがある。
 失敗情報の蓄積、絞込みは300個が限界であり、それ以上となると咀嚼できなくなる
* そのほか、時間がたつと形骸化してしまう失敗例を効果的に伝承する方法など・・・・
* 若干、テーマが失敗学にそれる部分や、そもそもの「失敗学」の射程が不明瞭で、守備範囲に対する解説が足りないため粗略(実務への応用が難しい)な表現などがみられるが、 全体に失敗を防ぐための示唆に富む啓示があった。
 
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* 「「逆演算」で失敗のからくりがわかる」とあるが、ラーメン屋の事例は成功事例との対比であり、失敗を防止する範囲との領域が不明瞭だった。
「仮想演習」も具体性を欠くため、失敗を防止するための応用には難しい。
「暗黙知」など、有用な示唆もあるが、全体としてサラリーマン向けの読み物に感じた。
 
* 「親分道と子分道」や【実践的失敗学のためのQA】には、会社組織へ思い込みのような風変りな質疑がある。
なお、男女関係の浮気の失敗学応答には笑えたwww
 
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  失敗を取り込んだものの考え方、組織運営、社会の考え方の3つに大別され、それぞれ具体的にまとめてある。たとえば「失敗を生かす組織運営」の章では、もんじゅの原発事故を「局所最適・全体最悪」の例として挙げ、失敗対策におけるトップダウン方式の重要性を説いている。
*失敗を隠し、学び取ることをしない日本人の体質が、企業不祥事の相次ぐ発生要因になっているだけでなく、バブル崩壊後の閉塞状況の元凶であると強調する。
* 本書は起こしてはいけない失敗をどう防ぐべきかを解説すると同時に、「新しいことにチャレンジする」過程で起こした前向きな失敗をどう生かせばいいかを指南している。
* 「苦情にもならないが当事者がヤバイと認識した失敗」があるという。こうした前兆を把握し、危険性の検討をしておくことが致命的な失敗の防止につながる。
* 隠した失敗が発覚した時の代償や、小さな失敗の隠蔽が大きな失敗を招くことを考えれば、隠すことがいかに損であるかが分かる。
*「失敗対策はトップダウンで」「失敗経験者を優先せよ」といった提言がある。
*失敗は隠れたがる傾向がある。「原因追求」は徹底して行うべきだが「責任追及」は起こってならない。
 失敗、失敗経験、失敗情報こそが、技術の習得を確実にし、技術の発展・進展にも大きく寄与する
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「技術を伝える」ということは、相手が「わかろう」とする状態になっていない「わかる」ことは出来ない。(養老教授のバカの壁のようなもの・・・)

相手が分かろうとする状態に持っていくことを、様々な見地から説明しています。
 ・受け入れの素地を相手に作る(基本的な知識を身につけさせる=基本的なテンプレートをインプットする
 ・守・破・離が重要(最初は、言われたことを守り、次にそれを破ってみて、言われたことの正しさと間違いを知り、最後にそこを離れることで、自分流の技術となる)
 ・全体を見せてから、部分を見せる
 ・伝えるには、文字と、画像、音等の的確な組み合わせが必要

 
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「わかる」と感じる仕組みを解説する。
世の中の事象は「要素」と幾つかの要素が絡み合って作り出す「構造」、異なる構造がまとまった「全体構造」から成る。人間は頭の中に要素や構造、過去の経験や知識を基にしたテンプレート(型紙)を持っている。目の前の事象とテンプレートを比較して一致すると「わかる」と感じる。
合致するテンプレートがなく、理解できない場合には、要素や構造を使って新しいテンプレートを作り理解しようとする。
現代社会で必要とされるのは、「課題解決」ではなく、事象を見極めて問題を探る「課題設定」。知識・解法パターンを詰め込むだけではなく、自分の力でテンプレートを作る訓練を続けることが重要と説いている。
 
いま、私の仕事も業務上のヒヤリ・ハット、する事故がみられる。
少々時間がかかるかもしれないが、畑村教授の研究内容を実務にどのように活かすかを含め、時間をとって考えてみたい。
 
また、機会をみて、畑村創造工学研究所の講義などにアクセスしてみたい。
 
なお、話がそれるが、「失敗の本質―日本軍の組織論的研究 」(中公文庫)という、良書があり、日本軍の組織的な問題に言及した内容で、組織論的な観点からも興味深い。