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政権スタートから、平成の徳政令「中小企業金融円滑化法案」とか、執行部の立て た予算案の大幅増額とか、言いたい放題だった。亀井氏は、それから間髪を入れず重大な行動に出る。それは、郵政民営化の時計の針を逆戻しして、事実上の再国有化に走ったことである。まず、10月21日に、かつて霞が関を支配した実力次官として知る人ぞ知る斎藤次郎氏を日本郵政の社長に起用した。亀井氏は、「みんな驚いたろう」と得意だったと言う。民主党政権が主張してきた官僚排除を根底から ひっくり返したが、その意図はさらに深い。官僚中の官僚と言われる斎藤氏を社長 に据えることで、再国有化路線を確実にしようという意図が見える。 12月には、日本郵政株売却凍結法案を衆院で可決させ、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の株の売却を停止した。つまり、民営化の停止である。これによって、郵政には政府保証が継続することになる。2010年3月には、郵貯の預け入れ限度額を1000万 円から2000万円にすると主張。「聞いていない」と管財務大臣、仙石国家戦略相 は憤り、内閣が混乱したかに見えたが、鳩山総理は、背景に郵政グループ30万人の票があることを知ると、あっさり亀井氏に軍配をあげた。これは、おそらく信用金 庫など中小金融機関から庶民の資金が郵貯に大量に流れ込む筋道を作ったと言え る。まさに民業圧迫そのものである。 郵政再国有化は、日本にとって何を意味するか。ゆうちょ銀行の預金額は、200兆 を上回る巨額であり、民間のメガバンクを全て足したものよりも大きい。政府保証 が付いた国有化で、これまでのように効率の悪い特殊法人や地方団体に資金を流し続けることになると、日本経済全体の資金効率が低くなり、資本の効率活用を目指してしのぎを削っている世界各国のグローバル競争の中で、日本は日増しに衰退していくことになる。 経済運営についてはさらに大きな心配がある。まず、経済運営は経済計画なしでス タートしたと述べたが、これはあたかも海図なき航海あるいは地図を持たずに荒野 に無免許運転で出て行くようなものである。通常、普通の政権は、まず、短期と中 期の経済計画を立てる。短期計画では、経済の総供給に比べて総需要がどのくらいかを確認する。総供給と総需要のギャップを需給ギャップというが、現在のような 景気低迷期では総需要が少なく、ギャップは40兆円ほど広がっている。これを埋め るのが景気対策だが、どのような乗数効果の景気対策のミックスを取れば、最小の 資金で最大の効果をどのようにあげられるかがわかる。今次政権は、短期経済計画に基づく景気対策戦略をしっかり構築していないばかりか、管国家戦略相(当時) は、国会で”乗数効果”を尋ねられて答えられなかった。無免許で運転しているよう な怖さを感じる。 中期経済計画は、経済の総供給力を中期的にどれだけ拡大することができるかの計画である。日本は、少子化で人口の縮小が続いている。経済規模は、労働力(そのもとは人口規模)×一人当り生産性であるから、人口縮小経済の日本の成長展望が低くなることは避けられない。しかし、それでも、戦略的に経済の効率を高める構造改革を推進することで、供給力を拡大することはできる。それがいわゆる成長戦略である。民主党政権は、いの一番に描かねばならない成長戦略を描けなかったのか、理解できなかったのか、いずれにしてもそうした戦略なしで数ヶ月を無為に過ごした。2009年12月末になって周囲からさんざん言われて、戦略室は成長戦略と 名付けた作文を発表したが、予算の裏付けも実行の展望も全くない紙にすぎない。 民主党政権は、マニフェストで国民に約束した国民への直接支給の実現にこだわっ ている。子供手当て、公立高校の無償化、農家の戸別補償、高速道路無料化等々である。これらの政策は、もともと全くの愚策である。なぜなら、本当に救いたい 人々が一番被害を受けることになるからである。子供手当てが消費喚起のためであ るならば、なぜたった1/5の家計に他の国民の負担でお金を渡さなくてはいけない のか。しかも、これが原因で日本は財政悪化が加速する。その結果、子供手当てを 受けたはずの子供たちが、大人になると死ぬほどの財政負担で苦しめられることに なる。一方、子育て支援を目的とするならば、子育て家庭には現金でなくバウ チャー券を渡し、保育所などのサービスを自由に選ばせたらよい。より良いサービ スの供給競争が進み、子育て家庭は多いに助かるはずだ。 公立高校への5000億円の予算は全くの無駄金になる。無償化を前提とした2010年 の春の中学生の応募動向は、前年とほとんど変っていない。つまり、子供を持つ真 面目な家庭は、そんなもので人生の選択を左右されたくはないのだ。一方、経済的 に本当に困窮して学業が継続できない、あるいは進学ができない子供たちも少なか らずいる。私は大学の学長をしているので、そうした実態を胸の痛む思いで知って いる。おそらく数100億円の大規模な奨学金を整備することで、恵まれない 子供たちの学業は続けられるだろう。
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