『タイの王様が書いた本』 | 時間に縛られない編集者のブログ

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いま気になる「なぜ?」「どうして?」を考える

タイのプミポン国王がお亡くなりになりました。

心からの冥福をお祈り申し上げます。

 

 

一度タイに行った人なら、『ほほえみの国』に魅了されるはずです。黄金の仏教文化と共に、東南アジアで唯一侵略されなかった国。世界大戦の混乱の極みにあっても、自分たちの国をしっかり守ったのは、タイの国民が信ずるものがあったからです。

 

 

それはタイの国王に対する圧倒的な尊敬でした。尊敬するだけでどれだけ心が落ち着くのか。宗教でなく、現存する国王への絶対的な信頼です。

 

 

信じている者は強くなれ、救われるのです。どんなに困難があっても、この困難は誰のためではなく、自分に与えられた試練なのです。そして国王がいる限りはどんなことが起きようが、国民は守れると信ずることができるのです。

 

 

イスラム世界の人たちが、一日に何度もメッカの方面に向かって、お祈りをします。タイの国民も、宮殿方の近くを通る時は、必ず頭を下げるのです。

 

 

日本で天皇陛下を尊敬していても、東京駅を通る山手線の中で、皇居に向かって頭を下げる人はいませんが、タイでは違います。

 

 

宮殿の前を通る時は、誰でもが頭を下げて通るのです。それだけ尊敬されているということでしょう。

 

 

私も、縁があってプミポン国王の本を日本で出版しました。野良犬の話でした。あらすじはつぎのようなものです。

 

 

『国王は自前でバンコクに病院を立てました。もちろん一般の人が利用する病院です。ある時工事の進行チェックのために、国王自ら、建築現場を訪ねることになりました。関係者は驚いて、きれいにしなければと、地域に住んでいる野良犬を、地域の外に締め出すことにしたのです。

 

 

ところが、地域の人にとって、地域の犬は、みんな自分の犬と同じに愛情を注いでいました。ところが国王の訪問でどこかに連れ去られたのです。地域住人は王様に実情を話し、イヌを戻してほしいと陳情したのです。

 

 

国王はそれは申し訳ない、すぐに調べて返還しようということにしました。ところが地域人たちが飼っていたのは6匹だったのに、帰ってきたイヌは7匹に増えていました。

 

 

そこで国王は、この残った1匹を自分で飼うことにしました。ところがこのイヌ、とても賢く、気品のあるイヌでした。王様はこのイヌの出自を調べました。すると、昔からタイに住んでいる伝統種の一種であることが分かったのです。

 

 

国王はこのイヌを大切に育てました。名前は「トンデーン」と名付けました。トンデーンは、国王としての行事がある時は、静かに控え、王様の気分がすぐれない時は心を寄り添い、王様にとってかけがえのない仲間となったのです。

 

 

ところが、「トンデーンだけが王様に可愛がられている」と言う妬みの声が上がったのです。そこで、王様は、トンデーンはそんな身勝手なイヌではないことを証明するために、自ら写真を撮り、トンデーンとの生活を公表したのです。それがこの本でした。いわば、トンデーンの冤罪を晴らすために書いた唯一の本なのです。

 

 

それでなくとも、皇室のプライベートを公開したと言うので、たちまち60万部のベストセラーになり、トンデーンはタイで最も知られるイヌとななりました。

 

 

つまり、野良犬がシンデレラドッグになったわけです。王様にそれほど気に入られたのは、王様が海外に行ったリ、何日か宮殿を離れる時、トンデーンは食欲が無くなり、たちまち元気が無くなってしまうのです。

 

 

それだけ王様のことを思い過していたのです。

同時に王様は、トンデーンをきっかけにし、タイの伝統種の犬の保護と共に、市民に役立つ警察犬や救助犬などの学校を作り、イヌと人間の関係をレベルアップしたのです。』

 

 

私もタイに行ったときに、トンデーンの写真を持って行きました。市民に『このイヌを知っていますか?』と聞くと100%の人が、「ああ、トンデーンだ!」と知っていました。

 

 

こんなところにも、プミポン国王がどれだけ国民に尊敬を抱かれていたのか知ることができました。

世界最長の国王としての任期を全うしたプミポン国王、どれだけ慕われていたかを知るほど、国民の落胆は大きいだろうと思います。

 

 

私も心から哀悼の意を表したいと思います。

合掌