グラン・トリノ   2008年 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

監督 クリント・イーストウッド
脚本 ニック・シェンク
原案 デヴィッド・ジョハンソン

 

キャスト
ウォルト・コワルスキー   - クリント・イーストウッド
タオ・ロー           - ビー・ヴァン
スー・ロー           - アーニー・ハー            : タオの姉
ヤノビッチ神父      - クリストファー・カーリー
ミッチ・コワルスキー   - ブライアン・ヘイリー: コワルスキーの長男
スティーブ・コワルスキー  - ブライアン・ホウ: コワルスキーの次男
カレン・コワルスキー    - ジェラルディン・ヒューズ  : ミッチの妻
アシュリー・コワルスキー  - ドリーマ・ウォーカー      : ミッチの娘
マーティン           - ジョン・キャロル・リンチ  : 床屋

トレイ            - スコット・リーヴス :スーと一緒にいた少年

 

 

予告編

 

感想
クリント・イーストウッド監督作品は昨年「15時17分、パリ行き」を観ている。
今回は「旧き良きアメリカ」が体じゅうから滲み出している男の、生きざま(死にざま)を描いた映画。
とにかく口の悪いジジイ。行きつけの床屋のオヤジとも、まるでケンカをしている様な会話。そんなとんでもない爺さんが、隣に越して来た家族(中でもスー)との会話の中で次第に変わって行く。
このスーがいい。ウォルトから相当キツい事を言われても軽くいなし、うまく褒めて自分のペースに持ち込んで行く。
ただ、黒人のチンピラへの態度は、ウォルトもビックリの激しいもの。

 

最初は人とも思っていなかったタオの事を次第に見直し、何とか身が立つようにしてやろうと肩入れして行く過程が、何か涙が出そうなぐらい切なかった。
本来なら、息子たちに伝えるのが理想だったのだろうが、結局それは叶わず、最後の懺悔でも神父に告白している。
だがそうやって親密になった彼らを守るつもりで、チンピラギャングをちょっと脅した。ウォルトにとっては、今までそれほど疑問にも感じずにやって来た警告なのだろう。
指で「バーン」とやるポーズと、その後で本当に銃を抜いて脅す姿の重複。銃を、威嚇するものとして全く疑いなく使ってしまう感覚(指バーンは「狼よさらば」でもやってたな・・・)

だがギャングたちの報復を受けて、深く後悔するウォルト。脅しが通用しないと判った時点で、力ではどうしようもないという事を、身を以て知る。要するに戦争も同じ。

 

最終シーンに至るまでに何度となく繰り返される、左胸に手を入れる仕草。どう考えたってダーティハリーの延長だから、あの場面でも当然銃が出て来るものと思ったら、そこにはジッポーライター。
はっきり言って殺され損。だがあの姉弟を守るために、最も有効な手段として決行した。

命まで賭けることはなかった。子供、孫も居て。

だが妻に先立たれ、健康不安も募る。
そんな事とは別にタオに対する思い。あれほどタオの事を「トロ助」などと蔑称で呼んでいたのが、最後には「誇らしい友達だ」と言った。

旧き良き時代の最後の車「グラン・トリノ」と、ウォルトの姿を重ね合わせた映画。
いろいろと説教じみた読み解き方もあるだろうが、最後に出来た若き友達のために死んだ男の話、だと考える。

 


あらすじ
50年連れ添った、妻ドロシーの葬儀。喪主のウォルト・コワルスキーに次々と挨拶する弔問客。孫娘のカレンはへそ出しルックでウォルトをイラつかせる。
死とは何でしょう・・・・神によって救われます、というヤノビッチ神父の決まり文句にも渋い顔のウォルト。

ガレージでタバコを吸っているところを見つかる孫のアシュリー。おじいちゃん死んだらこの車どうなるの?と聞く孫娘に絶句のウォルト。

車は'72年式の「グラン・トリノ」


そんなところへ、隣に越して来たというアジア系の少年が、ジャンプケーブルを貸して欲しいと訪れる。

喪中だ、と追い返すウォルト。

葬式後の会食。盛大だね、と言う息子に、うまいハムがあると聞いたからだろう、と言い捨てるウォルト。
ヤノビッチ神父が話しかけて来る。ウォルトと言う呼び方に「コワルスキーだ」と反発。神父は亡き妻から、夫を懺悔させて欲しいと頼まれていた。教会はあまり好きじゃない、新米の神父に懺悔するつもりはない、と剣もほろろ。
帰って行く息子の家族。車はトヨタのランクル。

 

ウォルトの家に行った少年が道を歩いていると、アメ車に乗った黒人の若者たちが声をかけて嫌がらせ。


そこに日本車に乗ったアジア系の若者らが近づいて、追い払う。少年の名はタオ。若者の一人はタオの従弟のフォン(スパイダーの刺青)。
守ってやるから仲間に入れ、との押し付け。

タオはおとなしく、家の手伝いをしている様な男。


押し切られる形で「何すりゃいいんだ?」
隣にすごい車があるだろう(’72年型グラン・トリノ)。新車同様だ。

 

退役軍人クラブで旧友と飲んでいるウォルト。そこに訪れる神父。

再び奥さんとの約束(懺悔)の話。生と死について話し始める神父に「一体生と死の何を知ってる」と言い返すウォルト。
死については、朝鮮で三年近く戦った。多くの兵、市民を殺した。死ぬまで忘れない。
生については、生き残って結婚し、子供を作った。
生より死に詳しいようですね、と力なく言う神父。

夜中に、物音で目を覚ますウォルト。「ふざけやがって」とライフルを持ってガレージに飛んで行く。そこに居たのはタオ。銃を構えたが、撃つことはせず、タオは逃げて行った。

 

翌日、タオを連れて姉のスーがウォルトを訪ねて来た。母親たちが花や食べ物も持って来る。


先日タオを助けてくれたお礼だと言う。あなたは町の英雄だ、とも。
それに加えてタオが車を盗もうとした事を謝罪した。

「もう一度忍び込んだら終わりだぞ」

近所の床屋に行くウォルト。イタリア野郎と罵るウォルトに、ポーランド野郎と返すマーティン。口は悪いが昔からの親友。

 

ボーイフレンドのトレイと一緒に道を歩くスー。黒人の若者が数人居る前を通り過ぎる時、トレイが彼らに「やーブラザー」とタメ口を利き、絡まれる。通りかかってその様子を遠くから見ているウォルト。
スーも強気で言い返しているうちに、相手に手を掴まれる。
そろそろ危ないと感じたウォルトが、トラックを横付けにして仲裁に入る。銃を抜いて相手を威嚇しながらスーを取り返すウォルト。一緒に居たトレイは逃げて行った。
強気のスーに「何考えてる」とたしなめるウォルトは、なぜこの街に越して来たのか、と聞く。


彼女らはモン族。これはベトナム戦争のせい。家は教会が世話してくれた。
君はまともだが、弟はボーっとしている、と言うとスーは「女は適応して大学にも行けるけど、男は刑務所に入る」

 

ウォルトの誕生日に息子夫婦が来てプレゼントをするが、集団生活の出来るホームの紹介などされてるうちに行き違い、追い返してしまう。

スーが来て、家でやっているパーティーに誘う。最初は断るが、ビールもあると聞いて付いて行くウォルト。
かなりの違和感を感じるウォルトに、モン族の頭を触ってはいけない、相手と目を合わせるのは失礼、などのルールを教えるスー。慣れるに従い、皿に食べ物を盛ってくれる人も現れて、機嫌が良くなるウォルト。

 

スーが、まじない師に見てもらったら?と誘い、言われるままに受けると、みんなあなたを尊敬していない、から始まってさんざんな言われ方。幸せもなく、安らぎもないとまで言われて落ち込む。
咳をして、少し血が出たのをスーが見て「大丈夫?」と声をかける。
別室の、若者たちが話す場に連れて行かれるウォルト。そこでタオが若い娘ユアに好意を持っている事を素早く悟るウォルト。彼女が若者たちに連れられて出て行ってしまうとタオに、女とは口もきけないトロ

助だと挑発。

 

翌日、またスーたちが来る。今度はタオの償いをさせたいと言う。車を盗もうなどとは一族の恥。
こいつを家に入れたくないと拒むウォルトに、受け入れてもらわないと困る、とスー。モン族の女は強情だ。
考える事があって「明日よこせ」と返すウォルト。

翌日来たタオに、向かいの家の修理をさせるウォルト。

最初は要領が悪かったが、誠実に仕事をこなして行く姿をじっと見つめ、タオを見直す。
家の修理が終わると、タオが自分の家の水道を直して欲しいと頼んで来る。それを直してやるウォルトだが、暑いと言って回させたシーリング・ファンがこれまた不調。
ガレージでそのファンを直すのを見て、工具の多さに仰天するタオ。

自分にはこんなに揃えられないと言うタオに、これだけ揃えるのに50年かかった、と言い、まずこの三つから始めれば、家の大抵の事は何

とかなる、と潤滑スプレー、バイスクリップ(広口ペンチ)、ダクトテープを渡す。

また血を吐くウォルト。すぐ病院に行かなきゃ、と言うタオに何ともない、と返すウォルト。

 

タオにつきまとう男らの事を聞く。モン族のストリートギャング。先日仲間に入れるための儀式に失敗した。そのテストが車を盗むことだった。

タオに手伝わせて地下室からフリーザーを持ち出すウォルト。60ドルで売るというウォルトに、タオが家のが壊れていると言うと「お前の家なら25ドルで売ってやる」
グラン・トリノの洗車をタオにやらせるウォルトを見て、スーが「感謝している」と言った。タオには今まで手本になる人が居なかった。あなたはいい人。
タバコは止めた方がいいと言うスーを無視するウォルトに「少しは言うことを聞いたら」

ジッポーライターのエンブレムの事を聞くタオに「第一騎兵師団のものだ」
大きくなったら何になりたい?との問いにセールスをやりたい、とタオ。
50年フォードにいた。あの車の一部も俺が作った。息子は日本車に乗ってる。
さっさと働くことだ。建築の仕事ならある、と言い、まず男の自己紹介のやり方を教えるため、床屋へ連れて行く。
店に入った時に言うまくら言葉などなど。

そこそこの対応に喜ぶウォルト。
建設業をしている、友人のティムのところへタオを連れて行くウォルト。来週から働く話をつけた。
工具屋で必要なものを買ってやるウォルト。

 

仕事の帰りに、例の従弟のギャングに襲われるタオ。工具は壊され、頬にタバコを押し付けられた。
タオの顔の跡を見咎めるウォルト。おとといやられた。工具壊された。激怒するウォルトに、何もして欲しくない、とタオ。
ギャングの居所を突き止め、太った男が一人残ったところに乗り込み、相手をさんざん殴った後、相手に銃を突き付けて、今度タオたちに手を出したら殺す、と警告するウォルト。

家の前で小パーティー。ユアと親しくなっているタオ。デートはバスだと言うタオに、自分のグラン・トリノを貸してやる、とウォルト。

 

その夜、例のギャングがタオの家を銃撃した。負傷したタオ。ウォルトが駆け付けると、スーがいない。

スーは暴行されて家の前に捨てられた。
自分を責めて涙を流すウォルト。神父が駆け付ける。スーを病院に連れて行ってくれた。


復讐したい、私も頭に来てる。ビールを飲むか、と勧めるウォルトは、神父に「ウォルトと呼べ」と言った。
どうします?と言う神父に「何か考える。あの連中は許さない」

 

復讐に燃えるタオが「何してる!考えている時間はない」と煽る姿に「作戦を練る。信じて任せろ。夕方4時に来い」と言って家に帰す。
床屋に行って散髪を頼むウォルト。いつもの会話。だが今まで一度も頼んだ事のない顔剃りを頼んだのに驚くマーティン。
次に教会へ行き、神父に懺悔をする。三つの罪を犯した。’68年に他の女にキスした。900ドル儲けたのを申告しなかった。二人の息子とうまくつき合えなかった。 あなたの罪を許します、と神父。
「スーの復讐をするつもりですか?」と神父。そんなつもりはない、との返事に「心安らかに」

 

4時になり、タオが来る、地下室に案内し、用意した銃を見せる。ライフルを持って「これで撃つ?」と聞くと「今回は使わない」
朝鮮で何人殺したの?との質問に「少なくとも13人」。
そんな話をしている時に、ウォルトはタオを部屋に残したままドアに鍵をかけた。そして、お前は立派になった、俺にとって誇らしい友達だ、と続ける。最後に「お前が重荷を背負うな。俺が決着をつける」
犬のデイジーをタオの祖母に預けるウォルト。
スーに電話をかけるウォルト。顔の傷跡も痛々しいスー。タオが地下室に居ると教える。
神父が心配して、ギャングの家の前で警官を待たせていたが、相手をして居られない、と夕方には帰ってしまう。

 

ギャングのアジトの前に立つウォルト。

 

それに気付いて出て来る男たち。タオじゃないのか、と言う男たちに挑発する言葉をぶつけるウォルト。相手も銃を抜き、銃撃戦が始まろうとしていた。近所の人たちも注目している。
ウォルトが上着の左に手を差し入れた時、男たちが一斉に発砲。ウォルトは多数の銃弾を胸に受けて倒れる。
彼が手にしていたのは例のジッポー。

 

スーに部屋から出してもらい、現場に走ったタオ。ウォルトはシートを掛けられていた。警官の話では、彼は一切武器を持っておらず、ギャング達は長期刑を免れないとの事。

ウォルトの葬儀。管財人の話す遺産の処置。建物は市に寄付、車(グラン・トリノ)は隣人のタオ・ローに譲る、となっていた。

落胆する息子の妻。

 

グラン・トリノに乗って海岸線を走るタオの姿。走り去って行く車。