こんばんは。

 

こちらは静かな夜です。

 

よろしければ今宵も少しお付き合いいただけたら嬉しいです。

 

 

 

 

宮本輝さんの『水のかたち』を読みました。

 

手元にありながらそのままになっていたのですが、読み始めたら一気に読んでしまいました。

 

 

 

 

 

東京の下町、門前仲町に暮らす志乃子は主婦で50歳。

 

ごく平凡な暮らし、取り立てて何というものは自分にはないと思ってきた志乃子でしたが、

 

ある時、店じまいをするという近所のお店から、気に入った骨董品を譲ってもらったことをきっかけに

 

人生が思いがけない方向に動き始めていきます。

 

そして、流れが流れを呼ぶように、次々と新たな展開を見せていきます。

 

 

 

 

敗戦後、命懸けで北朝鮮から三十八度線を越えて帰国したある家族の壮大なストーリーとも繋がり

 

奥行きが増していくところに、宮本輝氏の小説家としての手腕を感じます。

 

(そして、読了後にこれが実話に基づいているということを知りました)

 

 

 

志乃子自身は気づいていなかった自分の資質、そのよさを、知らず知らずのうちにも磨いてきたこと、

 

そして、意識的にではないもののその資質を活かし始めたことが、まわりに人を呼び、幸運を引き寄せ、流れを生じさせ、

 

すなおに、流れに乗ることで新たな扉も開いていったのだと感じます。

 

 

 

いつの間にか志乃子のまわりには魅力的な人たちがたくさん集まっていました。

 

魅力的な人とは、その人自身がもっているよさを自然と発揮している人、

 

他の人のよさを自然と引き立て、それをよろこびとしている人のように思います。

 

 

 

本の最初の方で、志乃子の母が、志乃子の姉のことを

 

「私があの子を不憫に思うのは、あの子が自分の人生を生きていないと感じるからだ。

 

あの子の美質が、あの子の得手なものが、あの子の隠された良い性格が、

 

まったく発揮されないまま、この小さな家で年寄りの母親とともに老いていく…」と胸の内を吐露する場面があるのですが

 

 

本人が持っている資質、そのよいところ(美質)を輝かせてほしいというのが親の願いなのだと共感しました。

 

それは、誰かと比べてどうこうということではなく、ピカピカと前面に目立たせることでもなくて

 

その人自身がしっくりきている、満たされている、自分らしく感じられているということなのだろうと思います。

 

春には春の花が咲くような、季節にあった自然な美しさがそこには感じられるのだろうと思います。

 

 

 

 

「石に一滴一滴と喰い込む水の遅い静かな力を待たねばなりません」というロダンの言葉(高村光太郎訳)が引用されていて

 

それがとても印象的です。

 

 

 

時間をかけてその人の内に形づくられていくもの。

 

一滴一滴の水にも、長い歳月を経て石のかたちを変えるような、遅くとも静かな力があります。

 

そして、本のタイトルにもなっている「水のかたち」と同化していく力……

 

そういうものに気づけたら、自分自身への感じ方、年齢への感じ方も変わるように思います。

 

 

自分の資質の美しさ、内なる石に気づいた志乃子の人生は、50歳から流れを変えていきます。

 

 

随所にジャズが差し込まれ、物語に音色をつけているところもいいなあと思いました。

 

登場人物の中にとても好みの人物がいました♡

 

有元利夫さんの陶器人形のカバーも素敵です。

 

 

 

 

 

そしてもうひとつ。

 

新宿伊勢丹のアートギャラリーで開催されていた辻仁成さんの個展「Les Invisibles 見えないものたち」を観て来ました。

 

 

 

 

近くまで行くから観に行ってみよう…と思っていたものの、用事を終えると既に夕刻。

 

西口付近にいたので、夕方の人混みの中、東口まで行くのは億劫にも感じられたのですが

 

観に行ってよかったです!

 

どの作品もとても素敵でした。

 

 

 

大小38枚の絵はすべて売約済み。

 

38枚でひとつのストーリー、ひとつの世界観を感じる作品群でしたが、

 

それぞれの処に引き取られ、もう一堂に会することはないのかな…と思うと、貴重な機会、観ることができてよかったなあと思います。

 

 

 

11,000円?(うろ覚えです)の画集のような立派な図録も完売していました。(サンプルがありました)

 

大盛況だったのですね。

 

 

もっと激しさを感じるような作品なのかなあと思っていたのですが、

 

柔らかさや繊細さ、透明感も感じるとても素敵な作品たちでした。

 

別の世界への扉、ふたつの世界、あちら側とこちら側を行き来するようなイメージが湧きました。

 

 

 

 

と言ってわたくし、特別に辻さんのファンというわけではなくて…^^;手持ちの本は多分この2冊だけ。

 

 

 

 

『マダムと奥様』は、中山美穂さんとお暮しになっていた頃のパリでの生活を、軽妙洒脱な語り口で綴った、週刊誌の連載をまとめたもの。

 

この本、なかなか面白いのです。

 

 

『パリの空の下で、息子とぼくの3000日』は、離婚後シングルファーザーとなり、当時10歳だった息子さんと過ごしてきた3000日、8年余りの日々を綴ったもの。

 

思春期真っ只中の息子さんとの葛藤の日々が、せつなくいとおしく綴られていてぐっときます。

 

 

 

そういえば、何年か前に『ミラクル』を原作とした舞台を観ました。(ブログにも記事を書いたように思います)

 

その時原作も読んだのですが、

 

『ミラクル』は初版が1993年と、30年以上前に書かれた作品なのですが、ジャズピアニストの父とふたりで暮らす少年は

 

「ママは雪の降る日に帰ってくる」という父の言葉を信じつつ、心でママを探し求めて暮らしている…

 

なんとなく現実と重なるところがあるようにも感じられる、せつなくいとおしい“ミラクル”でした。

 

 

 

音楽に、文学に、映画に、お料理に、そして絵画に…

 

実に多才でユニークな方だなあと、その暮らしを含めて興味深く見つめているわたくしです。

 

 

 

 

お付き合いくださりありがとうございます。

 

皆さまどうぞ元気でお過ごしくださいませ💛