鎌倉に「港の人」という出版社さんがあります。

 

何年前だったか、“かまくらブックフェスタ”というイベントで、その存在を知りました。

 

「港の人」という名前は、詩人の北村太郎さんの詩集からいただいたのだそうです。

 

 

 

「港の人」は今年、創立25周年ということで

 

いくつかの書店で記念フェアが順次されていて

 

私も書店に立ち寄った際、そのコーナーを見つけました。

 

 

 

 

私は、この「港の人」のホームページに掲載されている、

 

作家の石田 千さんと画家の牧野 伊三夫さんの往復書簡「月金帳」を楽しみに読んでいます。

 

 

2020年の4月から、月曜日と金曜日にお互いの間を行き来するやりとりは

 

なにげない一日の夕方にふと見るきれいな夕陽のようであり

 

夕げの食卓のようです。

 

 

 

 

 

この連載がはじまった2020年4月といえば、

 

“コロナ”という得体のしれないものの出現に、多くの人が不安を感じ

 

また日常生活にも制約が出始めていた時期です。

 

あたりまえだったことが、あたりまえでなくなっていく日々の中ではじまった往復書簡は

 

日常の営みのやさしさやとうとさに気づかせてくれる大切なお便りでした。

 

 

 

 

「月金帳」は現在も続いていますが

 

2020年4月から9月までの最初の半年間分は書籍化されています。

 

 

 

 

 

 

 

石田 千さんは「箸もてば」など、食べ物にまつわるエッセイもたくさん書かれていて

 

食べ物の描写が楽しいです。

 

植物やひと、物ごとに向けるまなざしもやわらかく、かつ特有だと感じます。

 

ご病気のことなどもあり、このコロナ禍で外に出ることへのおそれも大きく、

 

ときに心細さに揺れる様子はちいさな女の子のようにも感じられます。

 

けれども、前を向くつよさも感じます。

 

 

 

こんなふうにも書いていらっしゃいます。

 

「このからだには、こわいの種が数えきれないほどつまっている。

 

けれど、おなじように、ありがたいの種もあって、こちらのほうがたくさんつまっている。

 

だから、こわいを越えられる。

 

ずっと、そうやって、生きてきたんだ。

 

やっと、けさ、わかった。」

 

(2022年8月15日の書簡より抜粋)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

牧野 伊三夫さんは絵を描くことが本業でありながら、文章も絶品です!

 

食いしん坊、のんべえの心をそそる数々の名文。

 

時に絵ばかりかレシピも書かれていて想像力を膨らませてしまいます。

 

牧野さんも植物の描写が多く、人や風景の描写も温かみがあって素敵です。

 

また、行動規制が緩まってからは故郷の福岡のほか、旅の便りも楽しいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

石田 千さんも、牧野 伊三夫さんもともに50代。

 

振り返るにちょうどいい思い出もたくさんお持ちで

 

家族のこと、若き日のこと、風景、出会った本や絵、音楽、人びと…

 

そのどれもがとてもいいなあと思わされます。

 

 

 

 

「偶然目にした風景から、ふと何かを感じとって、描きたいと思えたら、それで十分なのである。

 

ただそのとき、そこにあったなんでもない景色でよい。

 

そしてまた、自分も、同じく誰も知らない無名の画家のままでありたいと思う。」

 

(2020年8月12日の書簡より抜粋)

 

 

 

牧野さんの目に映る日常は、よろこびやしあわせそのものなのだと感じます。

 

それをそのままに感じ表現したい…

 

そんな絵を描くことへの深い想いが文章の底にあふれているのを感じます。

 

(牧野さんは、雑誌「暮しの手帖」での連載も始まっているようです)

 

 

 

 

日常生活の中に、日常的でないものがいつもあるのだと気づいていたいものです。

 

日常生活はよろこびとしあわせの裾野…

 

「月金帳」はそのことに気づかせてくれる素敵なお便りです。

 

 

 

 

最後までお付き合いくださりありがとうございます。

 

年末のあわただしい日々。

 

皆さまどうぞお体に気を付けてお過ごしくださいませ♡

 

 

 

★おまけ★

 

ある日の散歩道より

 

なんとなくシュール…

 

お砂場のわすれもの