マネは印象派の父と言われていますが、

 

私の中では印象派のお兄さんというイメージ。

 

黒がとても印象的な画家です。

 

去年、日本で開かれた「オルセー美術館展」に“笛を吹く少年”がやってきて

 

その絵の前が、黒山の人だかりになっていたことを思い出します。

 

 

 

 

マネの絵にも描かれ、自身も画家としてすばらしい作品を残しているベルト・モリゾ。

 

その彼女の半生を描いた映画です。

 

正式な題名が、「画家モリゾ マネの描いた美女~名画に隠された秘密~」。

 

長すぎます。(´д`lll)

 

 

 

内容は、想像していた通り…19世紀のフランスにあって

 

女性が画家を目指して生きることの苦悩と葛藤が描かれています。

 

 

ベルト・モリゾは裕福な家庭の出身。

 

姉のエドマも画家を目指しており、姉妹で“ずっと一緒に絵を描いていこう!”

 

と誓い合い、周囲の反対を受けながらも

 

絵に没頭する生活を送っています。

 

 

 

そこに登場してくるマネ。

 

このマネの存在が、姉妹の間の空気を変えていきます。

 

姉妹でそっと静かにマネに惹かれていくのですが、

 

(しかも、姉エドマの方がお熱で積極的なのですが)

 

マネが関心を示したのは、画家としても、女性としても(モデルとしても)

 

妹のベルトの方だったのです。

 

姉に気を遣いつつ、そしてマネが既婚者であることに抵抗を感じつつ、

 

そして、両親の干渉に苛立ちつつ…

 

それでも、次第に大きくなっていくマネの存在を否定できなくなっていきます。

 

 

 

マネとベルトが恋愛関係にあったのかどうかは

 

はっきりとはわかっていないそうですが、

 

この映画でも、ふたりの間にあった感情がどういうものなのかは

 

観る側の感じ方次第のように思います。

 

 

ベルトには、マネの絵と才能に惹かれていく気持ちと

 

自分の絵と才能を認め、理解してほしいと言う願望とが

 

入り混じっている…そんな感じがしました。

 

 

でもこの映画は、マネとベルトとの恋愛に焦点を当てているわけではなく

 

当時の時代的、社会的状況の中で、才能を発揮して自分らしく生きることを求める

 

ひとりの女性の葛藤を淡々と描いています。

 

 

 

 

姉のエドマは、マネに心を残しつつ、別の男性と結婚していきます。

 

それは絵の道を断念していくことでした。

 

その姉の選択を最初は受け入れられなかったベルトですが、

 

次第にまた姉と心を通わせていきます。

 

 

 

結婚したエドマの暮らすロリアンを、ベルトが訪ねていくシーンが印象的です。

 

海沿いのとても美しい風景。

 

その風景と空気にベルトの心はほどけて

 

とても優しい笑顔になります。

 

この映画の中で、ベルトはほとんど笑顔を見せないので

 

このシーンは、観ているこちらもほっとして嬉しくなります。

 

 

 

姉エドマは、結婚して平凡な人生になったことを嘆きます。

 

そして妹のベルトには絵を描き続けてほしいという気持ちを伝えるのです。

 

ベルトは姉の嘆きを聞きつつも

 

妻となり母となって生きていく姉の人生を

 

そこで初めて肯定していくように感じました。

 

 

 

ロリアンの海辺でカンバスを出し、絵を描きはじめるベルト。

 

明るい日射しと吹き抜ける強い風。

 

帽子のリボンや服が風にはためく中、絵を描くベルト。

 

あの時ベルトは、自分の生き方を決めたように感じました。

 

 

 

のちにベルトは姉とその子どもの絵を描いていますが

 

どれも愛情を感じるとてもすてきな絵です。

 

 

 

 

そして、姉妹の母親も若いころ、絵に情熱を燃やしていたのです。

 

「絵はあくまで、たしなみとしてやらせただけ」と言いつつも

 

時代の常識に逆らって、姉妹に絵を描くことを許してきたのは

 

自分自身の諦めきれなかった絵に対する気持ちがあったからだと思います。

 

 

 

それでも母親としては、娘に予測のつかない不安定な人生よりも

 

安定した人生を歩ませたいという気持ちがあったのでしょう。

 

画家を目指すことには反対の姿勢をとります。

 

 

 

姉エドマの結婚に、ベルトが失望し苛立ちを見せたとき、

 

母親はベルトに

 

「エドマは30歳を前に結婚を焦ったのよ…」と言うのです。

 

それはかつての自分自身の気持ちそのものだったのかもしれません。

 

 

母親には、ふたりの娘両方の気持ちがよくわかったのだと思います。

 

冷淡にみえて、この母親の胸にも葛藤があったのだろうなあと感じました。

 

 

 

 

ベルトは30歳を過ぎて、マネの弟と結婚します。

 

ベルトとマネの間に流れていた気持ちは

 

果たしてどういうものだったのだろうなあと想像します。

 

 

 

 

ベルトの師匠としてコロ―が登場してきたり、

 

“笛を吹く少年”のモデルの少年が登場してきたり、

 

“草上の昼食”や“バルコニー”、“オランピア”などの絵が出てきたり…

 

そのあたりの楽しみもあります。

 

 

 

このあと、ベルトが画家としてどのように開花していったのか

 

その後の人生も観てみたいものだなあと思いました。

 

 

 

ベルト・モリゾ役のマリ―ヌ・デルテリムの黒い瞳が印象的です。

 

 

 

ベルトの娘、ジュリー・マネも画家となりました。

 

ベルトと娘をとりまく印象派の画家たちとの関係はとても興味深いです。

 

 

 

印象派の生まれる、その流れのはじまりをそっと感じさせるような、

 

一枚の絵をイメージするような、そんな美しい映画でした。

 

 

 

監督は、カロリーヌ・シャンブティエ。