運転免許を取ったばかりのころ、友人ら4人と箱根方面にドライブに出かけた。その帰り、西湘バイパスの大磯付近を走っていたら、スピード違反で運悪くつかまってしまった。あのパトカーではなく、覆面だったから、不覚にもまったく気がつかなかった。同乗者が、警官の一人に「そんなにスピードは出てないでしょう」と言ってくれたが、こういうのをあとのまつりというのだろう。後日談だが、その道に詳しい人によると、覆面パトカーの見分け方があるという。「捕らえられる方がバカだ」と、あっさり言われてしまった。

 そもそも、ぼくが入社した会社(製作所)では、レーダースピードメータを生産していた。スピード違反を取り締まる機器である。その関係があってか、製作所の西側に面した道路が直線で、スピードが出やすかったことから、警察がここでよくスピード違反の取り締りを行っていた。ある日のこと、事務所にいると、「つかまっちゃった」といって入ってくる同僚がいた。まんまとその検問に引っかかったのだ。スピード違反した同僚が、現場の警官に、「そんなにスピード、出してなかったよ。オーバーしたとしても誤差の範囲でしょう」と抗弁すると、警官は「機器は正確、精度も高いからね。それにこのメータは、あなたの会社の製品でしょう」と反撃をくらったとのこと。当時のやりとりについて笑いながら解説してくれたが、スピード違反をすると、会社名まで明かさなければならなかったということなのだろうか。

 ところで、神奈川県警は2月20日、22年3月から24年12月にかけて、不正な交通違反の取り締りがあったと発表した。報道によると、不正行為は2つあって、1つは交通反則切符の虚偽記載で、スピード違反した(とされる)車について、警察車両で追尾した距離を、実際よりも長く記入していたというもの。2つは実況見分調書虚偽作成である。違反者が反則金を納付しない場合には、刑事処分に向けて実況見分調書が必要となるが、必要な見分を行わず虚偽に作成していたというもの。いずれもチョンボではなく確信犯だ。それに、一連の不正行為には神奈川県警第2中隊第4小隊の大半の隊員が関わっていたという。ということなら、組織ぐるみの犯罪であって、極めて悪質である。不正を主導した巡査部長は現場経験が豊富で実務の中心だったといい、同僚は県警の調査に対し「意見しづらかった」と語っているそうだ。

 機器の信頼性は揺るぎない。それは機器に意思はなく、悪意が入り込む余地がないからだ。しかし、それを使う側、すなわち運用する人間には、悪意が入り込む余地が大いにある。というのも、人間の行動は感情に左右されやすい。だから、上司に「これぐらいは問題なく許されるだろう」といった意識があり、また部下に「上司には逆らえない」といった感情が入り込めば、いくら機器が正常かつ正確に機能したとしても、そこに組織の不正が生まれることになる。この不正は、人目につかなければ隠蔽となり、表面化することもないから悪の温床となる。

 時代はAIとかITが闊歩する時代。技術進歩や技術革新はすさまじい勢いで社会を変革していく。しかし留意すべきは、どんなに優れた機器も、もちろん生成AIであっても、人間の不純な動機や悪意には及ばない、対抗できないということ。だから不純な動機や悪意は厄介なのだ。