明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いしますー
って、2015年は一度も記事を書いておらんかった (汗
たまたま今回は、気が向いたので、久しぶりに記事を書くことにしましたw
これからも気が向いたときにだけ書くことにします w
さて、今回は日経新聞の中山淳史氏、Financial Timesのジェームズ・フォンタネラ・カーン氏及びベン・マクラナハン氏による「M&A 2.0、バブルの轍は踏まない」
について。業界人間のはしくれとして、ツッコまずにはいられなんだw
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トムソン・ロイターによると、最近3年間の買収で日本企業が支払ったプレミアム(買収決定4週間前の株価に対する割増金)は31%でバブル期の42%から大きく下がり、米企業の同32%と同水準に落ち着いた。
156億ドルの米ビーム買収でサントリーホールディングスが乗せたプレミアム(割増金)は26%。「同じ仲介者が売却シナリオを描いた」(関係者)とされるソニーの米コロンビア映画(89年)と現パナソニックの米MCA(90年)買収時はそれぞれ81%、54%。高値づかみが減ったとされるゆえんだ。
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高値掴みが減ってきたということについては、同感だが、プレミアムの減少を根拠とすることには同意できない。買い手にしてみれば、プレミアムが低くすることはよいことだが、プレミアム付与前の株価が割高であれば、プレミアムが低くても高値掴みになるためだ。
プレミアムよりもEV/EBITDA倍率のほうが有用といえるだろう。もちろん、当該指標も万全ではないが、プレミアムよりも汎用性が高いとはいえるだろう。この指標は、事業価値が、対象となる事業が生み出すEBITDA(償却前営業利益)の何倍かを示すもので、割安、割高、ふつうを見る上でプレミアムよりも有効だ。この考え方は金融業界でコンセンサスともいってほどのものなので、なぜ本記事の記者がこの指標に言及しなかったのか、不思議だ。
具体例を挙げよう。↓は買収前の指標(AとBは互いに同業他社とする):
- 上場会社AのEV/EBITDA: 6.0倍
- 上場会社BのEV/EBITDA: 5.0倍
説明を単純にするため、両社のネット有利子負債をゼロとし、Aをプレミアム20%で買収し、Bをプレミアム40%で買収するならば、↓のようになる:
- 上場会社AのEV/EBITDA: 7.2倍(プレミアム20%)
- 上場会社BのEV/EBITDA: 7.0倍(プレミアム40%)
前述した通り、EV/EBITDAはalmightyな指標ではない。また、EBITDAをLTM(last twelve monthsの略)と呼ばれる直近12ヶ月実績の値を使うか、NTM(next twelve months)と呼ばれる直近12ヶ月予想の値を使うか、2年後以降の数値を使うかで、数値が大きく変わる。それでも、プレミアムを使って議論するよりは、有用といえるだろう。
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■「入札嫌い」なお
日本企業は本当に買い物上手になったのだろうか。米ウォール街を歩くと、冷ややかな声も聞こえてくる。20年以上にわたりM&Aを手掛けてきたゴールドマンサックスのジェームズ・デルファベーロ氏は「日本企業は入札を嫌いプレミアムを相対で積み上げた事例が少なくない」とみる。手元に積み上がる資金で買収に踏み切る結果、金融市場や銀行のチェックも働かないケースがあるという。
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こちらは、さらに???な記載だ。入札を嫌うというのは、基本的には正しいアクションと考える。オークションだと価格の吊り上げが起こるからだ。むしろ、相対で独占交渉権を案件開始時に獲得するのが定石といえるだろう。実際、著名投資家であるWarrren Buffetは”Acquistion Criteria”の中で、オークションに参加しないことを明言している。
ゴールドマンサックスのジェームズ・デルファベーロ氏は「日本企業は入札を嫌いプレミアムを相対で積み上げた事例が少なくない」といった趣旨のコメントを本当にしたならば、我田引水というか、利益相反的なコメントといわれても仕方ないだろう。
蛇足
- 東芝によるWestinghouseの買収は、東日本大震災がなければという大前提がつくものの、「高値掴みしたにもかかわらず成功した案件」といえそうだなので、失敗例として挙げるのはどーよ(失敗は失敗だが、例としてはよくないという意)
- 高値掴みして、数年で失敗が明らかになった例は他にいくらでもあるのではないかw
- 日本企業が「入札を嫌う」のは、意思決定が欧米企業に比べ遅く、オークションのペースについていけない背景もあろうが、対象会社が他社に買収されると大変なことになることが予見される等のことがない限り、入札しないという選択はまともと考える