野呂と大堀がゆっくりと階段を降りてくる。
浦野は覚束ない足取りながらも立ち上がり、高橋たちの前に立つ。
「シンディー…」
「いいから早く逃げな!」
今にも倒れそうなことは一目瞭然だった。
しかし彼女は意地で立っていた。
希望を絶やさぬように、射し込んだ光を守るように。
「今は逃げることだけ考えて!あなたたちなら止められるかもしれない!」
浦野が叫んだその瞬間、大堀の腕が伸びる。
まるで液体のようにドロドロになり、腕としての形状を留めてはいない。
しかしそれは浦野へと一直線に彼女の口を塞いだ。
「喋りすぎよ~一美ちゃん~」
液状の先が掌に変化し浦野の頬を掴む。
すると口を塞いだまま彼女の体が意図も容易く持ち上がった。
どれだけ暴れても離れない。
呼吸ができず意識が飛びそうになる。
「うぐっ………うりゃあッ!」
浦野が液体を殴り付けると本物の水のように音を立てて飛び散る。
持ち上げられていた体が床に落ちたが口を押さえた液体は離れなかった。
「うぅ……う……」
必死に引き剥がそうとするも外れない。
次第に頭痛が大きくなり手足が痺れる。
目眩と吐き気と共に視界が真っ白になるのを感じた。
「くそっ………」
浦野の体から力が抜け床に倒れる。
呆然と見ていた二人はようやく事の重大さに気づく。
「シンディー!」
高橋が浦野に駆け寄る。
「オラぁ!」
高城が大堀に殴りかかる。
しかし水を叩くように素通りするだけで手応えが感じられない。
「ふふふ、わたしには効かないわよ」
大堀の腕が伸び高城の首を掴むとそのまま壁にぶつけた。
激しい衝撃と首を締め付けられる苦しみが襲う。
満身創痍の高城に抵抗する力は残っていなかった。
ダメだ…力が出ない…
腕の力が抜けダラリと垂れ下がる。
高城も浦野と同じく意識を失う一歩手前まできていた。
たかみなさん…ごめんなさい…守れなかった…
目を瞑ろうとしたその時、自分の首に掛かっていた力が抜けた。
宙に浮いていた高城が地面へと落ちる。
あれは…
床に着くと同時に崩れ落ち倒れた視界に映ったのは小嶋の姿。
いや…違う…あれは…
高城はそこで力尽き意識を失った。
「あらら?これはどういうことなのかしら~?」
大堀が驚いたように言った。
隣にいた野呂も突如として目の前に現れた新手を睨み付ける。
「にゃんにゃん…?」
高橋が呟く。
確かにそこにいるのは小嶋。
しかしどこか違う。
高城のようにどこか雰囲気や空気が変わったのではなくもっと本質的な何か。
小嶋が小嶋でないかのような。
でもこの感覚は知っている。
「ちょっとだけ体借りるね、にゃんにゃん」
小嶋が呟く。
小さく微笑んだ顔は瞬く間に鋭い眼光を放つ。
それは目の前の二人に向けられて。
「驚いたな」
野呂が微笑を浮かべ囁いた。
「死んでも尚、AKBに執着するか」
高橋は野呂が何を言っているのか理解できなかった。
ただそれでも小嶋の異変はわかる。
そしてこの暖かく懐かしい感覚。
今までずっと隣にいた。
近くで支えていてくれた。
笑ったり泣いたりたくさんの思い出を過ごした。
涙が零れる。
あの日からぽっかりと空いた心の隙間。
もう会えないと思っていた。
過去の面影だけを追うしかないと思っていた。
会いたかったかもしれないではなく会いたかった。
「あっちゃん…」
高橋は目の前の小嶋に向かってそう囁いた。
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浦野は覚束ない足取りながらも立ち上がり、高橋たちの前に立つ。
「シンディー…」
「いいから早く逃げな!」
今にも倒れそうなことは一目瞭然だった。
しかし彼女は意地で立っていた。
希望を絶やさぬように、射し込んだ光を守るように。
「今は逃げることだけ考えて!あなたたちなら止められるかもしれない!」
浦野が叫んだその瞬間、大堀の腕が伸びる。
まるで液体のようにドロドロになり、腕としての形状を留めてはいない。
しかしそれは浦野へと一直線に彼女の口を塞いだ。
「喋りすぎよ~一美ちゃん~」
液状の先が掌に変化し浦野の頬を掴む。
すると口を塞いだまま彼女の体が意図も容易く持ち上がった。
どれだけ暴れても離れない。
呼吸ができず意識が飛びそうになる。
「うぐっ………うりゃあッ!」
浦野が液体を殴り付けると本物の水のように音を立てて飛び散る。
持ち上げられていた体が床に落ちたが口を押さえた液体は離れなかった。
「うぅ……う……」
必死に引き剥がそうとするも外れない。
次第に頭痛が大きくなり手足が痺れる。
目眩と吐き気と共に視界が真っ白になるのを感じた。
「くそっ………」
浦野の体から力が抜け床に倒れる。
呆然と見ていた二人はようやく事の重大さに気づく。
「シンディー!」
高橋が浦野に駆け寄る。
「オラぁ!」
高城が大堀に殴りかかる。
しかし水を叩くように素通りするだけで手応えが感じられない。
「ふふふ、わたしには効かないわよ」
大堀の腕が伸び高城の首を掴むとそのまま壁にぶつけた。
激しい衝撃と首を締め付けられる苦しみが襲う。
満身創痍の高城に抵抗する力は残っていなかった。
ダメだ…力が出ない…
腕の力が抜けダラリと垂れ下がる。
高城も浦野と同じく意識を失う一歩手前まできていた。
たかみなさん…ごめんなさい…守れなかった…
目を瞑ろうとしたその時、自分の首に掛かっていた力が抜けた。
宙に浮いていた高城が地面へと落ちる。
あれは…
床に着くと同時に崩れ落ち倒れた視界に映ったのは小嶋の姿。
いや…違う…あれは…
高城はそこで力尽き意識を失った。
「あらら?これはどういうことなのかしら~?」
大堀が驚いたように言った。
隣にいた野呂も突如として目の前に現れた新手を睨み付ける。
「にゃんにゃん…?」
高橋が呟く。
確かにそこにいるのは小嶋。
しかしどこか違う。
高城のようにどこか雰囲気や空気が変わったのではなくもっと本質的な何か。
小嶋が小嶋でないかのような。
でもこの感覚は知っている。
「ちょっとだけ体借りるね、にゃんにゃん」
小嶋が呟く。
小さく微笑んだ顔は瞬く間に鋭い眼光を放つ。
それは目の前の二人に向けられて。
「驚いたな」
野呂が微笑を浮かべ囁いた。
「死んでも尚、AKBに執着するか」
高橋は野呂が何を言っているのか理解できなかった。
ただそれでも小嶋の異変はわかる。
そしてこの暖かく懐かしい感覚。
今までずっと隣にいた。
近くで支えていてくれた。
笑ったり泣いたりたくさんの思い出を過ごした。
涙が零れる。
あの日からぽっかりと空いた心の隙間。
もう会えないと思っていた。
過去の面影だけを追うしかないと思っていた。
会いたかったかもしれないではなく会いたかった。
「あっちゃん…」
高橋は目の前の小嶋に向かってそう囁いた。
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