「ど、どうなっとるばい…」

鳴きに鳴きを重ね北原はすでに三向聴。
さらにその牌は全て萬子。
そしてドラ3。

「さっしーはボンクラなんかじゃない」

「里英ちゃん…」

「いつも近くにいたからわかる」

AKBに入ってからここまで苦しいことも悲しいことも分かち合ってきた。
暗い闇の中をさ迷っている間もずっと傍にいてくれた。
そして今もこうして隣にいる。
今までも、これからも。

「ありがとう」

北原が聞こえるか聞こえないかもわからないほどの声で囁いた。
牌を掴むと一瞬でその目は獲物を捕える猛獣の目に変わった。

「カン!」











AKB48はその名の通り秋葉原を拠点とし活動する。
そのため遠方より通うメンバーは現地で下宿することとなる。
当事、研究生として寮に入っていた彼女たちを『地方組』と呼んだ。

「あー、また負けたばい」

寮には麻雀卓があった。
誰が持ってきたのかは知らないがいつの間にか置かれていた。
初めはやり方も知らなかった彼女たちだったが日に日に成長を遂げていた。

勿論、アイドルとしての精進を怠っていたわけではない。
朝から晩までレッスン漬け。
たまにある休みの日と夜な夜な卓を囲んでいたのだ。


それでも楽しかったのだ。
どんなにしんどくても、どんなに疲れていても。
卓を囲み麻雀をしみんなで笑いあうことが。

「里英は強かー」

「そんなことないよ、しーちゃんだってどんどん強くなってるし」

「ま、指原は一向に上達せんけどね」

「うるさいなー!今に誰よりも強くなるからね!」

ベランダから見える星空は格別でみんなで並んでよく眺めた。
そこにはあの人の姿もあった。
真っ暗な空に輝く星。
あの星のように輝けるように。
みんなで同じ舞台に立てるように。

「いつかみんなで掴もうや」

「うん、必ず」

「絶対ね」












「嶺上ツモ!!!」

王牌から引いた牌を叩きつける。
そして残った4つの牌も倒す。

あぁ…いつからや…

輝く星に近づきすぎて何も見えなくなっとった…

「清一色対々和嶺上開放ドラ4」

「さ、三倍満貫…」

圧巻の畳み込みに呆然とする大家。

「まだだよ」

カンをしたドラを捲る。
まるでスローモーションのように時が流れる。
この勢いを、このこの怒濤を、この流れを止められるものはいなかった。
運すらも抗うことはできない。

「乗りました」

「さらに…ドラ…3…」

「清一色対々和嶺上開放ドラ7…数え役満!」




~飛び終了~

1位 北原 78900点
2位 大家 25700点
3位 小森 2800点
4位 指原 -9900点



「完敗や…劣っとらんたい」

「うぅん、今回はヤバかった」

「なら…」

北原の見つめる先を見る。
そこには小森とじゃれあう指原の姿が。

「勝ったんだから莉乃って呼ぶの禁止ね!」

「えー莉乃ちゃん何もしてないじゃん」

「は?指原の神がかり的パスのおかげだから、てか狙ってたから!」

「嘘だー嘘って書いてるもん」

「え?どこどこ?」





「ふっ、変わらんなぁ」

「変わらないんじゃなくて変わらないようにしてきたんだよ、さっしーは」

「…………変わらないように………か…」

どんなものでも時が経つにつれ変化を遂げていく。
それは良くも悪くも様々な形を経て今に至る。
しかし決して変えてはいけないものがある。

「小森ー!待てー!」

「わ~莉乃ちゃんが怒った~」

「二人とも危ないよー」

あの頃と変わらない笑顔がここにはあった。






【地方組分断編・完】