「あぁ…ああああ…」

追っかけリーチを一発で掴まされた指原。
言葉が出ずその顔には不安だけが募っていた。
大家の勢いが未だ止められない焦りか自らの運の無さか。
指原は頭を抱えることしかできなかった。

「さっしー」

しかしここにまだ諦めない者がいた。

「さっきも一発掴んだよね?」

「う、うん…」

それは大家が親の五本場目。
大家のリーチに対する追っかけで一発を掴まされていた。

「もしかすれば…」

「…………?」

「まだ勝機はあるよ、さっしー」

北原が自信ありげに言った。
こと麻雀は運のゲーム。
逆転の目はあるにしろそれがくる確率は操れない。
限りなく0に近い可能性などなきに等しい。

「ど、どうやって?」

「それはさっしーが握ってる」

「さ、指原が?!」

北原は意味深に笑みを浮かべた。
突然の北原の言葉に大家も小森も少し動揺していた。
しかし最も動揺していたのは指原だった。

「さっしーの思うように打てばいいから」

その言葉の意味を理解できないままに頷いた。





東四局。
ここから奇跡の快進撃が始まる。

「チー」

指原の牌を北原が鳴く。

「ロン」

次巡で大家が捨てた三索で北原が上がる。

「断九ドラドラ3、親満」

「何かと思えばドラ絡みか」

一本場。
再び指原の牌を北原は鳴いていく。

(無理鳴きからの後付け断九…まだ張っとらん)

「リーチ!」

「ロン!断九、2300点!」

「な、なにぃ…」

じわりじわりと狙い撃つ。
遠かったその差。
しかし北原の鷹の目は大家の背中を捉えていた。

(やっぱりだ…)

北原の感じた違和感。
それは大家のツキではなく指原の不運だった。
大家の七連荘、指原が振り込んだのは三回。
そのどれもが追っかけか攻めにいった時だった。
確かに大家に流れはあった。
しかし彼女にツキはなかったのだ。
あったのは指原の圧倒的不運。
つまり指原は他人の危険牌を呼び込む逆のツキを持っていたのだ。

それを北原は見逃さなかった。



「ロン!断九ドラ、3600」
「も、もう…張っとる…だと…」

五万点あった点差はものの見事に縮まりその差12200点。
満貫で引っくり返るところまできた。

「ど、どないなっとるとや…こないに速いんはありえんたい…」

そうまだ気づかない。
指原の異質さを。
大家も小森もそして指原本人ですらも。



~東四局、三本場~

東 北原 31900点
南 小森 18800点
西 大家 43700点
北 指原 6100点



「指原は指原の思った通りに…」

北原の言葉を思い返す。
その言葉を信じ自分の思うがままに打ち進めていく。

「ポン」

運とは紙一重のものでしかない。
運を使い果たせばそこに活路はなく。
ましてや運を見抜くこともできないかもしれない。
しかし正しき目を持つ者がいたとしたならばそれを見逃すことはない。

「ポン」

危険牌を掴む。
それは運がないといえるだろう。
だが別の視点に立って見たのならその景色は変わってくる。
危険牌、それは他人からすれば喉から手が出るほど欲しい牌なのだ。

「ポン」

つまり必要牌を抱え込む才能。
他人の剛運に引き寄せられていく力。
つまりは的確かつ絶対的なパスを出すことのできる天賦の才を有しているのである。

もしもそれを己が力と示したならば二人打ちにおいて負けることはない。
しかしこれはあくまでもその才能を操れるだけの才能があれば、の話である。











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