「本当に大丈夫か?」

戸賀崎が心配そうに尋ねる。
北原は小さく頷いた。
もうその瞳に迷いはなく、目の前の牌に注がれていた。

「後悔しても知らんと?」

大家が北原に問い掛ける。

「後悔するのはあなたのほうよ」

「ふふっ…言いよる」





【2対2、トップ総取り半荘戦】

東 小森 25000点
南 大家 25000点
西 指原 25000点
北 北原 25000点





東一局。
先に動いたのは親の小森だった。

「リーチ」

五巡目即リーチ。
筋ひっかけや字牌待ちの可能性は低い。
さらにダマテンではないところからすれば待ちは随分悪い。

(強気でいけば通る)

北原の考えは正しかった。
次々と入ってくるのに対して不要牌は全て通る。
迎えた十巡目、北原テンパイ。
面断平ドラの満貫手。

(八萬は…安牌)

「リーチ!」





「ロン」

北原の耳に届いた声。
それはアガリ牌であるはずのない謂わばチョンボ。
しかし牌が倒される。
大家の牌が。

「断九平和ドラドラ、満貫」

進んでいたのは北原だけではなかった。
対面である大家も虎視眈々と狙っていたのだった。

「すまんね、里英」

大家が笑みを浮かべる。
大胆不敵な笑みを。

麻雀では流れが大事である。
上手く進むときは驚くほど手が進み、あと一歩のこないときはいつまでも引き入れることができない。
一度波に乗れば後は身を任せるように運はついてくる。
しかし躓いてしまったのなら立ち上がることは難しい。
勝者と敗者、その明暗をはっきりと分けるものそれが麻雀なのである。





「ロン!」

「ツモ!」

流れは完全に大家にあった。
怒濤のアガリで四本場。
北原、指原はその勢いを止めることすらできなかった。

「り、里英ちゃん…」

「大丈夫、まだ焦るところじゃない」

冷静を保つ北原。
しかしその内心は違っていた。
東一局の当たりが脳裏を過る。
あの一打が通らなかったこと、それが運を大家に持っていかれた。
北原は顔には出さぬも奥歯を強く噛み締めた。





「ふー、ようやく終わったばい」

北原が断九で流す。
気づけば七本場。
八連荘も見えた大家の恐ろしい連荘であった。



~東三局~

東 指原 11000点
南 北原 12000点
西 小森 18800点
北 大家 58700点



「勝負は見えたばい」

トップ総取りのルール。
つまり北原、指原が勝つためには大家の点数を捲る必要がある。
しかし大家もそう地雷は踏んでこない。
これだけ差があるのなら危険を回避すればいい。

「少しでも親の番で稼がなきゃ…」

指原が息を巻く。
静かに進む十三巡目。

「リーチ」

指原のリーチ。
指原には珍しく面断平の好形。

しかし仲間内で当たりあう必要もなく北原は降り。
小森も強引に突っ張る必要もなく降りる。
全員ベタ降りのまま流局かと思われたその時だった。

「リーチ!」

牌を強打したのは大家だった。

「ッ!!!」

「流れはまだ来とったみたいやね」

その迫力に指原がたじろぐ。
恐る恐る牌を掴んだ。
大家の流れに飲み込まれていた。

「それ、ロンばい」

牌と共に汗が滴り落ちる。

「リーチ一発平和、3900たい」





~東四局~

東 12000点
南 18800点
西 63600点
北 6100点











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