一度道を見失った。
一度ではなかったのかもしれない。
ずっと否、初めから道なんて見えていなかった。
それでもここにいてくれた。
手を差し伸べてくれる仲間たちが。
命消えて尚、共に歩んでくれる親友が。
帰ることのできる場所があった。
「終わらせようなにもかも」
ボタンを押した大島は迷いの消えたように告げた。
その顔には清々しさすらも感じ取れる美しい表情だった。
終わらせる。
それは積み上げた罪にでも犯してきた醜き事実にでもない。
今目の前で起きている惨劇に。
無関係な仲間を傷つけるこの愚行を終わらせる。
彼女の罪は簡単に消えるものではない。
どれだけ清く正しく生きようと、悔い改め贖罪しようともそれは決して消えない。
一生懸けて償わなければいけないもの。
だが勘違いしてはいけない。
人は変わることができる。
変わろうとする強い意志があるのなら。
「みんなで帰ろう、AKBに」
残るは大島、柏木の二人。
夥しい機械の塊は銃口を突きだし大島の方へと向いた。
これは『罪』の物語だ。
『罪』を背負った者を描いた物語である。
それは地獄の業火のように消えることはなくその身を永遠に焦がし続ける。
憎しみの炎に焼ききられるのか、はたまた懺悔の念に身を捧げるのか。
だが覚えておいてほしい。
いくら善人に生まれ変わろうと、いくら聖人として生きようと、『罪』は『罪』なのである。
そして命を奪ったのならばその末路はおぞましいものとなるだろう。
流れた血は必ず流すこととなるのだから。
銃口の奥からまるで誰かが覗いているのが見えるほど一直線に向かい立つ。
いざ目の前にするとその恐怖は格別であった。
しかし後は簡単なことだ。
一人回れば歯車は噛み合う。
もう何も疑うことはないのだから。
『この中に嘘つきがいる』
なぜか突然脳裏にその言葉が浮かび上がった。
カシャンッ…
カシャンッ…
金具の外れる音。
それは隣の渡辺から聞こえてきた。
「え…?」
大島は思わず声を漏らした。
視線を映したそこには固定された椅子から開放された渡辺の姿があった。
「麻友…どういうこと…?」
大島の頭の中は真っ白になった。
理解も把握もできない。
あまりに突飛すぎる出来事に疑問だけが溢れる。
「優子ちゃん言ってたでしょ」
渡辺は柏木の椅子の傍らでしゃがみこむと何かをいじる。
すると柏木の装具もまた簡単なほどに外れていく。
「画面に映し出されただろ、って…あれ図星だったんだよ」
渡辺は柏木の装具を外し終えると大島の方を向いた。
そして開放された柏木もまた立ち上がる。
「まあお互いに映ったものは違っていたんですけどね」
「『大島優子にボタンを押させろ』…それがわたしのノルマ」
「もしも大島さんが最後まで押さなかったら勝っていたんですよ、このゲームに」
二人の言葉にはどこか理解し難いものがあった。
あたかも初めからこれが起こることを知っているかのように。
まるでこのゲームが何を意図しているのかを知っているように。
「まさか…」
「えぇ、これは大島さんあなたを試すゲームです」
「あ、あんたたちは最初っからグルってこと…?」
「それだったらもっと気楽にできましたよ」
「あの人のことだから優子ちゃんが押さなかったときは本当に撃つ気だったんだよ、わたしを」
「あの人…?」
「え?まだ気づいてない?このゲームは秋元先生の指事」
そうこれは初めから仕組まれたゲーム。
女優になるために全てを捨てる覚悟があるのか否かの秋元からの最後の問題。
戸賀崎を殺め前田も殺した。
人外の道に踏み出し躊躇うことなく進んできた。
それなのに最後の最後で戻ってしまった。
人間の道へと。
「アンフェアなんて言わないでくださいね?」
「わたしたちも具体的な内容までは聞かされてはいなかった」
「大島さんと同じくこの場で命を懸けていましたから」
「じゃあ…嘘つきって…?」
大島の今にも消えそうな問い掛けに二人は微笑を浮かべた。
彼女に背を向けオートロックの外れた音がした扉へと向かう。
「待って!行かないで!」
大きく見るからに重そうな扉を渡辺が引く。
金属の軋む音が響き渡り外の世界が見えた。
そこは真っ暗な到底出口とは思えない場所。
「嫌!いやぁ!お願いだから!お願いだからもう一度だけチャンスを!」
「人生は一度きりしかないんですよ?悔いのないように生きなきゃ、『嘘つき』さん」
「いや!いやあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
大島の叫びがこだまする。
電光掲示板が時を一つずつ正確に刻んでいく音はもう彼女の耳には届いていない。
ただ零が揃うその時を恐怖に怯え待つしかない。
去っていく者たちはそっと別れを告げた。
「ゲームオーバー」
【第三部・6つの弾丸 完】
一度ではなかったのかもしれない。
ずっと否、初めから道なんて見えていなかった。
それでもここにいてくれた。
手を差し伸べてくれる仲間たちが。
命消えて尚、共に歩んでくれる親友が。
帰ることのできる場所があった。
「終わらせようなにもかも」
ボタンを押した大島は迷いの消えたように告げた。
その顔には清々しさすらも感じ取れる美しい表情だった。
終わらせる。
それは積み上げた罪にでも犯してきた醜き事実にでもない。
今目の前で起きている惨劇に。
無関係な仲間を傷つけるこの愚行を終わらせる。
彼女の罪は簡単に消えるものではない。
どれだけ清く正しく生きようと、悔い改め贖罪しようともそれは決して消えない。
一生懸けて償わなければいけないもの。
だが勘違いしてはいけない。
人は変わることができる。
変わろうとする強い意志があるのなら。
「みんなで帰ろう、AKBに」
残るは大島、柏木の二人。
夥しい機械の塊は銃口を突きだし大島の方へと向いた。
これは『罪』の物語だ。
『罪』を背負った者を描いた物語である。
それは地獄の業火のように消えることはなくその身を永遠に焦がし続ける。
憎しみの炎に焼ききられるのか、はたまた懺悔の念に身を捧げるのか。
だが覚えておいてほしい。
いくら善人に生まれ変わろうと、いくら聖人として生きようと、『罪』は『罪』なのである。
そして命を奪ったのならばその末路はおぞましいものとなるだろう。
流れた血は必ず流すこととなるのだから。
銃口の奥からまるで誰かが覗いているのが見えるほど一直線に向かい立つ。
いざ目の前にするとその恐怖は格別であった。
しかし後は簡単なことだ。
一人回れば歯車は噛み合う。
もう何も疑うことはないのだから。
『この中に嘘つきがいる』
なぜか突然脳裏にその言葉が浮かび上がった。
カシャンッ…
カシャンッ…
金具の外れる音。
それは隣の渡辺から聞こえてきた。
「え…?」
大島は思わず声を漏らした。
視線を映したそこには固定された椅子から開放された渡辺の姿があった。
「麻友…どういうこと…?」
大島の頭の中は真っ白になった。
理解も把握もできない。
あまりに突飛すぎる出来事に疑問だけが溢れる。
「優子ちゃん言ってたでしょ」
渡辺は柏木の椅子の傍らでしゃがみこむと何かをいじる。
すると柏木の装具もまた簡単なほどに外れていく。
「画面に映し出されただろ、って…あれ図星だったんだよ」
渡辺は柏木の装具を外し終えると大島の方を向いた。
そして開放された柏木もまた立ち上がる。
「まあお互いに映ったものは違っていたんですけどね」
「『大島優子にボタンを押させろ』…それがわたしのノルマ」
「もしも大島さんが最後まで押さなかったら勝っていたんですよ、このゲームに」
二人の言葉にはどこか理解し難いものがあった。
あたかも初めからこれが起こることを知っているかのように。
まるでこのゲームが何を意図しているのかを知っているように。
「まさか…」
「えぇ、これは大島さんあなたを試すゲームです」
「あ、あんたたちは最初っからグルってこと…?」
「それだったらもっと気楽にできましたよ」
「あの人のことだから優子ちゃんが押さなかったときは本当に撃つ気だったんだよ、わたしを」
「あの人…?」
「え?まだ気づいてない?このゲームは秋元先生の指事」
そうこれは初めから仕組まれたゲーム。
女優になるために全てを捨てる覚悟があるのか否かの秋元からの最後の問題。
戸賀崎を殺め前田も殺した。
人外の道に踏み出し躊躇うことなく進んできた。
それなのに最後の最後で戻ってしまった。
人間の道へと。
「アンフェアなんて言わないでくださいね?」
「わたしたちも具体的な内容までは聞かされてはいなかった」
「大島さんと同じくこの場で命を懸けていましたから」
「じゃあ…嘘つきって…?」
大島の今にも消えそうな問い掛けに二人は微笑を浮かべた。
彼女に背を向けオートロックの外れた音がした扉へと向かう。
「待って!行かないで!」
大きく見るからに重そうな扉を渡辺が引く。
金属の軋む音が響き渡り外の世界が見えた。
そこは真っ暗な到底出口とは思えない場所。
「嫌!いやぁ!お願いだから!お願いだからもう一度だけチャンスを!」
「人生は一度きりしかないんですよ?悔いのないように生きなきゃ、『嘘つき』さん」
「いや!いやあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
大島の叫びがこだまする。
電光掲示板が時を一つずつ正確に刻んでいく音はもう彼女の耳には届いていない。
ただ零が揃うその時を恐怖に怯え待つしかない。
去っていく者たちはそっと別れを告げた。
「ゲームオーバー」
【第三部・6つの弾丸 完】