「じゃあね」
篠田が立ち上がり静かに言った。
辺りは暗くなり漆黒の夜に純白の雪が深々と降り注ぐ。
「ありがとう…」
立ち去る背中に呟かれる。
その言葉に篠田の足が止まる。
「ほんとうにありがとう」
前田がもう一度言った。
その声は珍しく震えていた。
「有華も優子も麻里子も…みんながいたからここまでこれた」
嗚咽が聞こえた。
泣いているのかもしれない。
しかし篠田はあえて振り向かなかった。
「一人じゃここまでこれなかった…感謝してもしきれない」
この計画が始まって彼女がこうして気持ちを言うことはなかった。
いつも坦々とやるべきことだけを口にしていた。
否、普段から弱音や不安を見せることがない。
それはセンターという重責とアンチに耐えてきたが故だと思っていた。
「みんなの想い…絶対無駄にしたくない…」
違っていた。
どれだけ貶されようと、どれだけ罵声を浴びようと。
それをどれだけ跳ね返そうと。
彼女も普通より心の少し強いだけの女の子なのだ。
「わたしが全部終わらせるから」
最後の言葉は力強かった。
『AKB48ここの劇場でやってます』
絶えることなく流れてくる人々。
ひたすらチラシを渡す。
受け取っもらえない。
破り捨てられる。
それでも配り続けた。
何枚も何枚も。
「そういえばこんな寒さだったなぁ…」
立ち去る篠田が呟く。
ふと一人言のようにビラ配りしていた日々を思い返した。
『以上が合格者16人だ』
自信はあった。
ルックスで負けてる気はしなかったしスタイルも悪くはない。
しかし自分の名前は呼ばれなかった。
絶望で目の前が真っ暗になった。
『うぅ…うぐっ…』
珍しく涙が出た。
次から次へと溢れだし止められなかった。
涙を啜りながら会場を後にしようとした時だった。
『篠田』
男の声。
それがオーディションの時真ん中に座っていた最も立場の高い人であることはすぐにわかった。
顔を拭い振り返る。
『どうして君は落ちたのかわかるか?』
唐突な質問だった。
今は落選のことなど忘れたいというのに。
『君には大切なものが足りないんだ』
うるさい。
『ダイヤの原石…秘めた輝きというのか』
放っておいてくれ。
『努力と覚悟は嘘をつかないぞ』
その日からチラシを配り初め、後に正規メンバーにのしあがる。
「秋元先生…」
篠田が真っ暗な空を見上げる。
あの頃の記憶と重なる。
「努力と覚悟は嘘をつかないんですよね?」
静かに目線を下げ再び歩きだす。
その顔には覚悟が。
その心には努力が刻み込まれていた。
「ごめんね、あっちゃん」
白く染まった足場を踏み均す。
「あっちゃんの思うようにはいかせない」
篠田がいなくなって少しの間じっと何かを考えていた。
雪が頭に積もっているのに冷たさでようやく気づいた。
「優子…」
やはり彼女の脳裏には大島の件があった。
何者かによって突き落とされた。
それは正しく自分の部屋に書かれていたあの警告通り。
『計画ヲ中止シロ、サモナクバ不幸ガフリカカル』
相手は本気だ。
実際に手を下してきた。
これは最後の警告なのかもしれない。
もし自分が動けばどうなるのか。
恐らく大島と同じようにはいかないだろう。
さらに直接的に。
「それでも…やらなくちゃ…」
手は震えていた。
怖い、勿論怖い。
逃げてしまいたい。
しかし逃げることをこの五年間では学ばなかった。
常に挑戦と開拓。
「行こう」
その瞳に迷いはなかった。
篠田とは反対方向へと歩きだした。
そしてついに運命の日を迎える。
------------------------
こんばんわ
最近不定期更新で申し訳ありません
ですがようやく第二部もクライマックスに差し掛かってまいりました
Bの脅迫事件からKの照明器材落下事故
布石は揃いました
あとはAで起こるだけです
己の道をひた走る前田
反旗を翻さんとする篠田
計画を知った高橋
最後に微笑むのははたして誰か?
~AKBの奇妙な冒険~ 【第二部・女神の制裁】
クライマックスに乞う…少しだけご期待ください
篠田が立ち上がり静かに言った。
辺りは暗くなり漆黒の夜に純白の雪が深々と降り注ぐ。
「ありがとう…」
立ち去る背中に呟かれる。
その言葉に篠田の足が止まる。
「ほんとうにありがとう」
前田がもう一度言った。
その声は珍しく震えていた。
「有華も優子も麻里子も…みんながいたからここまでこれた」
嗚咽が聞こえた。
泣いているのかもしれない。
しかし篠田はあえて振り向かなかった。
「一人じゃここまでこれなかった…感謝してもしきれない」
この計画が始まって彼女がこうして気持ちを言うことはなかった。
いつも坦々とやるべきことだけを口にしていた。
否、普段から弱音や不安を見せることがない。
それはセンターという重責とアンチに耐えてきたが故だと思っていた。
「みんなの想い…絶対無駄にしたくない…」
違っていた。
どれだけ貶されようと、どれだけ罵声を浴びようと。
それをどれだけ跳ね返そうと。
彼女も普通より心の少し強いだけの女の子なのだ。
「わたしが全部終わらせるから」
最後の言葉は力強かった。
『AKB48ここの劇場でやってます』
絶えることなく流れてくる人々。
ひたすらチラシを渡す。
受け取っもらえない。
破り捨てられる。
それでも配り続けた。
何枚も何枚も。
「そういえばこんな寒さだったなぁ…」
立ち去る篠田が呟く。
ふと一人言のようにビラ配りしていた日々を思い返した。
『以上が合格者16人だ』
自信はあった。
ルックスで負けてる気はしなかったしスタイルも悪くはない。
しかし自分の名前は呼ばれなかった。
絶望で目の前が真っ暗になった。
『うぅ…うぐっ…』
珍しく涙が出た。
次から次へと溢れだし止められなかった。
涙を啜りながら会場を後にしようとした時だった。
『篠田』
男の声。
それがオーディションの時真ん中に座っていた最も立場の高い人であることはすぐにわかった。
顔を拭い振り返る。
『どうして君は落ちたのかわかるか?』
唐突な質問だった。
今は落選のことなど忘れたいというのに。
『君には大切なものが足りないんだ』
うるさい。
『ダイヤの原石…秘めた輝きというのか』
放っておいてくれ。
『努力と覚悟は嘘をつかないぞ』
その日からチラシを配り初め、後に正規メンバーにのしあがる。
「秋元先生…」
篠田が真っ暗な空を見上げる。
あの頃の記憶と重なる。
「努力と覚悟は嘘をつかないんですよね?」
静かに目線を下げ再び歩きだす。
その顔には覚悟が。
その心には努力が刻み込まれていた。
「ごめんね、あっちゃん」
白く染まった足場を踏み均す。
「あっちゃんの思うようにはいかせない」
篠田がいなくなって少しの間じっと何かを考えていた。
雪が頭に積もっているのに冷たさでようやく気づいた。
「優子…」
やはり彼女の脳裏には大島の件があった。
何者かによって突き落とされた。
それは正しく自分の部屋に書かれていたあの警告通り。
『計画ヲ中止シロ、サモナクバ不幸ガフリカカル』
相手は本気だ。
実際に手を下してきた。
これは最後の警告なのかもしれない。
もし自分が動けばどうなるのか。
恐らく大島と同じようにはいかないだろう。
さらに直接的に。
「それでも…やらなくちゃ…」
手は震えていた。
怖い、勿論怖い。
逃げてしまいたい。
しかし逃げることをこの五年間では学ばなかった。
常に挑戦と開拓。
「行こう」
その瞳に迷いはなかった。
篠田とは反対方向へと歩きだした。
そしてついに運命の日を迎える。
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こんばんわ
最近不定期更新で申し訳ありません
ですがようやく第二部もクライマックスに差し掛かってまいりました
Bの脅迫事件からKの照明器材落下事故
布石は揃いました
あとはAで起こるだけです
己の道をひた走る前田
反旗を翻さんとする篠田
計画を知った高橋
最後に微笑むのははたして誰か?
~AKBの奇妙な冒険~ 【第二部・女神の制裁】
クライマックスに乞う…少しだけご期待ください