K公演での照明機材落下事故。
幸いなことに怪我人はでず大事には至らなかった。
当初整備不行きと見られていたものの接続部分に故意的損傷が見られた。
それは事故ではなく事件を意味すると共に先日の出来事が脳裏を過る。

『公演ヲ中止シロ、サモナクバ不幸ガフリカカル』

この2つの事件が結びついていることは無論であった。
ついに起こった惨事に焦る運営。
しかしAKBの命運を握る男の決断はノーだった。





「ここで彼女たちの活動を中止させるというのか?」

秋元が鋭い眼光を放つ。
示談にきていた支配人代理の男が秋元の迫力にたじろぐ。

「し、しかし…このままでは本当に怪我人が…いや、怪我ではすまない場合が…」

しどろもどろに男が言う。

「いま活動を中止すればこの勢いは消える必ずだ
そんなことをメンバーも望まない…勿論我々もな」

弱気な懇願が彼の耳に届くはずもなかった。

「ゴーだ、彼女たちはこのまま活動を続けさせる」

それは非情故の決断か。
彼の表情に迷いの色は一切感じられなかった。

「し、失礼します…」

支配人の男が力なく部屋を後にする。
その姿が扉の向こう側に消えると秋元の口元は小さく綻んだ。

「ふっ…前田」

彼のいる部屋、そこにある棚には無数のトロフィーが並んでいる。
その中に一枚の写真がひっそりと置かれていた。
それを秋元は見つめる。
じっと何かを考えるように。

「果たして最後に微笑むのは君かな…前田」












時を同じくし前田は一人歩いていた。
そこは増田と大島が決意を決めた紅葉街道。
この季節は驚くほど早く移り行く。
ほんの一、二週間前までは赤と黄に彩られたその場所も枯れ落ちてしまい見る影もない。

「・・・・・」

前田は降り積もった落ち葉の上を歩む。
その瞳は悲しみの虚ろか復讐の炎かはわからない。
ただ一つの志に染まっていた。

「あっちゃん」

左を振り抜く。
そのベンチに篠田が座っていた。

「ごめん待った?」

「ううん全然」

篠田の隣に腰掛ける。

「聞いた?優子のこと」

「うん…」

前田は視線を落とし落ち葉を見つめる。

「誰かに突き落とされたんだってね…」

昨夜の公演の後、帰路に着く大島は階段から転落したのだ。
しかも彼女は突き落とされたのだと言う。
命に別状はなかったが足を骨折し全治一ヶ月らしい。

「計画はこのまま実行するよ」

前田は力強く呟く。
そう言うことを篠田もわかっていた。

「優子からも電話きた
わたしのことは気にせず頼んだ、だってさ」

大島からは前田にも連絡がきていた。
彼女の気持ちは重々受け取った。

「Bの脅迫事件、Kの事故
これだけの不祥事を起こしながら何の対策もとらなかった運営
残るはわたしたちA
鉄槌を下し終止符を打つ」

隣にいた篠田は感じた。
前田の熱気を。
平然とした表情の裏に燃えたぎる炎。
まるで彼女の体から白い湯気が出ているかのような錯覚に陥る。
しかしその気持ちは確かに何かを溶かしていた。

「あっ」

篠田がふと上を見上げる。
白い天使たちがぽつぽつと降り注ぐ。

「風は吹いている」

その日都内で初雪が観測された。