楽屋荒らしによる脅迫事件は一夜にしてメンバーに広がった。
「メンバーの管理頼むぞ」
「はい…」
高橋は小さく頷いた。
彼女は支配人代行に呼び出され今後の対応を聞かされていた。
話し終え部屋から出ていく。
高橋も内心穏やかではなかった。
衣装が盗まれることはよくあった。
しかしこうした脅迫というものは全くの初体験。
身に迫るかもしれない恐怖を感じていた。
そんな時、また彼女の顔が浮かぶ。
「あっちゃん…」
まさか今回の件は前田が仕組んだことではないのか。
そんなことを考えてしまう。
「バカ…わたしが信じなきゃ誰が信じるの」
心がざわつく。
こんなときはあの場所に行きたくなる。
自分たちの彼女自身の原点。
タクシーに乗り込む。
高橋は迷うことなく運転手に行き先を告げた。
「秋葉原のドンキまで」
「お客さん、着きましたよ」
「あ、すいません…ありがとうございました」
高橋はお金を払いタクシーから降りる。
劇場へと向かう。
しかし昨夜の事件のせいか正面からは立ち入り禁止になっていた。
「ここからは入れないのか…」
今思えばどうしてあんなに行きたかったのかわからない。
ただ劇場は始まりの場所でもあるから。
高橋の脳裏にもう一つのルートが浮かび上がる。
それは秘密の抜け道。
「あの頃思い出すなぁ…よいしょっと」
黄色く彩られた建物の裏手に回る。
そこにある空調設備の機器の山をよじ登る。
3つ4つ登ったちょうど手の届くところを軽く叩く。
コンコン・・・
コンクリートで埋められた壁がそこだけ空洞のような音が鳴る。
「やっぱり変わってないや」
高橋の顔に笑みが浮かぶ。
懐かしさを感じた笑み。
高橋はその部分の壁を強く押す。
そこに嵌め込まれていたベニヤ板が外れる。
ちょうど人一人が通ることのできる隙間。
外からは全くわからない。
しかも人通りのない裏路地。
「懐かしいや…よくあっちゃんとここから入ってたなぁ…」
それは五年前。
彼女たちがまだデビューする前のこと。
ダンスに歌、初心者の彼女たちにとってそれらは困難を極める。
多忙さ故に寝坊や遅刻をしたときには秘密にここから入っていた。
「さりげなくレッスンに加わってたっけ」
高橋が遠くを見る。
そしてベニヤ板を元に戻した。
「相変わらずここは汚いなぁ~」
埃が降り積もり蜘蛛の巣が至るところに張られている。
窓はなく光が入らないこの部屋は実に陰湿な空気を醸し出していた。
しかしこの感じが懐かしく好きだった。
本当にいろんなことがあった。
たくさんの思い出が詰まっている。
この場所にもAKBにも。
そして彼女の心に一つの決心がついた。
もう疑うことはやめようと。
どれくらいかの時間をその場で過ごした。
ただ座っていただけ。
それでも心は落ち着いた。
「そろそろ行かないとな」
仕事は安息を与えてくれない。
超多忙な彼女たちに息つく暇などなくスケジュールは組み込まれている。
高橋が立ち上がる。
それと同時に正面の扉が開く音がした。
「!?」
咄嗟に隠れる。
スタッフであっても立ち入り禁止の中にいれば怪しまれる。
しかしそこに入ってきたのはよく聞き慣れた声だった。
「次は優子だよ、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫、任せなさいって」
まさかとは思った。
聞き間違いだと何度も思った。
しかしそれは紛れもなく前田敦子と大島優子の声だった。
「メンバーの管理頼むぞ」
「はい…」
高橋は小さく頷いた。
彼女は支配人代行に呼び出され今後の対応を聞かされていた。
話し終え部屋から出ていく。
高橋も内心穏やかではなかった。
衣装が盗まれることはよくあった。
しかしこうした脅迫というものは全くの初体験。
身に迫るかもしれない恐怖を感じていた。
そんな時、また彼女の顔が浮かぶ。
「あっちゃん…」
まさか今回の件は前田が仕組んだことではないのか。
そんなことを考えてしまう。
「バカ…わたしが信じなきゃ誰が信じるの」
心がざわつく。
こんなときはあの場所に行きたくなる。
自分たちの彼女自身の原点。
タクシーに乗り込む。
高橋は迷うことなく運転手に行き先を告げた。
「秋葉原のドンキまで」
「お客さん、着きましたよ」
「あ、すいません…ありがとうございました」
高橋はお金を払いタクシーから降りる。
劇場へと向かう。
しかし昨夜の事件のせいか正面からは立ち入り禁止になっていた。
「ここからは入れないのか…」
今思えばどうしてあんなに行きたかったのかわからない。
ただ劇場は始まりの場所でもあるから。
高橋の脳裏にもう一つのルートが浮かび上がる。
それは秘密の抜け道。
「あの頃思い出すなぁ…よいしょっと」
黄色く彩られた建物の裏手に回る。
そこにある空調設備の機器の山をよじ登る。
3つ4つ登ったちょうど手の届くところを軽く叩く。
コンコン・・・
コンクリートで埋められた壁がそこだけ空洞のような音が鳴る。
「やっぱり変わってないや」
高橋の顔に笑みが浮かぶ。
懐かしさを感じた笑み。
高橋はその部分の壁を強く押す。
そこに嵌め込まれていたベニヤ板が外れる。
ちょうど人一人が通ることのできる隙間。
外からは全くわからない。
しかも人通りのない裏路地。
「懐かしいや…よくあっちゃんとここから入ってたなぁ…」
それは五年前。
彼女たちがまだデビューする前のこと。
ダンスに歌、初心者の彼女たちにとってそれらは困難を極める。
多忙さ故に寝坊や遅刻をしたときには秘密にここから入っていた。
「さりげなくレッスンに加わってたっけ」
高橋が遠くを見る。
そしてベニヤ板を元に戻した。
「相変わらずここは汚いなぁ~」
埃が降り積もり蜘蛛の巣が至るところに張られている。
窓はなく光が入らないこの部屋は実に陰湿な空気を醸し出していた。
しかしこの感じが懐かしく好きだった。
本当にいろんなことがあった。
たくさんの思い出が詰まっている。
この場所にもAKBにも。
そして彼女の心に一つの決心がついた。
もう疑うことはやめようと。
どれくらいかの時間をその場で過ごした。
ただ座っていただけ。
それでも心は落ち着いた。
「そろそろ行かないとな」
仕事は安息を与えてくれない。
超多忙な彼女たちに息つく暇などなくスケジュールは組み込まれている。
高橋が立ち上がる。
それと同時に正面の扉が開く音がした。
「!?」
咄嗟に隠れる。
スタッフであっても立ち入り禁止の中にいれば怪しまれる。
しかしそこに入ってきたのはよく聞き慣れた声だった。
「次は優子だよ、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫、任せなさいって」
まさかとは思った。
聞き間違いだと何度も思った。
しかしそれは紛れもなく前田敦子と大島優子の声だった。