某月某日。
何も知らされぬまま集められた子羊たち。

「おはよー」

柏木が楽屋に入る。
そこにはもう大半のメンバーが集まっていた。
机に置かれたお菓子を一つほおばる。

「よしっ、最終チェックしとこっかな」

それはいつもと何ら変わらない日のはずだった。
歌って踊る、お客様に全力のパフォーマンスをする。
まさかあんなことが起こるなんて。






「あ~眠っ」

「みゃお!」

「は~い」

昼公演前。
立ち位置、移動などの最終確認を終えステージ衣裳に身を包んでいた。
わたしの心は今か今かと高ぶっていた。

「あーもぉーだれー?わたしのお菓子食べたのー」

佐藤すみれがわめき声を上げる。
放っておけばすぐに黙る。
こんなことはいつものことだ。

「ここに置いてあったやつだってー」

「知らないし、ほんと知らないし」

「絶対みゃおじゃんーこのお腹に入ってるに決まってるじゃんー」

正直やかましい。
本番前の緊張感などあったものではない。
他のチームならこんなことはないのだろう。
しかしこれがBのよさだ。

しかしその日はやはり何かが違っていた。



「ちょっとさ!まじでうっさいんだけど!」

怒号が飛ぶ。
それは小林の声。
一気に部屋の空気が固まる。

「ほんまやで!あんたらちょっとはプロ意識持ったらどないや!」

小林に続くように増田も声をあらげる。



わたしたち新チームBは2つの派閥に内部分裂していた。
比較的年齢の若い宮崎、佐藤を中心とした集団。
そしてもう一つが旧Kの面々。
増田、小林たちは旧Kに対する思い入れが強く度々宮崎たちと争うことがあった。
不穏な空気が流れるもののここまでなんとかやってこれた。

それでも今日は何かが違っていた。



「えぇ加減にせえよ、あんたら!」

「やる気がないなら帰れよ!」

いつもは一方的に怒鳴って終わる2人が中々止まらない。

まずい、そう思った。
もうすぐで公演が始まる。
この空気のまま出演すれば怪我の恐れもある。

柏木は2つの間をおさめるために立ち上がった。
その瞬間だった。



「いい加減しつこいよバハア」

何気ない呟き。
しかしそれはあからさまな悪意が込められていた。
消えそうでだが確実に聞こえるだけの大きさ。
それは小林たちの耳に当然入る。

「あ?」

一触即発。
爆発寸前。
険悪なムードだけが流れる。
誰一人として言葉を発しない。
立ち上がった柏木でさえ間に入るのを躊躇った。

「皆さん出番です!」

それはタイミングが良かったのか悪いのか。
最悪の雰囲気のまま公演の時を迎える。
各々が立ち上がりぞろぞろと移動を開始する。



柏木は呆然としていた。
何もできない自分の無力さに。

もしもシンディーなら…

佇む彼女だけを残し立ち去っていく。
その背中に悔恨の念だけが浮かぶばかりだった。











そして運命の日が幕を開ける。