誰?

深い闇の中、女は目を凝らした。
見るという表現はおかしいのかもしれない。
けれども必死に見た。
見ることしかできないから。
待つことしかできないから。



やっと迎えにきてくれたのかな

遅いよ

レディーを待たせるなんて



白馬の王子様なんて待っていない。
そっと手を差し伸べてくれる。
ここから引きずりだしてくれる。
それだけでいい、それだけを待っている。



どれくらい待っただろう?

待って待って待ち続けた

待つしかできないから



闇が少しずつ壊れていく。
パズルのピースが剥がれるように。



眩しい

そうだ

思い出した

あれが光か
























「ん…うぅ…」

目が覚めた。
そこには知っている顔が並んでいた。

「よかった、無事で」

前田が微笑みながら言う。
篠田は起き上がり周りを見回した。

「これ…わたしがやったんだよね…」

崩壊したビル。
至るところに転がる残骸。
見るに堪えない悲惨な光景が広がっていた。
そして仲間もいなくなっている。

「わたしのせいで…」

篠田は絶望にうちひしがれた。
自分の犯した罪を感じて。

「そんな顔するなよ、麻里子」

大島が近くに寄る。
彼女もその気持ちをわかっているから。
仲間を殺めるという一度犯した罪。
慰めることしかできない。
ただ慰めることしか。

「どうする?あっちゃん」

大島が篠田の背中を擦りながら訊ねた。
しかし前田は無言のままである。
それもそのはずだ。
当初の計画は潰えた。
残されたのはたった四人だけ。
手を打とうにもそれだけの力がない。
四人の心に絶望だけが広がっていたときだった。
森が何かに気づく。

「うそ…」

その声に三人は振り向く。
そこには何もない空間に空いた亀裂。

バキッ

それは更に大きく広がる。
空が墜ちる。
大地が裂ける。
世界そのものが崩壊を始めていた。

「まずい!さっきのエネルギーでこの世界そのものが保てなくなってる!」

前田が慌てて叫んだ。
しかしどうしようもない。
防ぎようもない天災のようなもの。

あの穴…最初に空いたあの部分…

咄嗟に見つめた先。
前田には一つだけ考えがあった。
それが可能なことかわからない。
不確かで保証のされたものではない。
ただ可能性が0でないのなら。

「三人とも、飛び込んで」

始めはその意味がわからなかった。
前田が駆ける。
刻み込まれた次元の歪み。
そこへ渾身の一撃を放った。
それは時間を越え空間を越え次元を越えて。
小さな亀裂を突き破り大きな空間の穴を生み出した。
そこへと入るということを自然と理解した。
森が飛び込み、篠田が滑り込む。
残る大島が懸命に手を伸ばした。

「優子!」

繋がった掌。
しっかりと温もりを感じた。

四人のいる空間以外の全てが消え去る。
漆黒だけが残る。
何もない、時間も次元もない。
もうそこに世界というものは存在しない。
崩壊したバーチャル空間の果て。





そして終わりが鳴り響く。










『ゲームオーバ~ゲームオーバ~』











四人しかいない暗黒の空間に虚しく響いた。