闇。
蠢く。
飲み込んでしまえ。
押さえつけるものは全て。




「いいね?確認するよ」

前田が具体的な策を復唱する。

「まずは大場ちゃん、できるだけ巨大な氷塊を作って」

大場が頷く。

「それをまりやちゃんが空間を削除して上空へ運ぶ
次はあきちゃ、最大限のベクトルを氷塊に与えて」

永尾と高城が共に頷く。
そして前田が真剣な面持ちで森を見た。

「これには杏奈ちゃんのがんばりが必要になる」

「はい」

「3人で造り出したエネルギーをあなたの空間を媒介する能力にぶちこむ
おそらく空間を媒介するということはこの世界の空間そのものにも影響が及んでるはずなの
それならその空間の狭間に大きな力を与えれば何かしらのダメージをうけるはず」

実際そうなる保証はない。
本当に上手くいくのかもわからない。
しかしそれしかなかった。
考えうる全ての可能性。
これが最善の策。
机上の空論でもそれを現実にする。
この世界ではそうなってきた。
理想が現実に、自分たちの手で変えるしかない。

「優子」

前田が大島に声をかける。

「へへっ、ごめんね役に立てなくて」

実は彼女は永尾たちとの一戦から目を覚まして以来『泣きながら微笑んで』の能力が消え去っていた。
全くの無力、強力なる能力を有する彼女たちの中では意味をなさなかった。

「ううん、優子には大切な役割があるの」

「え?」

「空間の狭間に大きな力を与える
そこでできた亀裂にわたしが全ての力をかける
でもそれをしたら自分自身どうなるのかはわからない」

大島も薄々気づいていた。
前田が自分の身を犠牲にしようとしているのを。

「なんとしても成功させる、でももしわたしが戻ってこれなかったら…AKBをお願い」

それ以上彼女は何も言わなかった。
初めから最悪を考えたくないのかもしれない。
否、そうなると感じているのかもしれない。
ただ前田の顔は不安に彩られてはいなかった。
明るい希望と未来を見据えていた。



「帰ろう、元の世界へ」

前田が力強く踏み出した。










ドオオオオオオォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオ!!!!!!











神は彼女たちに多くの試練を与えた。
それら全て乗り越えここまでやってきた。
それでもまだ足りないというのか。
何を試そうというのか。





大きなビルが倒壊する。
激しい雑音と共に砂埃を立てる。
そして不気味な声も聞こえてくる。

「ゴイケぇぇぇえええ~~~~~~」

動くというより蠢く。
汚いというより夥しい。
哀れというより醜い。

「なに…あれ…?」

目の前に現れた異様な怪物に永尾が驚きの声を漏らす。
その姿はありとあらゆるものが混ざりあい図体は秋葉原に建ち並ぶビルよりも高い。
人とは判断できない、ただ物が合わさった物。
踏み鳴らすその後に何も残らない。
全てが吸収されていく。

「一体なんだっていうの、あれは?」

前田ですらも予想外。
正体すら想像のつかないそれを前に6人は絶句する。

「まさか…」

高城の脳裏に過るのは沈めたはずの敵。

「多分、あれは…」

5人が一辺に彼女の顔を見る。

「麻里子様…篠田麻里子」










暴走し全てを呑み込まんとする篠田。
それに対するはたった6人の少女たち。
本当に最後の大勝負。
AKBの命運は託された。