まるでそれは怪物の如く。
全てを蹴散らし、全てを呑み込み突き進む。

前田は言葉を失っていた。
現実でもこんなもの見たことなどない。

どうすれば?

思考を張り巡らせる間もなく竜巻は二人の元へと迫る。
自然の猛威。速さ。
気づいたときにはもう遅い。
彼女たちにそれを回避する術はなかった。

「痛ッ!」

竹内が叫ぶ。
それは風に巻き上げられた砂だった。
この軟らかな砂でさえも怪物の前では凶器と化す。

(まずい、この距離でこれだけの圧力
あんなものに直接巻き込まれたら…)

前田は少しでも回避するために駆ける。
しかし…。

「!?…美宥ちゃん!」

前田の後ろで竹内が倒れていた。
すでに一時間近く砂漠地帯を歩いている。
足には相当の疲労が生じているはずだ。
中学生の竹内には負担が大きすぎた。

どうする?

助けにいく?

でも今戻れば確実に…

もうすでに巨大な竜巻はすぐそこまで迫っていた。
呑み込まれてしまえばどうなるかわからない。
最悪、死を意味することもある。



躊躇いはなかった。



前田は竹内の元へと駆け寄る。
肩に手を回し起き上がらせる。

「前田さん…」

前田は何も答えずすぐにその場から移動しようとした。
しかし時すでに遅し。

「前が…見えない…」

暴風と砂が二人を襲う。
視界はほぼ消えていた。
体を持っていかれそうなほどの風圧。

(耐えろ…耐えるんだ…通りすぎるのを…)

その瞬間だった。
竹内の体の体勢が崩れる。
それを荒れ狂う風は見逃さなかった。

「きゃあっ!」

一気に体を持っていかれる竹内。
前田は必死に手を伸ばした。

(お願い…掴まって!)

前田の願いが届いたのか二人の伸ばした手が繋がる。それは幸か不幸か…。

「あ…」

一陣の風が立ち込め二人諸とも竜巻の中へと吸い込まれていった。