【SF小説】

Psy-Borg

~静寂⑰~

 

私という現象。

 

複数の個体を有した一つの集合意識。

 

今の地球人から見れば、その時の私は複数の人の集まりに見えただろう。

 

個体という制限された範囲の中で経験し、習得した事柄を一つの意識で共有していく。

 

それを繰り返しながら他者意識との融合を行いう。

 

そして、その星の寿命の中で、その星系全ての意識としてアカシアに溶け込んでいくのだ。

 

それがこの宇宙全体の摂理だ。

 

だが、惑星と衛星、お互いの重力の影響で、共に自転周期を狂わせたこの地球と月という星は、既に後戻りのできない状況になっていたのだ。

 

地球の自転は早まり、人々は月の重力の影響によりバイオリズムを作り変えた。

 

肉体の衰えは早まり、成熟されないままの意識はその衰退と共に行き場を失い、地表をさまようようになったのだ。

 

これがどういうことか、わかるだろうか?

 

肉体に収監され、互いに意識下で語らうことができなくなったことによって、精神は肉体という制限された個体から離れることができず、共有した意識を作り上げることができなくなってしまっていたのだ。

 

意識が肉体に固執し始めたのだ。

 

意識は自我を保ったまま、記憶を不完全に消化したまま、ヤドカリのように次の肉体を求めるようなった。

 

意識がアカシアに昇華する事ができなくなったのだ。

 

肉体から滲み出した個々の意識を、互いに認識する事ができなくなってしまったのだ。

 

 

はるか昔に新たなる候補地を探しに旅立った探索隊は、いずれいくつかの候補地を捜し出し、我々全てが安寧に住める場所を見つけてくるだろう。

 

そして、この操作を施したこの星、地球がどのような発展と成長を遂げたかを確かめに戻ってくるだろう。

 

わたしは知った。

 

時間の理を狂わし、空間の歪みを産み出してしまったことの間違いを。

 

帰還する彼らは、この精神的成長を満たす知性よりも、時間的制約の中で充足をあたえる物質と知能を優先させて育ってしまったこの星の知的生命体を見てどのように感じるのか?

 

物質、科学、知識の結集。

 

物事の効率に特化したロボット達。

己の肉体に、様々な細工を施したサイボーグ達。

人の型に人工的な知能を搭載した人と変わらぬアンドロイド達。

そして、感情と意識すら得ようとしている人工知能達。

 

この地球上の人々が、その歪であまりにも物質的な新たなる生命を産み出してしまったことを。

 

その死ぬことを知らない命が、この惑星を満たそうとしている。

 

それは宇宙意識全体の歪みとして、この辺境に特異点を作り出してしまった。

 

我々はこの現状を見て、どのような決断をするのか。

 

そして我々は下すだろう。

 

宇宙全体の意識の秩序からはみ出してしまった証拠を消すためのあまりにも身勝手な、滅亡という決断を。

 

その時は近づいている。

 

つづく

 

オリジナル小説 

Psy-Borgシリーズ

※Psy-Borg プロトタイプ

精神感応義体


※イサイマサシコラボ小説「頭の中の映画館」

終末の果実


※Psy-Borg意識の発端の物語

飾り窓の出来事


※アンドロイドと人工知能の錯綜

ORGANOIDよ歩行は快適か


※過去と魂の道程の物語

邂逅


※人工知能は世界平和の夢を見るか?

錯乱の扉


※神との遭遇のお話し

静寂


 

Psy-Borg 参考文献 レビューはこちらから


 

自己紹介「そろそろ自分のことを話そうか

 

自費出版書籍amazonにて取り扱い中です。


Psy-borgPsy-borg
1,760円
Amazon