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https://booklog.jp/item/1/4865591397
少し前に買っておいた本ですが、結果的に結婚10周年を前に滞在先のバンコクで読むことになった本。
日本を代表する思想家のひとり、内田樹氏による結婚論。
著者の豊富な人生経験から出てくる言葉は結構保守的な匂いはするものなのですが、結婚というものに対する個人と社会、国家との関係、についてもそうですが、結婚とは幸せになるためということではなくセーフティネットである、という位置づけがあることを教えてくれます。
思想家・哲学者って、一般人が何気なく無意識的に考えたり行動していることを顕在化してくれるようなところがあります。ある種の矛盾や非現実性があるものですが、アナーキズム(無政府主義)に共感しているところもあります。自由経済のもと利益を最大化することを日々実践しようとしている経済人の端くれとしてリバータリア二ズム(自由至上主義)に傾倒もしているわけではありますが。
結婚に対する歴史的な考察、著者が男性だからですが女性から見た結婚や男性への視点、またLGBT、離婚について、なんかについてはこの本ではあまり触れられていませんけれども、結婚に懐疑的な独身の人、既婚者で夫婦関係を改めて考えてみるひとつのきっかけにするにはまあまあいい本ではないでしょうかね。
かくいう私も。
読書メモ↓
・結婚が困難だとされているのは、「なかなか結婚できない」「結婚生活が苦しい」とされている。結婚が「誰にでもできるものでなければならない」ことが見落とされているからではないか
・「もっといい人」は現れない
・結婚しちゃえばだいたい同じ。どんな人でも男の日常生活はそれほど変わらない
・親が子どもに教えられることは、一緒にいた18年間伝え続けてきたのだから、その結果としてこの人を選びました、と言われたら はい としか言いようがない。それが子育ての成果
・男が未婚のまま40歳を迎えるのは問題。結婚は男が成長するための最良の機会
・舞い込んできた縁談のようなご縁を大事にする人がわりとすぐに結婚してしまう。与えられた条件でベストを尽くすことができる人は結婚に対してあれこれ条件をつけない
・結婚というのは、人生の危機を生き延びるための安全保障。結婚は病気や貧乏をベースで考えるもの
・目の前にいる人よりももっとましな相手がいるんじゃないか、というのは「自分はこんな程度じゃない」という自負の裏返し
・仲人口が持ってくる話はじつはかなり精度が高い外部評価。縁談というのは社会的訓練の機会でもある
・結婚候補者が決まった後に本当に大丈夫か迷ったときは一緒に海外旅行に出かけるのがよい。そうすると相手が結婚できる相手かどうかすぐわかる
・海外旅行では必ずトラブルに遭遇する。そこからどう脱出するか、どう切り抜けるか、そこにその人の配偶者としての適性があらわになって出てくる
・よい配偶者は、そういうときに文句を言わない人。他責的なことを言う人は配偶者には向かない
・海外旅行は、結婚生活で遭遇するトラブルの際に配偶者が対応する予告編
・配偶者を選ぶときに絶対見ておかなければいけないことは、「健康で、お金があって、万事うまくいっているときにどれくらいハッピーになれるか」のピークではなく、「危機的状況のときに、どれくらいアンハッピーにならずにいられるか」の「危機耐性」である
・配偶者としての適性は結婚してみないとわからないということもほんとう
・自分が父性愛を持っているか持っていないかは、子どもを持ってみない限り、絶対にわからない。ポジションに立ってみないとその能力が備わっているかどうかはわからないのと同様
・人間の中にはいろんなタイプの配偶者特性が潜在的に眠っている。どんな人と結婚しても「自分がこんな人間だとは知らなかった」ような人格特性が登場する。配偶者が変われば結婚しているあなたは別人になる
・自分の中の潜在可能性は配偶者が変わるごとに、友人が変わるごとに、環境が変わるごとに、仕事が変わるごとに、そのつど新たに発現してくる
・ある人と結婚したことによって登場してくる人格要素は、別の人と結婚したらおそらく登場してこない。だからこそ結婚は一期一会。男女が出会って、恋愛関係が始まった段階で、人はたった一つ後戻りのできない道を歩み始めている
・人間の成長にかかわることには時間をかけた方がいい。矛盾だと思っていた要素が矛盾していないことがわかってくる
・日本における憲法9条と自衛隊の存在は一見すると矛盾しているように見える。憲法9条を日本人に与えたのはアメリカ。日本を未来永劫軍事的に無害化することがアメリカにとって優先順位の高い課題となったときには9条を制定し、日本を軍事的に有用化することがアメリカにとって優先順位の高い課題になったときには自衛隊の創設を命じた。アメリカのそのつどの国益を最大化する中で見れば、9条と自衛隊はまったく無矛盾的
・現代の結婚問題とは、じつは半分は雇用問題。結婚が難しくなっていることの一因は雇用状況の悪化
・男女雇用機会均等法は、低賃金・高能力労働者の大量創出をめざしたもの。戦後の大きな社会構造の変化は、男女の性的なふるまいの差を消す流れにあった。それ自体は社会の近代化・合理化の帰結。だが営利企業の経営者が言い出したら、ことが個人の幸福や自由に関わるはずがないということには気づいた方がよい
・これらの動きはグローバル資本主義が原理的に要請してくることであり、個人の努力でどうすることもできない。できることはどうしてこんなことになっているのかその理由を考えること
・人口が減少して消費市場が消滅することをグローバル資本主義者たちは気にしていない。一世代先のことはどうでもいい。現在の利益が最大化して資産が増えるなら先のことはどうでもいいと思っているもの
・「今しかない」人たちが今の社会の制度を作り、運営している
・下村治 日本列島で生活している人々がどうやって雇用を確保し、所得水準を上げ、生活の安定を享受するか、これが国民経済である
・企業経営者やエコノミストも経済活動の目的はおのれの個人資産をどこまで増やすかの競争。企業の当期利益を最大化するかを目標に行われている活動は国民経済ではない。経済活動は雇用を創出し、労働者の雇用環境を改善し、みんながハッピーに暮らせるようにするために営まれるべきもの
・お金がないから結婚する、というように頭を切り換える。一人よりも二人の方が一人あたりの生活コストは安くなる
・ふたりが一緒に暮らして共同体をつくるというのは、実利的な安全保障でありリスクヘッジ。その方が生き延びる確率が高まる
・結婚を通じて幸福になろうとしているのが間違い。今よりも不幸にならないように結婚する
・結婚は幸福になるための制度ではなく、生存確率を高めるための制度
・結婚生活は親族の相互扶助ネットワークが残存している一部分
・宿命的なものを感じる話はよくある。でも同時ではない。時間差があるもの
・人を好きになる、一緒にいたくなるという心情の起源は誰も知らない。これは神さまの領域
・結婚とは「自分には理解も共感も絶した他者」と供に生活すること
・結婚というものを、当人同士の愛と共感の上に基礎づけるというのは無理がある
・戸籍制度は家族制度の外形的な表出のひとつ。家族制度が変わらない限り戸籍制度も変わらない。これを変える場合は同一の家族制度を持った国の中で比較的うまくいっている制度を参考にするとよい
・姓とは自分についての物語。四代前の祖先は男女16人おり姓も違う。その中の一人を任意に取り出してこの人が先祖だと主張している
・家族が揃ったはずなのに、いるはずの人がいないことに気づく。その人が家族
・家族とは暫定的な制度。家族の一体感とかいう人は信用しない
・結婚関係とは権力関係でもある。どっちかがボスでないと安定しない
・(結婚せず)誰にも制約されない生き方とは、誰からも頼みにされない生き方
・結婚したあと人生の厚みは増した。経験の絶対量は結婚前、子どもができる前とは桁違い
・哲学とは人間の経験するさまざまなことについての包括的な知のこと
・生きていることが勉強
・結婚生活では、これだけは譲れないというような最後の砦なんてない。とことん譲って譲ったあとに残るものが自分のアイデンティティの核
・この子のためならいつでも死ねる、この子のためにも絶対死ねない、というのは同じひとつのこと。子どもを持ったからこそ経験できるもの
・よくわからない人が自分のかたわらにいる、このことは感動的
・政治思想としてアナーキズムが好きだが彼らは総じて機嫌がいい人が多いから。アナーキーとは、中枢的な統御機関がなくても、自律的に相互に助け合い、支援し合う仕組みのこと。市民たちが成熟して、善意の人で、公正であることによって成り立つ社会。
・家族の間に秘密があるのは当たり前。家族全員が全部カミングアウトしたら家族はたちまち崩壊してしまう
・報告を好む人は嘘がすぐわかる。夫の報告にときおりまじるふだんとちょっと違う点についての自分の高性能の感知能力の行使を楽しんでいる
・わずかな言い淀みや沈黙にぴんと来る、そこに自分に言いたくないことが隠されていることがなぜかわかる
・夫婦関係は7つの挨拶ができればとりあえず合格。「おはよう」「いただきます」「ごちそうさま」「いってきます」「いってらっしゃい」「おかえりなさい」「おやすみなさい」
・相手に対して敬意を示さないことが愛情表現や親しみの記号だと思っているとトラブルになる
・男性と女性ではセ○クスについて求めているものが全然違う
・家事を公平に分割することは不可能。代案としては、家事妻か夫のどちらか片方が全部やり片方はまったくやらない、というのをデフォルトにする
・女の人がものを置く秩序については、あなたの理解を絶した秩序に従って構成されている
・金に困っている人というのは、単純に収入以上に使う人。自分の経済的実力のちょっと上を演じてしまう
・自分の収入よりちょっと下を基準にして暮らせば何の問題もないのだが
・自分が変われば世界は変わる
・正直が美徳というより嘘をつくのが面倒
・福沢諭吉「国家というのは私事である」国境だの国土だのというものは人間が勝手にこしらえあげたただおアイディアである。国民国家は擬制である。でも人間は弱いものでそういうものにすがらなきゃ生きていけない弱さも可憐
・結婚は個人が自己都合で作り上げた幻想にすぎないが、夫婦であったことに必然性があったと言ったほうが愉快なものになる確率が高い。これからも永遠にあり続けると考えた方が現在の社会情勢においては生き延びる確率が高い、これが結婚のリアリズム
・結婚というものは、自分が落ち目のときに身銭を切って支えてくれる人を手元に確保するための制度
・結婚しておいてよかった、と呟くことができるようになるためにその日のために今結婚している
・結婚は私事ではなくて、公共的なものであるということ。公共的なものにするための日々の努力が結婚生活を支えている