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戦後の日本と世界の政治構造について学びたいといくつか関係する本をいくつか読んだ中で多くの日本人が知っておいた方がいい迫力ある快作のひとつです。


来日したトランプ米大統領がなぜ米軍横田基地に降り立ったのか、疑問に思われた方もおられると思います。


本書の著者矢部氏が指摘する、戦後日本の権力構造とは、米軍による占領期同様(プラス朝鮮戦争時の戦時体制のまま)の支配構造にあると指摘しています。


○「戦後日本」は現在もとても独立国家とはいえない。日米両政府ではなく、米軍と日本のエリート官僚の間で直接結ばれた占領期以来の軍事上の密約を起源とした国民も首相でさえもよくわかっていない「ウラの掟」が数多く存在しているから。


沖縄だけでなく、「日本の空」がすべて戦後70年以上経ったいまでも、完全に米軍に支配されている(航空法特例法第3項)首都圏の上空「横田空域」・中国四国地方の「岩国空域」と沖縄「嘉手納空域」(2010年からは米軍優先空域)には日本の航空管制権はない。


○日米地位協定の裏には外務省がつくった高級官僚向けの極秘マニュアルが存在。アメリカは日本国内のどんな場所でも基地にしたいと要求することができる。日本は合理的な理由なしにその要求を拒否することは

できない。


ロシアとの北方領土交渉で昨年末2島返還がゼロになったのも米軍基地設置可能性に日本が返答できなたかったから。


○日本国憲法の上位には憲法の権利が及ばない、日米安全保障条約と日米地位協定があり、さらに米軍と日本の高級官僚との定期会議である日米合同委員会の決定事項は内閣や国会の決議よりも優先される。


○日米安全保障条約の基本コンセプトとは、日本政府のコントロールが一切及ばないかたちで「国連軍の代わりの米軍」が日本全土に駐留すること。


○憲法9条のもとで私たち日本人は、世界一戦争をする米軍に対して、「国内に自由に基地を置く権利」と「そこから飛びたって、自由に国境を越えて他国を攻撃する権利」を両方与えてしまっている。


米軍による日本支配の構図とは

①日本の国土を自由に軍事利用できる権利

②戦時には自衛隊を自由に指揮できる権利

であり、法的関係を構造的に支えているのは

③日米合同委員会

④最高裁砂川判決

という聖域化されたアンタッチャブルな機関



残念ながら、日本は日本人はアジアのみならずアメリカにさえも向き合えていない現実。


戦後日本の政治は

①自民党右派 (安保賛成・改憲派)

②自民党リベラル派(安保賛成・護憲派)

③社会党他の革新政党(安保反対・護憲派)

という三つの勢力が戦後長らくそれぞれ約1/3ずつの議席を持ち、その上で①と②が安保体制を守り、②と③が憲法9条1項を守るという体制が生まれました。


「朝鮮戦争後の戦時体制」をそのまま残してしまってる(安全保障上やむを得ない面があるとしても)事実関係を再確認した上で戦後日本の変わらないポジショントークから脱却する必要があります。


現在の政治主流派である安倍政権は「戦後レジュームからの脱却」を訴えていますが、むしろ向かおうとしているのは朝鮮戦争後の戦時体制の強化であり、自衛隊の米軍下請けの強化につながる「戦後レジュームの強化」というパラドックスなのです。




安倍政権下での憲法論議も、最終目的地は日本の真の独立であるもしても、日本国憲法よりも上位にある日米安保条約と日米地位協定、日米合同委員会をどうにかしないと根本的には改善に向かわないことがはっきりとしています。極めて危険な状況であることを与党政治家はわかっておられるはずなのですが。


そこを、日本の知識層は保守派であろうとリベラル派であろうと、これまでのポジショントークを一度外してまず現実を理解して打開策を考えるべきではないでしょうか。


本当の保守とは、本当の意味でしたたかにアメリカに立ち向かえる人のことなのです。



読書メモ↓

 

・日本の首都東京は、沖縄と並びほど米軍支配の激しい、世界でも例のない場所

 

・六本木(六本木ヘリポート)と南麻布(ニューサンノー米軍センター)がある

 

・日米地位協定の考え方増補版(外務省がつくった高級官僚向けの極秘マニュアル)

〇アメリカは日本国内のどんな場所でも基地にしたいと要求することができる

〇日本は合理的な理由なしにその要求を拒否することはできず、現実に提供が困難な場合以外、アメリカの要求に同意しないケースは想定されていない

 

・日米安全保障条約を結んでいる以上、日本政府の独自の政策判断で、アメリカ側の基地提供要求にNOということはできないことを日本の外務省がはっきりと認めている

 

・極秘マニュアルでは 「北方領土の交渉をするときも、返還された島に米軍基地を置かないというような約束をしてはならない」という大原則がある。この条件をロシアが吞むはずはない

 

・現在の日米間の軍事的関係が根本的に変化しない限り、ロシアとの領土問題が解決する可能性はゼロ

 

・2016年11月上旬、モスクワを訪れた元外務次官谷内正太郎国家安全保障局長から、「返還された島に米軍基地を置かないという約束はできない」とロシア側に伝えられた。この時点で領土返還交渉がゼロ回答に

 

・私たちが暮らす「戦後日本」という国には、国民はもちろん、首相でさえもよくわかっていない「ウラの掟」が数多く存在し、社会全体の構造を大きく歪めている。これらの掟の多くは日米両政府ではなく、米軍と日本のエリート官僚の間で直接結ばれた占領期以来の軍事上の密約を起源としている

 

・首都圏の上空に広がっている「横田空域」・中国四国地方にある「岩国空域」と「嘉手納空域」(~2010)

 

・アメリカ大統領とは、核兵器を世界戦略の中心に据えた世界最強の米軍の最高司令官であり、日本の上空を事実上自由に自国の軍用機を引き連れて移動することができる

 

・横田と岩国にある巨大な米軍の管理空域について、国内法の根拠はなにもない

 

・那覇空港に着陸する民間航空機の航路が、嘉手納や普天間の米軍基地に離着陸する米軍機の航路と交差しているため、30km以上手前から高度300メートル以下(米軍は600メートル以上の全域)で飛ぶことを義務付けられている。自国の旅客機は非常に危険な低空飛行を強いられている

 

・嘉手納空域は返還されたが、返還の意味を完全に失わせてしまうような巨大な米軍優先空域がひそかに設定されていた

 

・那覇空港の管制所には、米側管制官が常駐して米軍機優先の大原則のもと米軍機についての管制業務を行っている

 

・本土上空の航空管制権はすべて日本に返還するが、「米軍基地とその周辺は例外とする」という密約を結び、密室の協議で「その周辺」という言葉の意味が途方もなく拡大していく。その結果うまれたのが、巨大な横田空域であり、岩国空域

 

・米軍は沖縄上空に設定した優先空域を日本全土の上空にいつでもどこでも設定できる権利を持っている

 

・「日本政府は、軍事演習をおこなう米軍機については、優先的に管制権をあたえる」ことが日米合同委員会での密約にもとづくもの

 

・沖縄だけでなく、「日本の空」がすべて戦後70年以上経ったいまでも、完全に米軍に支配されている(航空法特例法第3項)

 

・独立国の首都圏上空が他国の軍隊に支配されている異常な状態。そもそも自国のなかに外国軍が駐留しているということは完全に異常な状態であり、本来なら独立国とはいえない

 

・日本の国土全体が、米軍に対して治外法権下にある

 

・旧安保条約第1条「平和条約及び安保条約の効力が発生すると同時に、米軍を日本国内及びその周辺に配備する権利を、日本は認め、アメリカは受け入れる」

 

・日米安保法体系とは 「新安保条約」+「日米地位協定」+「日米合同委員会」という三重構造

 

・日米合同委員会は、議事録や合意文書を原則公開せず、委員会での日米合意は日本の国会の承認を必要としない

 

・イラク・アメリカ地位協定(2008)では、イラクに駐留する米軍が、イラクの国境を越えて周辺国を攻撃することを禁じている

 

・憲法9条のもとで私たち日本人は、世界一戦争をよくする米軍に対して、「国内に自由に基地を置く権利」と「そこから飛びたって、自由に国境を越えて他国を攻撃する権利」を両方与えてしまっている

 

・日米安保の本質は「日本の防衛」などではなく、米軍による「日本の国土の軍事利用」にあることは明らか

 

・日本・韓国・台湾だけは、アメリカとの間で「米軍を国内及びその周辺に配置する権利」を与えるという条約を結んでいた

 

・アジアに残る冷戦構造とは、アメリカとその軍事的な支配下にある日本と韓国という3か国の歪んだ軍事的従属関係を最大の原因としている

 

・「日米合同委員会」とは、日本の超エリート官僚と在日米軍が都内の米軍基地などで行っている秘密会議。しかもそこで決まったことは国会や憲法よりも上位の存在。ほぼ月二回、隔週木曜日11時~、外務省の施設内(日本側議長)もしくは米軍基地内の会議室(米国側議長)

 

・日米合同委員会とは、米軍が戦後日本において、占領期の特権をそのまま持ち続けるためのリモコン装置

 

・戦後日本という国は、「在日米軍の法的地位は変えず」「軍事面での占領体制がそのまま継続した」「半分主権国家」として国際社会に復帰した。その「本当の姿」を日本国民に隠しながら、しかもその体制を長く続けていくための政治的装置が日米合同委員会(1952~)

 

・私たち日本人がこれから克服しなければならない最大の課題「対米従属」の根幹には、軍事面での法的な従属関係がある。しかも法的にガッチリと抑え込まれた「米軍への従属」

 

・きっかけは、鳩山政権の崩壊。鳩山政権は普天間基地の移設問題のつまずきにより9か月で退陣に追い込まれた

 

・日本の最高裁は、「砂川判決・最高裁判決」というひとつの判決によって現在まったく機能していない

 

・鳩山元首相は、日米合同委員会という60年以上続く「米軍+官僚」に敗れた

 

・米軍の占領期の特権とは、米軍関係者が日本の法によって裁かれない「裁判権」と米軍が日本の国土全体を自由に使用するための「基地権」

 

・「古くて都合の悪い取決め」=「新しくて見かけのよい取決め」+「密約」

 

・米軍関係者の犯罪への実態が変わらないのは、裁判権放棄密約・身柄引き渡し密約(1953)が結ばれたことによる

 

・米軍は日本政府の許可を得ず、日本国内でどんな軍事活動もできる

 

・占領が終わって独立を回復しても他国の軍隊を駐留させ、それに対して全面的な治外法権を与えている

 

・在日米軍に関しては、日本国憲法が機能していない

 

・人権を侵害している適用除外条項を絶対に認めていない日本国憲法が機能していない理由を追究し、その構造を解明して、憲法のもち本来の機能をふたたび回復させることが重要

 

・砂川裁判で米側は日本の最高裁判所に圧力をかけ判決を覆した(15人の裁判官が全員一致して、米軍の駐留は違憲ではないという判決)

 

・砂川判決で安保条約は日本国憲法の上位にあることが判決として確定された

 

・日本国憲法にもとづき、裁判で政府の暴走を止めることは、絶対にできない

 

・世界の常識は日本の終戦記念日(8/15)は何の意味もない。国際法上日本がポツダム宣言を受け入れ降伏文書にサインした(9/2)

 

・日本は降伏ではなく、終戦という言葉を使うことで、戦争に負けた日本の厳しい状況に目をつぶりつづけてきたのが戦後日本

 

・戦時中、アメリカ国務省は「日本の統帥権は、名目上は天皇にあるが、実際の権限は軍部が握っている」ことをはっきりと認識していた

 

・「日本国憲法の草案は、占領下で占領軍によって書かれたもの」が明白な事実であること

 

・平和憲法は戦争で大きな苦しみを味わった日本人の思いが形になったものであることも確か

 

・戦後の世界のかたちを変えた大西洋憲章(1941)米英が理想とする戦後世界のかたち

 

・大西洋憲章(1941)→連合国共同宣言(1942)→ダンバートン・オークス提案(1944)→国連憲章(1945)

 

・第二次大戦後の世界は、「領土不拡大の原則」や「民族自決の原則」など大西洋憲章で示された枠組みの上にある

 

・大西洋憲章第8項は憲法9条の持つ

A平和に対する人類究極の夢(戦争放棄)

B邪悪な敗戦国への懲罰条項(武装解除)

というふたつのルールがはっきりと書かれている

 

・憲法9条とは、完全に国連軍の存在を前提として書かれた条文。日本国憲法は国連軍の存在を前提に、自国の武力も交戦権も放棄した

 

・憲法9条は、1941年の大西洋憲章にはじまる国際的な安全保障体制についての長い議論の積み重ねから生まれた側面も「9条は日本人が書いた、幣原首相が書かせた」説は、「絶対平和主義」という思想上の系譜であるから話は噛み合わない

 

・丸山真男が問題にしている憲法の「平和を愛する諸国民」とは、本来「第二次世界大戦に勝利した連合国及びその国民」を意味している

 

・1952年のサンフランシスコ平和条約は政治と経済においては占領状態を終わらせた寛大な条約だったが、軍事に関しては安保条約と連動するかたちで日本の占領を法的に継続し個体するためのものだった

 

・現在の日本ほど、21世紀の地球上で他国と屈辱的な従属関係を結んでいる国はどこにも存在しない

 

・「裁判権密約」「基地権密約」と「指揮権密約」=戦争になったら自衛隊は米軍の指揮のもとで戦う、という密約

 

・その原因はすべて朝鮮戦争にあった

 

・朝鮮戦争で日本側は、掃海艇派遣、警察予備隊の創設、米兵や軍事物資への輸送や支援など国をあげての戦争支援を行った

 

・日本の占領を終えるにあたって、米軍の駐留継続や米軍への軍事支援の継続は、ポツダム宣言にも国連憲章にも違反する行為だった

 

・日本が占領下で行っていた米軍への戦争協力を今後もずっと継続するという法的な関係が21世紀のいまもなお存在している

 

・日本の歪みの根っこにあるのは、「占領体制の継続」ではなく、もっと悪い「占領下での戦争協力体制の継続」だった

 

・米軍の指揮権さえ認めれば、日本は軍隊をもつだけでなく、その軍隊が国外で戦争をすることも許される(旧安保条約から)

 

・戦後日本の政治は

①自民党右派 (安保賛成・改憲派)

②自民党リベラル派(安保賛成・護憲派)

③社会党他の革新政党(安保反対・護憲派)

という三つの勢力が戦後長らくそれぞれ約1/3ずつの議席を持ち、

その上で①と②が安保体制を守り、②と③が憲法9条1項を守るという体制が生まれた。

 

その微妙なバランスの上に、②が保守本流として政界の中心に座り結果として彼らの政治的ポジションを正当化する(自衛隊と米軍基地は合憲で、海外派兵は違憲)という憲法解釈が続いてきた

 

・保守本流派の憲法解釈としては非常におかしかったが、戦術論としては間違ってなかった

 

・「アメリカのコントロール下にあり、戦争が必要と米軍司令官が判断したら、世界中でその指揮下に入って戦う自衛隊」という悪夢

 

・「米軍自身が書いた旧安保条約の原案」=「戦後の正式な条約や協定」+「密約」

 

・事実をきちんと見ること。事実を知り、その全体像を解明することからしか、事態を打開する方策は生まれない

 

・1951年から始まった日米交渉のなかで、旧安保条約を国連憲章の集団的自衛権にもとづく条約にしようと必死で交渉していたのが日本側で、それを一貫して拒否しつづけていたのがアメリカ側

 

・アメリカが集団的自衛権にもとづく安全保障条約を結んだのは、彼らにとって死活的に重要な意味をもつ中南米とヨーロッパの多国間の条約に限られていた

 

・日米安保条約が集団的自衛権にもとづく対等な相互防衛条約になることは今後も絶対にありえない

 

・戦後世界の歴史は、法的支配の歴史。アメリカは法的正当性を常に議論をしている

 

・戦後世界においては、軍事力ではなく、国際法こそが最大の武器

 

・国連憲章43条

○国連加盟国が国連安保理と国連軍特別協定を結んで国連軍に基地を提供する

日米安保に言い換えると

○日本 が 国連を代表するアメリカ と 日米安保条約 を結んで 米軍 に基地を提供する

 

・日本政府のコントロールが一切及ばないかたちで「国連軍の代わりの米軍」が日本全土に駐留するというのが日米安保の基本コンセプト

 

・突然の朝鮮戦争によって生まれた占領下での米軍への戦争協力体制がダレスの法的トリックによってその後固定してしまった

 

・私たちが生きているのは、「戦後レジューム」ではなく「朝鮮戦争レジューム」 朝鮮戦争はまだ休戦中

 

・日本のリベラル派は、占領下の戦時体制が法的に継続する中、憲法9条に少しでも手をふれてしまえば、米軍の世界戦略のもとで、自衛隊が世界中の戦争で使われてしまうことが本能的によくわかっていた

 

・ロシアや中国は新しい国際社会のなかで、アメリカよりもよほど自生的に振る舞っている

 

・日本を占領し、日本独立後は、軍国主義の対象を共産主義国に切り替えて、アジア全域に居座りつづけてた米軍、その国際法違反の軍事行動を60年以上無条件で支持し続けてきた日本。その問題を私たち自身の手で清算すべきときがきている

 

・戦後日本という国は、アメリカ政府ではなく、アメリカの軍部によって植民地支配されている

 

・きちんとした政権をつくって日本国内の既得権層を退場させ、アメリカの大統領や国務長官に対して「朝鮮戦争の混乱のなかにできた、違法な条約や協定にもとづく現在の日米関係の不平等条約を改正させてほしい」と交渉しなければならない

 

・日本人が歪んだ従属関係にあるサンフランシスコ・システムから脱却することは、日本も世界も非常に大きなプラスをもたらすことになる

 

・オモテの条文だけを見て、「ウラの掟」(安保法体系と密約法体系)の存在を知らずに憲法に手を触れることは危険

 

・米軍は

①日本の国土を自由に軍事利用できる権利

②戦時には自衛隊を自由に指揮できる権利

法的関係を構造的に支えているのは

③日米合同委員会

④最高裁砂川判決

という聖域化されたアンタッチャブルな機関

 

・すべての人が、すべてのポジショントークを一度やめて、大きな矛盾に苦しむ人たち(沖縄・福島・自衛隊の最前線)の声に真摯に耳を傾け事実に基づいて根本的な議論を行うときにきている