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村上氏は、子どもの時から株式投資を始め、通産官僚からコーポレートガバナンスを日本の上場企業に浸透させるべく敵対的TOBを実行するなどして巨額の資産を築いた尊敬する投資家の1人です。


その村上氏が沈黙を破って自らの理念と半生を著した一冊。


昭栄や東京スタイルの株を買い占め、大株主として経営者に闘いを挑む姿に共感したものでした。


ニッポン放送の株式取得をした堀江氏とのインサイダー取引で逮捕され有罪判決を受けたことから乗っ取り屋・金儲け主義に思われがちですが、コーポレートガバナンスを訴えている姿勢や理念は一貫しており、2014年の「伊藤レポート」でようやくROE(株主資本利益率)を重視した経営を志向すべきだ、としたことは村上氏の主張が15年早すぎて軋轢を生んだ、とも言えるでしょう。


村上氏は、シンガポールへの移住、ベンチャーへの投資、介護事業、不動産事業、アジアの不動産や飲食業、NPOやNGOへの支援など、私がやってみたい事業の多くをやっておられます。


ただし、一言言うと、かつて有罪判決を受けた側としてインサイダー取引の疑惑に対する言及が少ないこと。シンガポールへの移住や一般財団法人の設立などは富裕層の節税策の一貫であるし、投資家としての行動としては理解できるのだけれどもこの本に言及部分はありません。日本の少子高齢化の厳しい将来や財政問題、産業構造の変革を論じていながら、自らはシンガポールで税逃れをしているのではないか?という意見が出ることもあり得ます。


黒田電気への株主総会提案など再び投資家としての注目の的となりつつある村上氏の動向。これからも注視していきたいと思います。



読書メモ⤵︎

 

・両親は毎年11万円を贈与(1000円の贈与税)してくれた

 

・10年間のお小遣いを一括前払いということで100万円の現金を父からもらった。それを元手に株の投資を始めた

 

・父はいつも「上がり始めたら買え。下がり始めたら売れ。一番安いところで買ったり一番高いところで売れるものだと思うな」投資哲学はすべて父から学んだ

 

・投資するためにはまず相手を喜ばせること

 

・通産省入省。官僚とは公僕であり、国民の生活をよりよくするために尽くすことが仕事

 

・企業にとってのお金は、人間の身体でいうなら血液。お金の流れが潤滑であることが大切

 

・投資とは「将来的にリターンを生むであろう期待をもとに、資金をある対象に入れること」

リターン>リスクとなる投資をするのが投資家

 

・リスクとリターンの関係を(村上式)「期待値」と呼んでいる

 

・村上家はシンガポール第二の財閥豊隆グループと親しい

 

・投資家の資質は3割はDNA、7割は経験

 

・村上氏は徹底したバリュー投資。保有している資産に比して時価総額が低い企業に投資する。だが世間の評判は悪かった

 

・資本主義のルールを守らなければ国の経済はよくならないし、経営のルールであるコーポレートガバナンスを守らなければ企業は存続する意味がない。日本の実態を正し、日本の社会を変えたかった

 

・アメリカで当たり前だったROE重視を日本で初めて本格的に提唱

 

・制度を作る側(通産省)にいるより、プレーヤーとして日本を変えたいと思ったので通産省をやめ、村上ファンドをつくった

 

・上場とは私企業が公器となること

 

・上場企業は投資家の期待に応えるべく、透明で成長性の高い経営をし、利益を上げなければならない

 

・企業とその経営者にとっての上場のメリット①株式の流動性が上がること・株が換金しやすくなること②資金調達がしやすくなること この2つが必要ない場合は上場する必要もない

 

・上場のデメリットはコストがかかる点

 

・株式発行による直接金融で資金の調達をする必要のない企業は上場を廃止することを系統すべき

 

・自分の投資先に対してMBOをして非上場化する提案をしてきた。村上が投資する企業は、現預金をたくさん保有していたり、財務状況もよく、直接金融で資金を調達する必要のない企業がほとんどで上場している意味が見出せない。株主にもMBOで株価に一定のプレミアムをつけ、売却の機会を提供することもできる

 

・MBOは今後の事業に自信があり、株価が割安であると感じ、資金調達について銀行借入余力が十分にある場合に限る

 

・通産省時代、上場企業の役員との話では、財務数値についてよくわかっていない経営者が多かった。特段のポリシーのないまま、過去からの経営をなんとなく引き継いでいる企業がほとんど

 

・財務数値や事業計画について明確な方針やポリシーを持っていなかった。が、一様穏やかで教養があり、コミュニケーション能力に優れ人心掌握に長けていた。役員の素晴らしい能力が株主にではなく、社長の意向に沿うことのみに費やされてしまうのは残念に思った

 

・オリックスと共同出資でM&Aコンサルティングを設立

 

・昭栄は資金調達する必要もないのに上場を維持しているのか不思議だった。日本初の敵対的TOBとして話題に

 

・上場している企業の株は誰でも自由に買っていいのが株式市場の制度

 

・昭栄は社長が交代し、株価は3倍程度になって、TOBには失敗したが、上場企業のあるべき姿に大きく近づき、ファンドも利益を得ることができた

 

・2006年にファンドをクローズする直前は4400億円のファンド資金のうち6割近くが米国の年金や大学財団の出資だった

 

・(村上)投資家であって経営者ではない

 

・ファンドでやっていることは投資だが、人のお金を預かって運用する会社の経営者に徹する必要があった。現在自らの資産だけで投資を行っているのはとことん自分の信念を貫くことができるようにするため

 

・リーマンショック後は割安になった株式市場に投資した。その後の不動産不況の時は不動産にも大きな投資をした

 

・失敗しない投資など投資とは言えない。失敗したときにいかに素早く損切りができるか、下がり始めたら売る決断をいかに速やかにできるか

 

・村上の投資スタイルは、割安に評価されていて、リスク度合いに比して高い利益が見込める子も、すなわち投資の「期待値」が高いものに投資すること。期待値が1.0を超えないと投資する意味がない。期待値を的確に判断できることが投資家に必要な資質

 

・投資家はリターンが全て。すべての投資において長期投資という視点が必要。投資は汗をかかずに大金を儲ける人と思われがちだが、事業には資金が必要であり、資金を出してリスクを取るのが投資家

 

・投資家の大切な仕事は投資先企業の経営を監視、監督すること。モノ言うことも投資家の大切な責務

 

・投資家と経営者の分離が株式会社という形で整備されたのが1600年に設立された東インド会社。利益を株主に分配し、総会方式を採用し現在の株式会社の基礎をつくった

 

・上場企業の経営者は自分の会社の株式を一定程度持つべき。株主と同じ目線を持ってもらう

 

・日本の経営者には株主から委託を受けている感覚が希薄

 

・企業の価値を上げていくために優秀な従業員が必要

 

・悪い経営者とは、会社を私物化し、株主の目線に立たない経営者

 

・日本は株主VS経営者+従業員。株主目線に立つ機会がほとんどないこともコーポレート・ガバナンスが浸透しない大きな原因

 

・コーポレート・ガバナンスが効果的に機能するためのひとつの方法は取締役の累積投票制度にある。日本の企業にある、取締役の候補者別に賛否を問う方法は大株主の意向が通りやすく少数株主の意見は反映しにくい

 

・資金の好循環は必ず派生的な好循環をもたらす

 

・悪しき会社とみなるのは 株主と向き合わない・経営者が保身に走る・株主価値を鑑みない

放漫経営の会社

 

・2001年当時の東京スタイルは、時価総額以上の現預金同等物を持つキャッシュリッチな会社だった

 

・株主総会を利用し、株主提案でプロキシーファイトを行うための準備を始めた

 

・東京スタイルに求めていたのは余剰資金をどう活用するかについての経営者の明確な説明

 

・(村上)自分が正しいと思うことに対して、妥協ができない。したくない、という激しい性格はその後の人生においてもいろいろな面で災いとなっていく

 

・2003年は東京スタイル高野社長に対して10億円の賠償を求め、株主代表訴訟を起こした

(2005年和解)

 

・2001年当時のフジサンケイグループはラジオ局のニッポン放送が圧倒的な存在感を放つフジテレビの親会社であり3割を超える株式を保有、規模の小さな親会社の時価総額が保有資産を常に下回るいびつな状況

 

・コーポレート・ガバナンスを追求するファンドとして、株主の立場からのこ資本関係のおかしさを正したかった。もちろん投資利益もファンドマネージャーとして大きな魅力だった

 

・しかし、2005年に堀江氏が登場してこの案件が一気に表面化。市場に問いたかったこととは全く違う視点で騒動は大きくなり、ニッポン放送もフジテレビも株主を無視した保身対応を繰り返し、村上氏自身がこの案件を巡るインサイダー取引の容疑で逮捕される事態となった

 

・株主の立場は一切考慮されず、自分たちの会社は自分たちのものという意識が強すぎ、上場企業としてどうあるべきか、何をすべきかという視点がまったく欠落していた

 

・堀江氏の相談から、その話をインサイダー情報として社内で登録し、ニッポン放送の株式の買い入れを停止した

 

・2008年フジサンケイグループは認定持ち株会社体制に移行した

 

・村上氏はこの案件で逮捕され、判決は罰金300万円と追徴金11.49億円、懲役2年の実刑。最高裁で執行猶予3年。裁判は受け入れざるを得ないが、やり取りがインサイダーに当たるものだったかという違和感が残ったまま

 

・ニッポン放送の案件は、日本の上場企業のあるべきでない姿を集約していた

 

・上場企業は、リスクとコストを踏まえた上で必要がある場合のみ上場を維持すべき

 

・鉄道事業は赤字にならない仕組み(鉄道事業法・鉄道営業法)

 

・運賃は別々に取られ、乗換は不便。鉄道事業全体が利用者目線になっていない

 

・保有する事業やブランドは素晴らしいのに十分活用できていないので西武株を買った

 

・西武鉄道は本業の鉄道収入よりも不動産からの収入が上回っていた

 

・西武グループは持ち株会社化し、改革が行われた

 

・阪神鉄道の鉄道事業による売上は10%に過ぎず、売上は流通業で利益は不動産業で稼ぐ構図だった。時価1千数百億、試算では不動産価値だけで3000-5000億。株は300-400円で推移していたが、試算では1500円以上であるべきだった

 

・阪急百貨店の株や阪神鉄道発行のCBも買い進め、30%ほどを保有するに至った

 

・企業に大きな変革を成し遂げるには過半数に近い議決権を握らなければ難しい

 

・阪神の役員は、既得権益を侵す人間を排除したいだけで、株主の立場や会社の将来についてさえ真剣に考えていないと感じた

 

・古くから上場している名門企業ほどぬるま湯感覚が根付いていることが多かった

 

・2006年阪急から阪神に対するTOBが発表され、東京地検特捜部から村上に呼び出しがかかった

 

・藤田晋氏・重田康光氏・堀江貴文氏は投資の目利きがあり、赤字の向こうに待つ未来が見えるのだろう

 

・重田氏は村上氏が尊敬する投資家の一人

 

・親子上場には賛成の立場ではない。株主にとってみれば事実上の利益相反が生じる可能性があるから

 

・楽天の創設者三木谷浩史氏の主眼は常にM&Aに置かれている

 

・誰も手を出さなかった既得権益に、猛然と堀江氏は挑んだ

 

・堀江氏とはベンチャー投資を一緒に行っている。ITという分野を投資家として見ることができなかったので堀江氏に教えてもらった

 

・日本のGDPは半世紀伸びていない。成長なきところに投資は起きない

 

・銀行は土地神話の元担保価値をはるかに上回る貸付を大量に行い、バブルの崩壊を迎えた

 

・官主導から銀行のガバナンスへ移った

 

・日本におけるコーポレート・ガバナンスは米国よりも15-20年遅れている

 

・日本企業のコーポレート・ガバナンスへの対応の遅れは株式市場の成長において数字としてはっきりと表れている

 

・アメリカの株式市場は日本の3-4倍。上場企業数は大きく変わらないが違うのは株式倍率(PBR)おおざっぱだが日本の上場企業の純資産と米国のそれはほぼ変わらない。ということは日本企業の価値は株価に反映されていないことを意味している

 

・日本ではROE重視の経営が行われてこなかった

 

・上場株式は日本が個人+投資信託で20%強、アメリカは50%を超える

 

・アメリカは投資こそが未来への貯蓄とみなされている

 

・純粋に投資の視点から見ると資本効率を上げるには資本は小さいほうがいい

 

・2014年に「伊藤リポート」で日本型ROE経営は8%を最低ラインとしてより高い水準を目指すべき。投資家と企業の相互コミュニケーションの重要性

 

・日本企業も買収防衛策を廃止する企業が増えている

 

・村上氏の発言の一部だけ、印象的な言葉ばかりが取り上げられ、世間からグリーンメーラーのような存在と誤解されてきた

 

・たくさんの手元キャッシュや利益を生み出していない資産を事業にどのように活用していくか

 

・自己株取得は企業が資本効率を上げるための有効な手段

 

・(村上)中長期的視点から投資先企業の企業価値及び資本価値を高め持続的成長を促すことを目指してきた

 

・投資家はリターンを求めるもの

 

・アップルの株価はPBR6倍、PER18倍程度の高い水準。2004-2016では総資産の規模が倍になっているにもかかわらず、純資産は減少し、適度なレバレッジが効いた状態

 

・日本企業の収益力の向上が最重要事項

 

・コーポレート・ガバナンスの徹底は投資家にとって目的ではなく、目指すリターンを得るまでの目標を投資先と共有し確認し合うコミュニケーションのルール

 

・米国のS&P500企業は毎年ほぼ利益の全額を株主還元に回し、新規の事業への投資は借入によって賄う傾向

 

・日本の上場企業は必要以上に内部留保を積み上げている

 

・ソフトバンクは借入を起こしながらM&Aを繰り返しているが借入をはるかに上回るリターンを生んでいる

 

・銀行は貸したくても貸す先がない状態に陥っている

 

・企業の成長が経営陣や従業員に跳ね返る仕組みづくりを積極的に進めるべき

 

・資金が循環し始めれば景気は必ず回復し、経済は成長する

 

・日本は2015.6~コーポレートガバナンス・コードが適用されている。が、まだコーポレート・ガバナンス報告書をみてもまだ積極的ではない

 

・日銀の金融緩和でGPIFを加えた公的マネーの存在感が大きくなっている

 

・NPOやNGOといった社会的課題の解決に向けて非営利団体の活動に十分な資金が流れていない

 

・日本の人口は2060根には8700万人を下回りその40%が65歳以上に

 

・日本は先進国の中でも外国人の就労比率が非常に低い(在留外国人の割合 日本1.7% OECD諸国では8%以上)

 

・増え続ける日本の借金は高齢化と大きく関連している。高齢者比率の上昇を主な要因とした社会保障費の増大に原因がある

 

・国の借金問題を早急に解決の方向へ導くには資金を循環させること以外にない

 

・日本はお金があるのに世界一の借金大国。お金が循環していない

 

・資金の循環を促すきっかけとなるのは、まずは企業がコーポレートガバナンス・コードに則り、投資や株主還元を行って手元資金を放出しながら余分な手元資金や銀行からの資金を昇給や新規雇用へ積極的に回すこと

 

・コーポレート・ガバナンスとその浸透による資金循環の促進こそが経済成長を促す策

 

・村上氏はこの10年ほど、1年の2/3ほどをシンガポールで暮らしている

 

・村上氏のファンドマネージャーとしての人生は2006年にインサイダー取引で逮捕された時に幕を閉じた

 

・悪いことをしてお金を貯めこんだと思われているだろう。単なる村上パッシングだったのではないかと疑ってしまう

 

・シンガポールに拠点を置きながら、飲食業や不動産業への投資を手がけた

 

・現在の投資は自らの資金のみで行っている

 

・非営利団体が継続的に資金を集められる仕組みづくりに試行錯誤を重ねた

 

・東日本大震災の際も支援活動

 

・自衛隊の見事な救援活動から、自衛隊とNGO,NPOの役割分担の協議を進めておくべき

 

・2009-2010日本の不動産に大きな投資を行った。勝率が低くても期待値が大きければ投資に踏み切った

 

・年に数千戸単位で購入

 

・不動産も上がり始めたら買い、下がり始めたら売り

 

・2007年から介護事業

 

・2012年に西山知義氏とダイニング事業を始めた

 

・2013年からアジア各国で不動産投資を始めた(マレーシア・バングラディシュ・カンボジア・ミャンマー・ベトナム・インドネシア)

 

・アジア各国のGDPはおおむね準用に伸びている。中所得層をターゲットにした物件の開発にシフト

 

・今後はベトナムやインドネシア、フィリピンなど人口の多い国がいい

 

・中国におけるマイクロファイナンス事業など2つ大きな失敗をしているが教訓になった

 

・自分自身がガバナンスを行える案件、もしくはその体制づくりをコントロールできる案件であることが、投資に対する期待値を確実に高めることを学んだ。投資家に投資することは今後控える

 

・本を書くようになった理由は、

 

無関係の長女が妊娠時に強制調査が入り、ストレスで死産をしてしまった。新しい命を授かったものの、妻と娘からも自分の理念や信念をきちんと伝えねばとい思い始めたこと

 

また、2006年の事件から一定時間が過ぎ、株式市場でもコーポレートガバナンス・コードが策定されるなど村上氏が目指していた方向に進んでいることで投資家と上場企業のあるべき姿がだいぶ明確になったこと

 

・この本の収益は日本における投資の教育のために使いたいと思っている

 

・多くの批判を受けてきた。原因は自分の信念を信じそれに自信を持ちすぎて早急に物事を進めすぎたこと

 

・目指してきたことは常に「コーポレート・ガバナンスの浸透と徹底」であり、それによる日本経済の継続的な発展