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大蔵官僚・経済学者・大学教授の野口氏は、著書「超整理法」がベストセラーとなって、印税収入により多額の所得税を払い、税務署と見解の相違でやりあった?経験から、今までさほど関心のなかった税金税制に深く関心を持つようになったそうです。
日本の税制は、「1940年体制」と戦後の「シャウプ勧告」により、申告納税制度や源泉徴収制度の骨格ができました。
氏のアプローチは、自らの経験を通じて、日本の税制の矛盾や歪みを指摘しています。それを解決するためのアプローチとして給与所得者のサラリーマン法人を設立することだ、と。(むろん、雇用の安定という問題点はあるが、そもそも会社に頼る時代でもない、という指摘もなされている)
多くのサラリーマンが源泉徴収と年末調整によって確定申告をしないで済んでいるため、税金に対する関心が薄いことが政治参加の低さの問題になっていると氏は指摘しています。
私も同感です。納税者意識こそ政治の基本であり、そのためには税制改革を促すためにサリーマンが確定申告をできる環境を整えることによって政治や税制を変えていく力を持つはず。
この本は古い本なので、当時の繰越欠損や所得税率は現在と異なっていること、国の財政が当時と比べて極めて悪化していることと合わせ、税・社会保障そして国の財政支出の問題についてどう改善し、どう自らのこととして考えることができるかが問われます。
当時は、私も当初はこの本の内容は理解しにくかったですし、税に対する切迫感がなかったのですが、祖父・親父が早く亡くなり、相続手続に関与したり、相続をしたことによる地代収入などの理由から確定申告した際に、経費がほとんど認められず、借入の返済と所得税・固定資産税らなぜこうも高いのか、と思ったことが税に対する関心を深めた結果でした。
日本国憲法により制定されている、国民の数少ない三大義務の一つは納税の義務。したがって脱税は極めて重い犯罪でもあります。お気をつけを。
配偶者控除など税制改正の方向は今後の生活に直結しています。ウォッチしていきましょう。
読書メモ↓
・戦後直後、日本の更正決定の嵐が吹き荒れた際、それに対抗する反税闘争の嵐も吹き荒れた。それを一変させたのが、昭和24.25年のシャウプ税制勧告。青色申告制度が導入された
・シャウプ勧告は、戦後日本の税制の基盤を作ったとされる。シャウプコロンビア大学教授団長が1949年5月に提出した「日本税制報告書」のこと
その内容は
①直接税中心の税制の確立②総合所得税と富裕税の創設③法人擬制説に立った法人税制の構築④地方税の独立と地方自治の強化
また、徴税システムは
①目標額制度の廃止②前年実績を基礎とする予定申告③青色申告制度の導入
・野口氏個人は、日本の経済制度は、戦時期の改革に端を発する「1940年体制」であると考えている
・最初は、雑所得に関する経費を収入の3割くらいとして明細なしで申告していた。この程度は認められるようだと一般的にいわれていたから。提出は確定申告書と源泉徴収票だけだった。3割はもともと根拠はない
・それから、詳細な確定申告書を作った。仕事の内容、領収書、を集め経費を実額申告する
・それが大きく変わったのは、著書がベストセラーになり個人所得が記録的な税額となったこと。この経験で日本人は2種類に分けれられると思った①税に無関心で生活に支障がない人②税がきわめて切実な問題である人
・節税を考えるのはけしからん、という意見が多いだろうが、ことはそれほど簡単ではない。印税収入の税額は、総合課税・累進課税の下では、他の所得の多寡によって大きく違う
・確定申告が必要な人(要旨)
①給与の年間収入が2000万円を超える
②給与所得以外に20万円以上の所得がある
③二か所以上から給与所得を受けている
④同族会社から貸付金の利子や賃貸料を受け取っている
⑤退職金の支払いを受けている
・確定申告して払ってしまった税であっても、1年以内なら「構成の請求」ができる。それが認められて更正決定されれば戻ってくる
・1993年から数年間、著書がベストセラーになり、法人を介在させた納税は税体系における「パンドラの箱」ということがわかった。税額は解釈次第で大きく変わる
・まずすべての収入を個人に帰属させ、つぎに法人が行ったじぎゅおを詳細に計算して個人から法人に支払うという方式。その結果更正が決定し、所得税額は約1億5千万円、住民税を合わせて約2億円となった
・所得の帰属という大問題、納税者は自分の判断で申告する申告納税の仕組みが矛盾がある。修正申告を公示するのであれば、事前の問い合わせに答えるべきだし、守秘義務を徹底すべきだ(社会的信用の問題もある)
・税というのは恐ろしい
・庶民はごく僅かな脱税のために大変な苦労をしている。脱税は犯罪だが、節税は合法
・銀行預金から生命保険に資金を移すだけで相続税を節税できてしまう
・海外を利用する税回避は簡単にできなくなった
・究極の節税策とは、子の教育費を増やすこと
・日本の税制は、所得には重い負担を課す半面で、親から得る資産に対しては、軽い負担しか課していない。相続税を軽減すれば、社会の固定化がもたらされる
・それでも戦後日本では、数十億円を超える相続に対して、かなり重い相続税を課してきた。明らかに平等社会が志向された。しかし、大きな問題は、社会を指導すべき人々がノブレスオブリージを失うこと
・赤字法人が多いのは、実態としては社長が自分の報酬額を会社が赤字になるように決めたこと。これは合法。会社が赤字になるように社長が自らの報酬を決められる
・大きな役割を果たすのは給与所得控除
・多くの同族会社は、役員などに対して給与を支払い、給与所得控除を利用することによって税負担を減らしている。それは給与所得控除がきわめて寛大だから。日本の法人の7割以上は赤字法人
・個人事業でも、青色申告であれば、家族従業員に給与を支払って給与所得控除を利用することができる
・給与所得控除や源泉徴収制度によって、多くのサラリーマンは税に対する深い関心を持たない。税に対する無関心さは、日本の政治を大きく歪めている。そもそも近代議会政治は政府の恣意的な課税と不必要な財政支出をチェックするために造られたもの。納税者意識こそ政治の基本
・特定支出控除は利用者が非常に限定的
・日本の給与所得控除(サラリーマン経費に該当)は国際的に著しく高い
・給与所得控除の基本的性格がはっきりしないのが税制の最大問題にもかかわらず、議論の対象となっていない
・戦後の大蔵省(財務省)を敢然に掌握した政治家は二人しかいない。田中角栄と竹下登。
・税制改革論議の広く薄い課税には広範な合意が得られている
・給与所得控除の合理的提案としては、給与所得控除を①経費概算控除②労働所得控除の二つに分解すること
・給与所得控除は1974年の大減税の際に飛躍的拡大された。上記の提案により、サラリーマンにとっての経費は何か、が政治の場で議論されればサラリーマンは政治に目覚める
・生成改革を待つのではなく、自分で行動するとすれば、サラリーマンが自ら会社を設立し、その社長に就任し、勤務先との間で業務委託契約を結んで報酬を得ること
・独立した場合は、税とともに社会保険も自分で処理する必要がある
・日本の所得税負担が上昇するのは給与が1000万円を超えてから
・もっと大きな負担は税務調査を受ける心理的経済的負担
・サラリーマンは現在すでに税制上優遇されている
・サラリーマン法人設立提案の目的はサラリーマンを税制に目覚めさせること
・法人化によって節税できる余地は、家族への給与、役員退職金、小規模企業共済制度、住宅を社宅にできる、海外旅行を福利厚生費にできる(制限あり)
・生命保険お節税効果、利益から損金を増やして課税所得を圧縮できる
・欠損金の繰越
・収入と生活費が同じでも法人を経由するほうが多く貯蓄できる
・サラリーマン法人はアウトソーシングの引受だけではなくより広いものも想定できる
・サラリーマン法人の問題点は、将来の保証がなくなることだが、就業形態はすでに流動化している。そもそも会社に頼ろうとする考え自体が間違い
・給与所得に対する源泉徴収は、戦時体制に対応するため1940年の税制改正で導入された
・サラリーマン法人の提案は上からの税制改革提案ではなく下からの税制改革要求。日本の税制を大きく変えてゆくきっかけに