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「バブル」という言葉を実質的につくったことで知られ、「円高・反アベノミクス論者」野口悠紀雄氏の経済分析と日本の生きる道についての示唆。氏が指摘するように、政官業が円安を容認し、株高と大企業製造業の短期的利益を志向するための円安は結果的に国や日本人を豊かにしない、とする仮説を、多くのデータにより立証しています。
円安のメカニズムを正確に理解している政治勢力(官僚・日銀・マスコミも)が存在しないことが日本の悲劇だと断じる氏。日本の権力主流からすれは外れている少数派ではあっても、その分析が正しい部分があるとするならば、氏のように現在の経済財政金融政策に一家言を持つ人の経済への見解が日本の成長のために必要かも。
読書メモ↓
・円安が日本経済を活性化していると考えられることが多いが、円安は物価上昇、実質賃金低下など望ましくない効果をもたらしている。また現在の円安は輸出数量を増やす効果を持っていない
・日本の悲劇は、円安が労働者の立場からは望ましくないことを正確に認識している政治勢力が存在しないこと。政治の場においてはつねに円安方向への圧力がある
・日本銀行は2013年4月に異次元金融緩和を導入。この政策は円安をもたらして株価を上昇させたが、実体経済には影響を与えることができなかった、が結論
・円安は日本の経済政策よりは海外要因によって生じている面が強い
・円安によって株高が進んだ。日本の平均株価は為替レートに連動している。円安が企業利益を増加させる
・円安の影響で製造業大企業には人件費・生産があまり変わらないにもかかわらず利益を急増させた
・日本経済全体から見れば、貿易赤字の拡大は、海外から課税されたのと同じことになる。円安によって日本国民の富が産油国などの資源輸出国に吸い上げられる
・賃金低下が企業利益増大の基本要因になっている。トリクルダウンが実現せず所得分配の格差が拡大し、それによって消費が減少している
・資源価格下落は、消費税を撤廃するほどの影響を日本経済に与える
・今後も円安が続くなら日本で働いて円で賃金を得ることの価値は低下していく
・輸出数量・生産量・雇用が増えず円安による大企業の利益増をもたらしたメカニズムからトリクルダウンが生じることはなく、、円安は物価を上昇させて、実質賃金を下落させる
・日本には円安のメカニズムを正確に理解している政治勢力が存在しない。これは日本の悲劇
・2000年~日本の製造業は海外生産に戦略転換
・2014年~海外投資が頭打ちとなり国内投資が増えはじめた(円安を背景とした国内回帰)
・通貨安は輸入品が高くなる
・外国人から見て日本旅行が魅力的なのは一時的な現象
・円高期の方が成長率は高かった
・キャピタルフライトを防ぐのは為替政策ではなく、経済構造政策。円安に依存しない強い経済構造をつくることが必要
・アメリカはドル安に依存しないで成長している。新興国が工業化しそれに依存できるようになれば円高になるほうが日本人は豊かになる
・傾向的円安が続くと、資産を円で保有することについての疑問が生じ、キャピタルフライトが起こる危険がある
・キャピタルフライトのきっかけとしては財政破綻と国債の貨幣化。破滅的な財政状況にもかかわらず国債はバブル状態にある
・政府見通しでも20年度までの基礎収支の黒字化は実現できない
・日銀は大量の国債を購入してきたが、日銀当座預金を増やすだけでまだ貨幣になっていない。でも潜在的には貨幣化は進んでいる
・ローマ帝国は異邦人の侵略によって滅ぼされたが、本質的な原因は経済力の低下にある
・財政危機に対処せずに金融的な手段で隠蔽する意味で日本はローマ帝国や革命前のフランスが辿ったのと同じ道を日本は辿っている。やがではインフレに
・外国との金利差が拡大すると円を売って外貨で運用することが有利に
・円安は雇用の増加と賃金の上昇をもたらさなかった
・金融危機の始まりは、06年夏頃にアメリカの住宅価格が下落に転じたこと
・日本の金融緩和・為替介入がアメリカのサブプライムバブルを招いた。アメリカのバブルと日本の外需依存経済成長は裏腹の関係
・国際間の資本移動が自由である現代は、金融緩和をしても利回り差が拡大し利回りの高い国や商品を求めて資金が流出してしまう。先進国で金融緩和をしても資本移動を引き起こすだけで自国経済を活性化できず、新興国バブルを増殖する結果に
・円安は安倍内閣の経済政策によって実現したのではなく、ユーロ危機の鎮静化と世界的な投機資金の動きによって引き起こされた面が強い
・円高が問題と言われたのは日本経済の衰えが目立つようになった90年代の末以降のこと
・政府の干渉が強い経済においては競争力を失った産業に政府が介入し産業構造の調整が遅れる
・日本の輸出立国・貿易立国モデルは明らかに終了した
・購買力と為替動向をみると、90年代の中頃に比べて日本人の豊かさは半分になってしまった
・為替レートは経常収支ではなく、資本収支によって動いている
・1963年GATT11条国に移行し、財・サービスについての貿易自由化を達成した
・アメリカの産業構造は1985年と比べて、①製造業の比率が減少②ファブレス企業(工場を持たないアップルなどの企業)が誕生した③サービスにおいての国際間の取引がなされるようになった
・ユーロの経験は共通通貨圏構想が持つ危険性について教訓を与えてくれる
・世界経済は新しい時代に。為替レートや株価の変動と原油などの資源価格の下落(ここ10年の住宅・南欧国債・資源・新興国通貨など投機の時代は終わった)
・14年以降原油価格が急激に下落したのは、シェールガス革命・中国製造業の成長鈍化・サウジの減産回避などがあるが、これらは実需に関するもの。それらの要因よりも投機で上昇した価格が長期的な正常な水準に戻るという要因のほうが強く働いている
・FRBの金融引き締めは金融正常化・長期的成長への健全な動き
・日欧が金融緩和政策から脱却できない基本的な理由は実体経済が弱いから
・日本は大量の国債が日銀に蓄積しており、金融緩和を停止すれば国債価値が低下し、日銀に巨額の損失が発生する恐れがあるため緩和政策を続行せざるを得ない
・日本の金利は不自然に低い
・投機の時代が終わると①資源価格の下落②輸出に依存する新興国や産油国の経済成長が減速する③投機資金のリスクオフ現象(リスクの低い国債に資金が流れる)
・本当に実効性のある成長戦略を政府は打ち出せない。また財政再建を行う意思も能力もない
・人口高齢化が進みつつある日本の産業力を強くすることが急務かつ必要
・アメリカの高い経済成長率の背景に情報技術の大きな変化(フィンテック-ITの金融への応用)がある
・金融緩和や円安に頼るのではなく、経済の構造を変えることによって新しい成長の道を見出すべきだ