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田中角栄ブームと言われています。

戦後民主主義の体現者で人間味溢れる人柄で官僚にも市民にも人気があり、「日本列島改造論」で地方と都市の格差の問題に切り込み、日中国交正常化を成し遂げた田中角栄。

かつて角栄を政敵としてみなしていた石原慎太郎が田中角栄を題材に「天才」を出版し話題となっていますが、佐高氏も角栄について書いた本があって読んだので取り出してきました。

佐高氏は、角栄をダーティではあるが、ハト派としての側面を強調しているのが氏らしいところ。石原慎太郎氏はその視点はないはずです。

「角栄ブーム」は角栄のような政治家が政界にみえなくなった大衆の哀愁もあるかも知れません。参議院選挙の一助になればと思います。

読書メモ↓

・自分の弱さを知っている人は他人にも優しくなる。優しさを持った人間こそ、本当に強い人間


・越後の人間はつらい出稼ぎの経験をもっているので、根性で耐え抜いている


・村上正邦

「田中角栄って人は、世間では金権政治の権化みたいに思われてるけど、お金だけであれほど人の心をつかむことはないんですよ。お金だけで人は動かない」


・(村上)角さんは金によって人間が左右されるとはひとつも言ってない。金を使ってきた人間だけど、金に使われてきた人間ではない。角さんは金を使って自分の理想を実現させようとしたが、いまの政治家は人を金で釣っているだけ


・河野謙三の田中評

「決断の速い逸材。先が見えすぎるから世の中よりテンポが速すぎる。その辻つま合わせを金の力でやるのが失敗のもと」


・(河野)権力を一番巧みに使っているのが官僚。その代表が官僚政治家。官僚はハラでは国民をバカにしている。選挙で役人がむやみに出てくるのが日本の民主政治の大きなガン


・(河野)政治とは、日の当たらないところに血を通わせるものでなくてはいけない。働く人や弱い人の味方が政治家のあるべき姿


・田中は国家百年の計のために日中国交正常化を進め、石原慎太郎もそれを阻止することこそが国を売らない道だと考えていた。暮らし重視の国家観とイデオロギー重視の国家観の相違


・田中「軍資金は心して渡せ。上から目線で、くれてやる、という気持ちが少しでもあれば、相手にもすぐ伝わって一銭の価値もなくなってしまう。受け取ってもらって、ありがたい。土下座する気持ちで」


・大平正芳「人間というのは、生きているのが仮の姿、特別の形態なのかもしれない。生がやっと持ちこたえられるいっときの姿であって、死が常態なのではないか」


・市民派はクリーンかダーディかだけで政治家を判断してしますが、そこにもう一つ、タカ派かハト派というモノサシを入れなければならない。角栄はダーティなハト派だが、清和会はクリーンなタカ派が多い


・安倍晋三側近は保守の知恵がわからない


・後藤田正晴「角さんは地べたから這い上がっている。だから、人が使えるんです。真紀ちゃんにはそれがない」


・後藤田正晴が角栄に惹かれ、田中派に属したのは、角栄が飲み込みが早く即決してくれるからだった。見極めが非常に早くて正確


・野中広務は小泉純一郎に危険なものを感じて、それと闘い、引退した。小泉の後継者の安倍晋三の危険な政治に警鐘を鳴らしている


・小泉は「自民党をぶっ壊す」と主張したが、それは「田中政治をぶっ壊す」ことになった


・田中秀征「安岡正篤が示しているのは政治家哲学。政治哲学は公的なものだが、政治家哲学をひけらかす政治家を信用できない」


・ロッキード事件検事堀田力「角栄さんは人間的にものすごい、桁違いの魅力がある人」


・田中が一番敏感なのは「差別」


・吉田学校の優等生は池田勇人と佐藤栄作。田中は佐藤派だったが、積極財政論と中国との国交回復を説いた政治姿勢は、石橋湛山・池田勇人の流れを汲む者


・反共の吉田と容共の石橋は政敵。石橋の日中国交正常化の意志を田中が継いだ


・石橋湛山「山縣の死も意義ある社会奉仕」「我が国の総ての禍根は小欲に囚われ志の小さいこと。大欲を満すがために、小欲を棄てよ」


・大内兵衛 日本のすべての政治家は、ファシストが大部分で、リベラルは少数。戦前は犬養毅・原敬であるが戦後は(病気に倒れたが)石橋


・石橋・池田・田中というハト派の系譜は、フェニミストの系譜といっていい


・官僚であった田中は、行き詰った難題を非日常的手法で片づけてくれる政治家だった。それが故に、田中は官僚からも反官僚の庶民からも喝采を浴びた


・田中「役人はエライ地位につきたい動物。めんどうをみて大事にするとちゃんと従うもの」


・田中が反対したNTTや郵政の民営化は田中の利権の牙城だからだけではなく、民営化という名の会社化は都市と地方の格差を広げ、公共を消すものだから


・田中はノーと言えない人。石原慎太郎が困った時でも


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・田中は冠婚葬祭の「葬」を大事にした。お祝いはいつでもできるが、死んだ方は待ったなしだから

・藤原弘達「政治家の田中角栄のすごさは、理屈をこねないでいきなりストレートにグイグイくる。相手の欲望がどこにあるかを見抜こうとして」


・西郷隆盛は明治維新の立役者でありながら、西南戦争を起こして賊将とされた。一世にして勝者と敗者を経験した。歴史は勝者によって書かれる。敗者の歴史は消されるが、西郷は消されなかった。勝者と敗者の双方を体験したことが人気の秘密となって敬慕されている。田中角栄も同様で、未完のイメージがあり不思議な人気を保っている


・ダーディながらも田中はハト派であり護憲論者


・1971年当時自民党幹事長の田中

「現行の日本国憲法はすでに定着している。新憲法の成立過程というのは、占領下のことでもあり、必ずしも理想的なものではなかったと思うが、この憲法は日本人に消化され、ずっと守られてきた。こんごある時期に改正されることがあったとしても、戦争放棄をうたっている9条が改正されることはない。それは原爆の洗礼を受けたという理由による。第三次世界大戦があれば、それは原水爆戦争となり、人類の死滅を意味するという認識に立って日本は国際紛争は軍事力で解決しないという考えを貫く」


・早野透「越山会には元共産党員や元共産党員もいた。利益還元政治というより民族同盟。盟主の角栄を裁こうとする東京エリート権力への抵抗の気持ちがある」


・田中は戦後民主主義の体現者