マンガでわかる永続敗戦論/朝日新聞出版
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http://booklog.jp/item/1/4022512903


若手の政治学者白井聡氏の日本戦後評論に一石を投じた「永続敗戦論」をマンガにした本。


安倍総理の言う「戦後レジュームからの脱却」は、対米従属をより強化する「永続敗戦レジュームの強化」にすぎないのではないか?という戦後日本の社会と政治に疑問を投げかけています。いかに戦後日本の平和と発展が偶発的で幸運で、かついびつであることを。


左右両派の主張が永続敗戦レジュームの枠内にある、と批判し断じている氏の独自の評価には意見が分かれるところですが、原爆投下や沖縄の構図が構造的な問題であることがよくわかりますし、伊勢志摩サミットが開催されるタイムリーな時期に、戦後の歴史を学ぶ上で参考になる本かも。



読書メモ↓


・日本の権力の本質を知る良書

丸山眞男セレクション (平凡社ライブラリー ま 18-1)/平凡社
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・原爆を落とされるような事態を招き寄せてしまう政府しか日本は持たなかった


・戦争に敗けたという事実を見続けてきたのがドイツだとしたら、

日本は戦争に負けたという事実から目をそらし続けた


・日本は原爆という新兵器の実験台の道具にされた。ゆえに被爆の体験は悲惨の極致であるとともに恥辱の経験でもあった


・国家は自国の国益のためにしか行動しない アメリカは自国の国益のためにしか行動しない


・アメリカが日本占領やその後の支配戦略にとって有利と判断したから天皇は戦争の罪も追求されなかったし、退位もしなかった


・マッカーサーや占領軍の天皇への敬愛が単なる打算にすぎないということを理解できないのが戦後の右派


・打算は理解していてもそれを道義的に悪いと評価しアメリカの行為が国家として当然の振るまいにすぎないということを理解できないのが戦後の左派


・天皇制が維持されたことも戦争責任が一握りの軍部指導者に限られたこともアメリカにとっては便利だった


・戦勝国のアメリカの意向に沿う日本人(親米保守政治勢力)を支配層にとどめたことが「対米従属構造」をつくった。その支配層にとっては負けた責任を追及されては困る、だからそれをごまかすために敗戦の否認が必要だった


・敗戦を否認しているからこそ際限のない対米従属構造を続けなければならず対米従属を続けている限り敗戦を否認し続けることができる


・永続敗戦レジュームの構図
①敗戦の結果、親米保守勢力による対米従属

②親米保守勢力は戦争責任を追及されたくない敗戦の否認

③歴史認識が敗戦にならない。敗戦に気づかないから敗戦の帰結としての対米従属にも気づかない

④結果として対米従属が続く


・右翼も左翼も共有してきた「敗戦の否認」


○東京裁判

右 「勝者の裁き」であって不当な裁判である

左 対英米戦争における「罪」を追及しただけで不徹底


○平和憲法

右 GHQによる押し付けなので改定(自主憲法制定)すべき

左 先進的理念を世界に先駆けて体現したので護持すべき


○天皇制

右 マッカーサーが昭和天皇の「無私の精神」に感激したためだから、存続は当然

左 戦後民主化改革の不完全さの表れ


・韓国や台湾が威圧的で暴力的な政治体制が続いたのは、中国やソ連の共産主義側と対立していたアメリカにとっては台湾や韓国が共産主義国になるのは絶対に避けたかったゆえに反共あれば、冷戦構造の真の最前線であったから


・日本は反共産主義における最前線ではなかった。その結果戦後日本の政治権力体制に民主主義の装飾をまとめる余裕がアメリカにはあった


・朝鮮半島がすべて共産化した場合、日本の戦後民主主義が生き続けられたかどうかも疑わしい(ブルース・カミングス)


・戦後日本の民主主義は、偶然恵まれた地政学的余裕によって成り立ったもの。しかもそれはアメリカの国益追求に沿ったものとして初期設計されたにすぎない。そういう意味で韓国・台湾の軍事独裁政権と変わらないアメリカの対アジア戦略の産物


・日本が反共産主義の最前線でなかったために日本が恩恵を受けているもうひとつのことは「豊かさ」


・吉田茂が選んだ軽武装・経済成長路線は軍事費を抑制し、経済政策に重点を置くことによって豊かさを実現した。でも戦後日本はアジアでの戦争(朝鮮戦争やベトナム戦争)を経済発展の好機として利用してきたとも言える


・戦後日本の平和と繁栄は永続敗戦レジュームの仲の平和と繁栄にすぎない


・戦後日本が享受してきた平和や繁栄、民主主義は、偶然の産物である地政学的余裕によって成立可能となり、冷戦の真の最前線を他国に押し付けることによって可能となった


・ただし沖縄は、戦略的重要性から冷戦の真の最前線として位置づけられた


・日本は「日本国民の要望」と「米国の要望」の二者択一を迫られた場合、後者ととらざるを得ない構造がある。言い換えれば敗戦後の状況から抜け出せておらず主権が回復していないという事実


・昭和天皇の戦争責任をめぐって最も筋の通った批判を展開したのは三島由紀夫


英霊の聲 オリジナル版 (河出文庫)/河出書房新社
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・永続敗戦レジュームの支配層に成り行きを委ねるならば、一部の親米保守が利権にあずかれる一方で国民の多くが収奪される浩三


・冷戦構造の崩壊で、アメリカにとっての日本は、アジアにおける無条件的な第一の同盟者ではなくなったことで、日本の対米従属一辺倒の方針は合理性を失った


・北方領土や尖閣諸島といった領土問題で問題をややこしくしているのは、サンフランシスコ講和条約にソ連も中国も参加していないから、日本は領土問題を含めソ連・中国と個別で戦後処理をしなければいけなかった


・ダレスの恫喝は沖縄返還をしない、という歯舞色丹二島返還で北方領土の決着をしようとしていた日本政府に横やりを入れたものだった


・サンフランシスコ講和条約で放棄した領土には千島列島全体が含まれることは当時の日本の政治家や外交官がはっきり認めていたこと


・ポツダム宣言とサンフランシスコ講和条約に共通する基本原則は、日本の領土は日清戦争以降に武力で獲得した領土は含まない、となっている


・領土問題は敗戦の後始末。敗戦の否認を続けている日本の支配層は領土問題の道理ある解決に向けた能力を根本的に持たない


・主体的に米戦略に参加することで発言力が強まり立場が対等に近づく、ことが日本の対米従属を深めるほど日本が米国から自立する、ことにはなっていない


・アメリカにとっては日中の関係に一定のくさびを打ち込んでおくこと、日中関係が親密にならないよう火種を残しておくことが重要な戦略


・ダレスの恫喝は北方領土問題が日ソ間で解決し、日本人の非難の目がアメリカの沖縄占領に向かないようにするため、日本のソ連に対する敵意を持たせ、ソ連の友好国になることを避ける狙いだった


安保条約の成立―吉田外交と天皇外交 (岩波新書)/岩波書店
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・人々が自分たちが所属する国家の歴史について「薄々感じてはいたものの公には認めることのできなかったこと」を正面から認めざるをえなくなったとき国家は支配の正当性を失うことになる


・「あなたがすることのほとんどは無意味であるがそれでもしなくてはならない

そうしたことをするのは世界を変えるためだけではなく

世界によって自分が変えられないようにするためである(ハマトマ・ガンジー)


・歴史認識の変化は体制をも壊す力がある(ソ連崩壊の例)


・近年日本社会ではっきりと目立つのは第二次世界大戦での日本の蛮行・愚行を否認しようとする傾向。これがわかりやすい「敗戦の否認」。「悪いことばかりではない」「そんなに悪いことはしていない」と主張することによって支配層を正当化し自らを慰める


・安倍首相は「敗戦の否認」を「戦後レジュームからの脱却」と称しているが、このスローガンが異様なのはそれをはるかに上回るレベルで対米従属を追求していること。彼は戦後レジュームの本質を全く理解できていないために、対米従属のさらなる深化を「独立」と取り違えている


・「敗戦の否認」は空想である。本当にそれをやり遂げるなら、もう一度アメリカを初めとする連合国と戦争し、勝たなければならない


・「永続敗戦論」が「対米従属」そのものを批判しているものではない。問題は対米従属そのものではなく、日本の対米従属の特殊なあり方。日本社会の奇妙で歪んだ権力のあり方が「永続敗戦論」における批判の対象