永続敗戦論――戦後日本の核心 (atプラス叢書04)/太田出版
¥1,836
Amazon.co.jp

・やれば必ず負ける、と各界の権力者・識者のほぼ全員が理性の上では招致していながら、太平洋戦争を開戦した


・丸山真男~東京裁判において、「それを望んだわけでもなく内心反対していたのだが、何となく戦争に入っていかざるを得なくなった」としか証言できない戦争指導者たちの体制そのもののデカダンス


・平和憲法と非核三原則を掲げた世界唯一の被爆国でありながら、秘密裏に核兵器開発の秘密協議を持ちかけていたことに本当は気づいていながら、その無意識的な認識を否認し続けてきた


・日本は三つの領土問題(北方・竹島・尖閣諸島)を事実上抱えており、戦火を交える可能性が十分にある。国家にとって領土問題は譲歩することがきわめて困難な問題


・「問題の本質は突き詰めれば常に、「対米従属」という構造に行き着く。アジア(+ロシア)諸国に対する排外的ナショナリズムの主張は、意識的にせよそうでないにせよ、日本に駐留する米国の軍事力の圧倒的なプレゼンスのもとで可能になっている。日本が「東洋の孤児」であり続けても一向にかまわないという甘えきった意識が深ければ深いほど、それだけ庇護者としての米国との関係は密接でなければならず、そのために果てはどのような不条理な要求であっても米国の言い分とあれば呑まなければならない、という結論が論理必然的に出てくる」


・対米従属がアジアでの孤立を昴進させ、アジアでの孤立が対米従属を強化するという循環

・愛国主義を標榜する右派が親米右翼や親米保守を名乗るという、外国の力によってナショナリズムの根幹的アイデンティティを支えるというきわめてグロテストな構造が定着


・戦後の全般的腐敗は、民主主義・平和・繁栄の物語の只中で形づくられてきた、とすれば日本人が抱いてきた戦後観に根本的な誤まりがあったことを認めなければならない


・戦後の概念を底の底まで見通すことによって、それを終わらせなければならない歴史的瞬間に立っている、そのために歴史意識の変革がきわめて重大な事柄


・人々が自ら属する人間集団・国家の歴史について、「気づいていながら公には認めることのできなかったこと」を正面から認めざるを得なくなったときその社会体制は我慢することのできない全般的な犯罪として現れる


・支配体制の歴史と記憶に対する支配の実効性と、現実的支配の実効性の度合いは、正比例の関係


・戦後という歴史感覚・現実に対する感覚を強力に規定する時代区分への見方を変更したい、しなければならないという機運の高まりは、これまでの体制の歴史に対する支配力が失われつつある、歴史に対する支配を失った権力は、現実に対する支配をも遠からず失う運命


・戦後という歴史の枠組みに対する批判や否定を積極的に試みてきたのは主として右派勢力


・戦後日本においてほぼ一貫して保守勢力が支配的立場を維持してきたにもかかわらず、戦後を終わらせる試みは成功しなかった


・日本の保守勢力による権力の独占は、戦後を終わらせるどころか戦後の際限なき継続を必当然的にもたらした。戦後を終わらせるという意思の表明は、それを実行しないことによってのみ可能とであった、という逆説が横たわっている


・選挙による国民の支持を取り付けている首相であっても、「国民の要望」と「米国の要望」の二者択一をせまられた場合、後者を取らざるを得ない、という客観的な構造にほかならない


・2009年の政権交代の意義は、日本の戦後民主主義なるものの根本的存立構造を赤裸々に明るみに出した


・日本の国家構造は、たかちの上ではかつてのような強力な軍事・国内治安装置を奪われたが、そうした装置は国外の近隣地域で再生され、アメリカの費用負担によって維持された


・敗戦による罰を二重三重に逃れてきた戦後日本の姿(本土決戦・一部の軍部指導者に限られた戦争席に追及・経済再建高度成長・沖縄の要塞化・国体護持)冷戦構造という大局的な構図に規定されることによって「日本が第二次世界大戦の敗戦国である」単純な事実を覆い隠してきた


・敗戦国という事実を動かす方法はもう一度戦争を行って勝利する以外に道はない


・敗戦そのものが決して過ぎ去らない、敗戦後など実際は存在しないという事実

敗戦の帰結としての政治経済軍事的な意味での直接的な対米従属構造が永続化される

敗戦そのものを認識において巧みに隠ぺいするという日本人の大部分の歴史認識・歴史的意識の構造が変化していない、という意味で敗戦は二重化された構造をなしつつ継続している


・永続敗戦の構造は戦後の根本レジュームとなった(これが相当の安定性を築き上げることに成功した)

事あるごとに戦後民主主義に対する不平を言い立て戦前的価値観への共感を隠さない政治勢力が、「戦後を終わらせる」ことを実行しないという言行不一致を犯しながらも長きにわたり権力を独占できたのはこのレジューム

・日本帝国は必ずしも負けていないという信念(しかし、ポツダム宣言受諾の否定、東京裁判の否定、サンフランシスコ平和条約の否定は米国による対日処理の正当性と衝突する)


・3つの領土問題のいずれもが第二次大戦後の戦後処理(ポツダム宣言受諾~サンフランシスコ講和条約)に関わっている


・日本の支配的権力は敗戦の事実を公然と認めることができない、がゆえに領土問題の道理ある解決に向けて前進する能力を根本的に持たない。したがって「北方・竹島・尖閣は我が国のもの」不条理なことを言う外国は討つべし」という国際的にはまったく通用しない勇ましい主張が愛国主義として通用する無惨きわまりない状況


・サンフランシスコ講和条約に中国・韓国・当時のソ連は参加していない


・ポツダム宣言第8条~カイロ宣言により日清戦争以降に獲得した領土をすべて失うと同時に「吾等」=連合国(米・英・中華民国・後に加わるソ連)が主要四島以外の日本の領土範囲を決定するという原則を受け容れるほかなかった


・中国はサンフランシスコ講和条約そのものの有効性を認めていない(当時は中華民国=台湾で中国は代表派遣を拒否されていた)


・日清両国の問題は尖閣だけでなく尖閣を含む沖縄全体の帰属問題だった


・米国が参戦を決意するとすれば、尖閣諸島問題への中国へのコミットメントを同国の派遣拡大の決定的な契機とみなし、それを相当の覚悟を持って叩きに出るという事態以外には想定不可能


・日本は米国に対しては敗戦によって成立した従属構造を際限なく認めることによりそれを永続化させる一方で、その代償行為として中国をはじめとするアジアに対しては敗北の事実を絶対に認めようとしない。そのような「敗北の否認」を持続させるためには、ますます米国に臣従しなければならない


・南樺太は日露戦争の結果として日本がロシアから獲得したが千島列島は1875年に樺太千島交換条約によって平和裡に日本領土で編入された


・米国がソ連による千島列島の実効支配を暗黙裡に認めたのと日本が千島列島を放棄することに同意した


・サンフランシスコ講和条約において日本は千島列島をすでに放棄していた


・日ソ共同宣言において日本は歯舞諸島と色丹島以外の島々をすべて諦めることを呑まざるを得なかった(シベリア抑留者の帰国事業と国連加盟実現のため)ソ連は勝者の寛大によって歯舞諸島と色丹島を日本に返してあげる、という論理構成


・ダレスの恫喝~北方領土問題が日ソ間で解決することを妨げ、日本人の目がアメリカの沖縄占領に向かないようにする、日本のソ連に対する強い敵意を持ち続けさせ日本をアメリカ側に留まらせる


・四島返還日本の主張は明白にソ連に対して無理筋


・国後択捉は千島列島でないという見解は常識に逆らう政治的こじつけ


・固有の領土概念は確たる原則に基づく主張ではなく対米無限従属的外交方針を永続化させるための、無原則なご都合主義を正当化する方便にすぎない


・日本政府はサンフランシスコ平和条約ですべての千島列島を放棄したとの立場を明確にとっていたにもかかわらず、その後立場を変更し、その変更を隠ぺいして国民を欺き続けている


・ソ連の対日参戦から日ソ共同声明までの行為は道義的に非難されるべき事柄が多くあるが、ソ連にとっては日本のシベリア出兵に対する報復の要素を持っていた


・日本外交の相手に応じて手練主管を変えるという短視眼、場当たりの日本外交のあり方は国際的に通用しないことを政府も国民もいい加減知るべき(浅井基文)


・領土問題は政府・国民はポツダム宣言とサンフランシスコ講和条約の内容に真正面から向き合うことを強いられ、敗戦の事実とあらためて向き合うことを要求される


・日本にとっての最重要課題が、北朝鮮の核兵器とミサイル開発の問題よりも拉致問題に置かれているかのごとき雰囲気が醸成された


・政治の論理からは、核武装とミサイルの問題の重大性に比したとき、拉致の問題がどれほど腹に据えかねる事柄であっても第二義的なものとして位置づけられざるを得ない


・日朝交渉は米朝の接近が全くないという文脈において企てられた戦後初めての自主外交の試みであった


・小泉外交は永続敗戦レジュームを維持したまま、ポスト戦後へと踏み出した、拉致問題がもたらした加害者から被害者への転身は敗戦に対する思う存分の否認を可能にした


・「戦後とは要するに、敗戦後の日本が敗戦の事実を無意識の彼方へと隠ぺいしつつ、戦前の権力構造を相当程度温存したまま、近隣諸国との友好関係を上辺で取り繕いながら(カネで買いながら)平和と繁栄を享受してきた時代であった」


この状態を唯一承服しなかった近隣国が北朝鮮にほかならなかった、彼らは拉致というかたちで戦争を継続してきた


・自らが被害者になったときのみ筋を通し、加害者の立場のときにはカネで解決するという姿勢はダブルスタンダードにすぎない


・日本は、「対米関係を除き敗戦の代償をあらゆる手段をもって最小化する」という国是


・拉致問題解決への意欲の姿勢の本質は被害者の救済ではなくこの問題の政治利用


・右派 東京裁判は勝者の裁きで不当、平和憲法は押し付け、天皇制の存続はマッカーサーが天皇に感激したかから

 左派 東京裁判は対英米戦における罪を追及したものにすぎず不徹底、平和憲法は世界史の大道を先駆的に体現してものであり護られるべき、天皇の責任追及はの放棄は戦後民主主義改革の不完全さの端緒である


これらの議論が評価のかたちをとったそれ自体、道徳の言語によって行われてきたこと

・国家なるものは決して道徳的であり得ない


・天皇の戦争責任はほとんど不問とされたが、天皇の免罪は米国側の都合によって決定された事柄


・昭和天皇の戦争責任を問わなかった米国の政策の善悪の道徳的問い自体が無意味


・占領軍の天皇への敬愛が単なる打算にすぎないことを理解できないのが戦後日本の保守であり、そのことを理解しても米国の打算が国家の当然の行為にすぎないことを理解しないのが戦後日本の左派


・憲法9条はアメリカの左派官僚の理想と、日本を米国の軍事的脅威とな得ないようにする米国のむき出しの国益追求と結びつくことによってはじめて現実化された


・TPPが標的とするのは関税ではなく、非関税障壁である


・日本の領土問題にはすべて米国の過去と現在の対日戦略が影響している


・米国の国益は、中国と日本が接近協同して米国中心の世界秩序への挑戦を企てることが最悪の構図。したがって日中の関係に一定の楔を打ち込んでおくことが重要であり軍産複合体の利益にもかなう


・ただひたすら日米関係を損ねないように行動することが日米外交最大の課題として位置づけられてきた


・永続敗戦の構造は政官財学メディアの各界に張り巡らされた利権の構造


・我が国は立派な主権国家であることは真っ赤な嘘


・事実的には、米国の世界戦略に日本が全面的に付き合わなくて済んだのは「押し付け憲法」たる平和憲法とソ連のプレゼンスを背景とした社会主義政党の有力ゆえ


・現代の安全保障サークルの若手住人も永続敗戦の構造に目を向けようとしない、米国の言いなりどころか米国が言いそうなことの言いなりになることによって日米以外の諸国との関係において何を失うことになるのか考えもしない


・自民党結党時の綱領的文書では、民主主義・自由主義の尊重擁護の戦前的なるものを否定される一方で、我が国の弱体化を目的として国家観念と愛国心を抑圧し、と戦前的なるものの肯定と否定が曖昧に共存していた


・日本は米国の後ろ盾なしに周辺諸国へと向き合わねばならないか、アジアとの緊張に向き合うかの選択を強いられる可能性が。その場合永続敗戦の構造、その本質に否応なく向き合わされることになる


・永続敗戦の継続を可能にした最大の原動力は、戦後日本経済の成功であり、それによって確立された東アジア地域における日本の突出した経済力であった。戦後日本の国是「平和と繁栄」が相補的なものであった。しかし今日繁栄が昔日のものとなりつつあるなかで急激に平和も脅かされつつある。高邁な理念が東アジアの経済力の突出性に裏付けられていたにすぎなかったことを露呈させている


・対米従属による平和と繁栄路線を支持した日本人の多数派もまた、日米安保体制は必要だが、できるだけアメリカの戦争に巻き込まれないようにする保証として、憲法9条に利用価値を認めてきた


・永続敗戦レジュームの中核層と平和主義者との間に成り立った奇妙な共犯関係がある


・原爆投下を恥辱と感じることは、即座にかかる事態を招き寄せてしまうような恥ずかしい政府しかわれわれが持つことができなかったことでもある


・ポツダム宣言受託への戦中指導者層が譲らなかった条件は国体の護持であった


・戦前のレジュームの根幹が天皇制であったとすれば、戦後レジュームの根幹は、永続敗戦である


・対米関係で敗戦の帰結を無制限に受け容れている以上、顕教的次元を維持するためにアジアに対する敗北の事実を否認しなければならないが、それは東アジアにおける日本の経済力の圧倒的な優位によってこそ可能になる構図だった。しかるに今日、この優位性の相対化に伴って、必然的に永続敗戦レジュームは耐用年数を終えた


・永続敗戦のレジュームが、日本の親米保守勢力と米国の世界戦略によって形づくられた


・三島由紀夫は、昭和天皇の戦争責任を真正面からとらえ、平和と繁栄に酔いしれる戦後日本の精神的退廃を指摘していた


・ポツダム宣言は日本からの軍国主義の完全除去と平和主義の徹底を命令した。君民相和する国体は平和主義と共存可能ゆえに残り、犠牲社会の方の国体はきれいさっぱり拭された


・永続敗戦レジュームの主導者たちは、このレジュームを維持したまま、新しい国体により深く依存しながら、再び犠牲のシステムを構築しようと企てている


・本土決戦が回避され戦争を終結させたのは、国民の犠牲者の数を抑えることよりも、国体護持を危うくすると判断されたから


・国体なるもの、それを内部から破壊することができるのか、それとも外的な力によって強制的に壊される羽目に陥るのか


・ドイツがEUの中核国という地位を占めるに至ったのとは対照的に、日本が近隣諸国とのあ間で領土問題、歴史認識等で軋轢の火種を消し去ることができないがゆえに、アジア地域での指導的立場を占めることが決してできない


・命ぜられた通りに鬼畜米英と叫んだ同じ口が、命ぜられた通りに民主主義万歳と唱えアメリカは素晴らしいと唱和する光景は無惨な有り様


・勝てるはずがないとわかっていた戦争に何となく突っ込み、自国民の生命をまるで顧みることなく、自国を破滅の淵に追いやった指導者の責任、負けたことの責任という最も単純明快な責任でさえも、実に不十分な仕方でしか問われなかった


・東京裁判の過程で、なるべく多くの罪を帝国陸軍の指導者層にかぶせて天皇の免訴を勝ち取ろうとする日米合作の筋書き




「永続敗戦それは戦後レジュームの核心的本質であり、「敗戦の否認」を意味する。国内およびアジアに対しては敗北を否認することによって神州不滅の神話を維持しながら、自らを容認してくれる米国に対して盲従を続ける。敗北を否認するがゆえに敗北が際限なく続く~それが「永続敗戦」という概念の指し示す構造である。今日、この構造は明らかな破綻に瀕している」