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誰も戦争を教えてくれなかった/講談社
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既存の思想やイデオロギーとは離れた立場の気鋭の若い社会学者の本。

私も予備知識なしに、アウシュビッツを訪れたり、先週訪問した沖縄の平和祈念公園でも、

著者との思いを共有したかのような臨場感を持ちました。

・パールハーバーメモリアルは勝利に溢れた空間

・アメリカは戦勝国であり、国に殉じた人々はヒーローとして弔われている

・アメリカは日本と違っていま現在も戦争を行っている国

・多くのアメリカ人にとって、第二次大戦は、本土の被害なく、戦時経済で多くのアメリカ人の生活レベルが上がったことからよい戦争として記憶されている

・多くの国が「戦争博物館」を持っており、その国の国家観や戦争観を感じることができる

・戦争の残し方の違いを知る

・南京大虐殺紀念館は、旧日本軍の残虐さを強調した上で、中国共産党の寛大さによってもたらされた日中友好が提示されている

・戦争博物館とはすぐれて政治的な場所、戦争は外交の一環

・近代国民国家は政教分離からスタートした。だけど人々をまとめ上げるのに宗教ほど便利なものはない。そこで宗教に代わる新しい国民神話を国家プロデュースのもと作ろうとした

・博物館は国家の歴史にとってふさわしいものが展示対象として選ばれる

・近代国家というシステムは、いかに戦争に勝つかということを第一目標に構築されてきた

・シェークスピア「戦争とは魅惑的なもので、平和とは退屈なものだ」

・日本人は戦争のことを知らない。だけどそれは日本という国家の望んだ姿なのかも知れない(日本には国家による戦争博物館がない)

・各国の展示には、それぞれの国の見せたい「歴史」、そして語りたい「物語」が並べられる

・日本とドイツの決定的な違いは、歴史観という態度よりも、実施に移された行動に顕著に表れる。ベルリンに大型歴史施設が五つもある。

・第二次大戦における敗戦を未だに宣言し続けるドイツの姿は、威風堂々としていて、戦後処理の優等生と言われる。だけどその裏側には、泥沼の論争、高度に政治的な駆け引きがあった。

・目を背けたくなるくらい残虐なものは同時に魅力的である

・博物館の役割は「閉じ込めること」であり、それ自体が異例の一種かもしれない

・イタリアは、ムッソリーニが1943年に失権、逮捕されており、その後ドイツ・日本に宣戦布告を行っていることから戦勝国の面も

・近代国民国家という枠組みで国というものを考えてしまうと、多くのことを見落としてしまう

・戦争はダメ絶対と繰り返しながら、戦争の加害者にも被害者にもなりきれない日本と威風堂々と敗戦を宣言し続けるものの、何かとゴタゴタが続くドイツ、国家ではなく地方の歴史として戦争を語り継ぐイタリア

・ドイツは突出して国家としての戦争の記憶を残そうとしていることがわかる

・第二次大戦後主権国家同士の戦争は減少しているが、低強度紛争は世界のあちこちで無数に発生している

・ゲリラ・テロリストが暗躍する小さな戦争では防衛の担い手も国家による正規軍から株式会社による安全保障ビジネスに移行しつつある。もはや世界は第二次大戦モデルなんかで動いていない

・中国の戦争博物館は、日本軍が行った残虐行為を執拗に記述する一方で、最後は日中友好と世界平和その重要性を謳っている

・戦争というものはきっと、遠く離れれば離れるほど、まるで知らなければ知らないほど、盛り上がれるもの

・日本人に対しても非常に好意的だし、日本文化も好き。だけど日帝時代のことは許さない、韓国人の感情

・韓国は軍隊によって武力によって平和が維持されていると印象づけられる

・竹島・独島問題は根深い問題であり、韓国にとって愛であり韓国独立の象徴となっている

・沖縄平和祈念公園は、死の前の平等性と、敵味方なく人類が戦争を繰り返してはならないという共同の責任を想起させる

・ややこしいことは普遍化してしまうのが一番楽

・沖縄戦で多くの人々がアメリカ軍に殺された。しかしアメリカ軍の上陸を許したのは日本軍であるし、戦争の長期化を許したのは当時の政府であるし、そのような戦争を認めたのは日本国民

・日本はあの戦争のことを真正面から取り上げようとはしてこなかった

・戦後日本の経済的繁栄は、敗戦で経済後進国になったため追いつき型近代化が可能になったこと、冷戦が続く中で東アジア諸国が世界の工場たり得なかったことなど、いくつもの偶然の上に可能になったこと

・日本の多くの施設ではイデオロギーに抵触しないような中立的で控えめな歴史説明がなされ、加害者や被害者という立場は脇に置かれ、文字通りただ平和が祈念される

・ハコモノを作ったからといって、自動的に平和が達成されるわけでもないし、急に歴史観が変わるわけでもない

・一度に大勢に対して向けられたメッセージは実は誰の心にも届かない

・第二次大戦は兵士2000万人民間人4600万人6600万人の命が奪われた世界史上最悪の殺戮事件(日本は310万人)

・戦争というものは近代国家が悪玉となって起こされたという面もあるが、国家の登場そのものは暴力による死亡率を歴史的には大幅に下げた

・平和を作り出すには、暴力をコントロールする存在が必要になる、それが国家だ

・国家とはあるエリア内で、権力を独占する団体のこと。基本的には暴力団と一緒で、税金や徴兵というみかじめ料を取る代わりに、そのテリトリー内に住む人々の安全を保障する

・20世紀の二度の世界大戦は近代国民国家が起こした戦争であり、過去に例がない規模の総力戦。それは中央政府が強大な権力を持つ近代国民国家の存在なくしてはあり得ない

・2001年のアメリカ同時多発テロはテロリスト集団が十分に国家を動揺させる戦争ができることを証明してみせた

・テロによる新しい戦争はもはや戦争が国家対国家のものだけではなくなったことを示している

・技術力があれば一人でも国家相手に戦えるサイバー戦争もあり得る

・世界の相互依存度が高まった現代において、第三次世界大戦のような事態が起こる危険性は非常に低い

・軍隊の役割も救援活動や環境保護監視など見直されていく

・戦争に勝つとう目的を経済大国という目的に付け替え日本は未曽有の経済成長を達成できた面も

・共通の敵を前にすると、人は団結できるといわれる。しかし、戦時下の日本を見る限りどうやらそれは嘘らしい。誰もが愛国や滅私奉公を叫びながら、私利私欲のために動く。ひどい欠乏状態の中で、多くの人は公共心など持てるはずがなかった

・国際的にはアメリカンの用意したストーリーを受け入れたはずなのに、国内では戦争に関する様々な物語が行き交う状況が生まれた

・日本が国際的な地位を獲得していきたいならば、東京裁判やサンフランシスコ平和条約で前提とされた物語と抵触しない大きな記憶を確定させたほうがいい。日本が、中国を含む戦勝国連合である国連の常任理事国を目指すならば、戦争責任は明確に認める必要がある。それは、これまでのように、ただ対外的なお詫びをするのではなく、そのお詫びの内容に沿うような大きな記憶を国民や政治家に定着っせていくことをも意味する

・人生の大事な時期の過ごし方を国家に決められることはない中で、徴兵や市民サービスを課される国もある

・日本国には建国の理念がない

・戦争を語る大きな記憶も未だ成立していないが、日本は平和な国であるという自意識はある

・世界的には平和という時に対抗暴力の存在を認めることが多いが、日本は平和とは長らく非軍事を意味してきた

・体験が伴わない思想はおおよそ頓挫する運命にある

・中国や韓国との開戦を願うような好戦的な人々も一部には存在するが、彼らの活動の裏側には不安定な労働環境や承認不足があり、これは歴史教育というより経済政策や社会保障の充実という観点から考えるべき問題

・アメリカとの安全保障体制や国際社会の目がある中で、東京裁判レジュームから抜け出すのは不可能

・たぶん憲法が変わったからといってすぐに日本で戦争が起こるわけでもないし、逆に憲法を守れば絶対に平和というわけでもない