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虚構のアベノミクス――株価は上がったが、給料は上がらない/ダイヤモンド社
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野口悠紀雄氏のいわゆる「アベノミクス」への批判書。円高定着と高付加価値分野の産業構造改革シフトを長年主張してきた昨今の経済分析書。「バブル経済」語源産みの親の著者が、現在の株価をバブルだと懸念し、

円安と金融緩和の害毒をもとに、アベノミクス政策の転換を迫る理由として、具体的なデータを元に解説しています。




・安倍内閣の経済政策の本質は、資産価格のバブルを利用して、経済活動が好転しているような錯覚を人々に与えることであり、実体経済の構造を改革しようとするものではない


・アベノミクスにより、資産価格バブルが膨張する過程では実体経済に影響が及ばず、むしろ賃金の低下と設備投資の減少が続いた


・日本財政への信頼が失われると実質金利が上昇する危険


・株価上昇は生産性向上や需要増加など実体的企業活動の改善に裏付けられたものではない。現在の日本の株式市場は企業業績への評価ではなく、為替レートの行方を当てるゲーム市場になっている


・円安は海外生産からの配当の円換算値を増やすが、国内の雇用は増やさない。円安で賃金が上昇するとは考えにくい


・国内に高付加価値産業が誕生しなければならず、その方策が成長戦略で示されなければならない


・リーマンショック後の急激な円高状況にもかかわらず、日本の実質輸出は増えた。原因は中国の景気刺激策などの世界経済からの影響。輸出の影響は為替レートではなく世界経済のファンダメンタルズ


・輸出が増えるためには世界経済の回復が必須条件


・金融緩和、株価上昇にもかかわらず、設備投資が増加する気配はない


・円安が進もうと、今後国内に新規工場をつくることはせず、海外の生産拠点に投資が続く可能性大


・日本の自動車輸出は台数で対前年比で減少を続けている。自動車メーカーの利益の増加(2012年)は

11年の落ち込みの反動と、エコカー補助金によるもの


・円安とは、日本人の労働の価値が海外から見て安く評価されること。だからこそ企業の利益が増えるのだ。実質賃金が低下して資産所得が増加する。これは、所得格差を広げることになる


・円安とは、国内労働者の実質賃金を下落させることによって企業の利益が増加するプロセス


・円安の負の側面はすでに無視できない大きさになっている。日本の年間輸入は約70兆円なので20%の円安は輸入額を14兆円増やす。これは消費税率5%の引き上げによる税負担増加分を超える


・今後の為替レートはユーロ情勢とアメリカの金融政策や景気動向で決まる。日本は金融緩和をし尽してしまったので、これ以上円安を進める政策手段はない


・これ以上の円安を食い止めるべき。だが政府関係者は株価下落を知っているから言わない。バブルの教訓は生かされていない


・貿易収支が赤字ということは、燃料や原材料を輸入して、加工貿易型の生産活動を行っても、それを補うだけの輸出ができなくなったことを意味する。つまり日本では加工貿易は経済の重荷になってしまった。世界経済が回復すれば原油価格が上がる可能性もあり、貿易立国の再現はきわめで困難


・円安を追い求めれば、輸入金額は増える。他方で、輸出は増えない


・日本は世界一の金持ち。資産大国としての生き方を今後真剣に探るべき。イギリスやアメリカは経常赤字国でも金利は暴騰していない


・日本の対外資産残高は662兆円。305兆が証券投資、外貨準備が109兆、貸出153兆(2012年)年間の経常赤字が5兆円でも100年以上ある(しがたって国際の海外消化がただちに必要になるわけではない)


・中国の失業増加に伴う社会不安の増大は対日感情の悪化となって表れる


・トヨタの利益は為替変動の利益は1500億程度で、営業面の努力(エコカー補助)6500億、原価改善4500億と見積もっている


・グローバル企業は成長による利益を日本に還流しない


・円安は原材料価格の上昇の悪影響


・日本の素材型産業は円安によって収益が減るような収益構造になった


・株価は日本企業の業績と関係なく上昇している


・利益が増加しても設備投資に回らない、企業は内部留保に回し借り入れをへ減らす。金融緩和によって経済活動を活性化する効果は生じない


・バブルは徐々に形成されるが、崩壊は急激に起こる


・今回の金融緩和は、大胆な、というよりは無謀なものだ。日本はまさに「異次元の世界」に入った


・日銀の国債引き受けで政府が財政支出と財政赤字を拡大させ供給の限界にぶつかるとインフレが引き起こされる


・国債への信頼が失われた場合、国際価格が下落し金利を高騰させることにより日本経済は急速に破壊される


・日本国債の行き詰まりはいますぐ生じることはない。問題はそれが前倒しで起こるかどうか


・インフレによる国民生活の破壊を防ぐため、インフレインデックス国債の発行を求める国民運動を起こすべき


・1990年代以降の日本経済の停滞は、中国などの新興国の工業化によって製造業を取り巻く条件が変化したことにある。それによって、工業製品の価格低下と、賃金水準の新興国へのサヤ寄せが生じた。(デフレ)安倍政権はこうした基本的問題に目をつぶっている


・地方ではこれまでやってきた事業を変える気持ちはまったくない、2004-07年の円安期の記憶が残っている-円安がバブルに過ぎなかった

・20世紀の産業社会は、工場での大量生産を中心とするものであり、大組織と大資本を必要とした。しかい90年代以降、この傾向の大きな変化が生じている。極端に言えば、必要なのは新しいビジネスのためのアイディアだけであると言ってもよい


・1980年代以降に生まれた世代は、成長を知らず、夢を持つことを知らない


・総人口の減少は、経済的に見てあまり重要な問題とは言えない。重要なのは生産年齢人口の一貫した減少


・その解決法は、外国人労働者の受け入れと移民を増やすこと、もう一つは日本人が海外に出て経済活動を行うこと


・人材のグローバリゼーションという点で日本は世界の傾向からまったく外れてしまっている


・出生率が高まると、20年間程度は依存人口が増えるためかえって問題を引き起こす(出生率を引き上げるべきではない、ということではない)


・保守主義とは、本来は自己責任原則と自助努力原則の貫徹。安倍政権の経済政策は日銀の金融緩和と国債市場への介入は経済活動に対する国家の直接介入は国際競争力を失った企業を救済する「左傾化」政策である


・日銀の独立性はインフレの防止のために必要である


・安倍政権は戦時経済政策のごとく左傾化経済政策を目指している


・国に頼ればよい。金融緩和や円安で景気回復すればよい、という考えがある限り日本に未来はない。政府依存からの脱却がまず必要


・利益率が低下する基本的原因はビジネスモデルにある


・従来の製造業の多くを新興国に移し、先進国はより付加価値の高い活動に専念することが必要


・日本が柔軟性を獲得するための最も確実な方法は分権性を高めること


・いま本当に必要なことは、実体経済を変える地道な努力を続けること


野口氏の日本経済における、産業構造転換論、円高優位論、金融緩和反対論は的を得ているように思います。安倍政権の経済政策がいい結果をもたらすならいいのですが、危機に備える必要を感じています。