(※ネタバレご注意)
先日『紀ノ川』を30年ぶりに読み終え
作品が持つ 世界観の深さに
すっかりとらわれてしまい
しばらく呆然としていました
史実や実際の出来事とも
うまくからめてあるせいか
ただの小説とも思えぬリアルさがあり
そのくせ美しいものですから
有吉佐和子という人が
私は少し恐ろしくなってきました
秀作を一生のうちにひとつでも書けたら
それだけで素晴らしいのに
(仮に 自分の時代には評価されなかったり
売れなかったとしても)
やっべえ~ 作品のほとんどが面白い
そんな事って可能なんですかね
もはや 人間ワザでもないような
上記2作と 残る『日高川』を併せて
紀州三部作と言われており
『日高川』の主人公は 龍神温泉の女将さん
私 多分行った事あります~♨
それもあってメチャ面白そう
絶対読まねば
さて本題の『有田川』ですが
土着の豪族を祖先に持つ
地域いちばんの富家で 両親の愛情も深く
何不自由なく育った千代は
10歳のある日 突然知ってしまいます
その両親とは 実は縁もゆかりもなく
自分は10年前の大洪水で
流されてきた拾われっ子にすぎない事を
絹にくるまれ 桐の引出しに入って
赤ん坊の千代は流されてきたので
助かってほしい親心とか
良い生まれなどが察せられますが
結局 千代の出自は
最後まで謎に包まれたまま
それも含めて 明治ってまだまだ
伝説の時代ですよね~
実の子供が生まれてからも
分けへだてなく育ててくれた両親に
衝撃や負担を与えたくない千代は
2年ほど知らないフリで過ごしますが
この家の事業のひとつが みかん栽培
富裕な旧家で 多くの使用人がいて
男衆・女衆と呼ばれ
普通の家では 麦混じりのご飯ですが
千代のうちでは 使用人までもれなく
100%の白米で
惜しげもなく 大量に炊き出されます
この地域のおにぎりはタワラ型ですが
茶碗2~3杯分の白米を
このうちでは豪快にひとつに握るんです
そんな旧家というものの様子が
とてもよくわかる前半部となってて
私はこういう旧家や
お城の話が大好きなので楽しい💕
千代12歳の時に また大洪水が起きて
男衆や父親は 地域イチの強度と幸運を誇る
松の木と自分の体を縄で結びつけて
流れてくる人の救助に当たります
その男気を目の当たりにして
すっかり感じ入った千代は
旧家のお嬢サマなのに
自分も同じ事をしようとしますが
洪水に遠く流され 九死に一生を得て
離れた地域の旧家に助けられます
記憶喪失でもないのですが
そこで使用人として生きることに
赤の他人である自分を育てて
その事すら千代にもらさないよう
最大限の愛情を注いでくれた両親に
申し訳ない気持ちが強くて
このまま身を隠そうと決心します
10歳下の血がつながらない妹
悠紀:ゆきを我が子のように愛する千代には
自分が実家に残れば 妹が跡取りになれぬ
そういう気持ちもありましたケド
10年近く真っ黒に日焼けしながら
主にみかん栽培をやりますが
とにかくよく働くだけでなく
その道の専門家か先駆者とみなされる程
みかん栽培の知識を深めていきます
少しあとには『蜜柑のおばん』と呼ばれ
近隣の人から 一目おかれ
こぞって意見を求められるほどに
千代の祖父のような存在だった
みかん栽培の重鎮 清八っつあんが
青酸カリを使用する除虫駆除で
ほんのささいなミスにより 死亡しますが
千代も表に出さない分
哀しみはとても深いので
多くは書かれてないのに
しみじみと深く哀しい場面ですね
清八っつあんの死に関連して
『柑橘:かんきつ新報』に
千代の情報が掲載されてしまい
ある青年との結婚を控えていた矢先
実家から迎えが来ます
老い始めた母親に泣きつかれても
意志を曲げない千代でしたが
妹の悠紀が――かつて彼女を案ずるあまり
祭事で稚児をつとめる妹の姿を遠くから
人込みにまぎれてながめた千代でしたが
その妹も会いたがっていると聞き
たちまち鉄壁の意志が崩れる
おとぎ話めいて美しい場面
それまで事ごとに彼女をいじめていた
妬み深い年増の女中 サキやんまでが
千代に突然降ってわいた幸福に
我が事のように大泣きしているのが
特に美しいと思いました
(悔し泣きではないです:笑 念のため)
このサキやん 烏賊飯:イカメシなど
意外と料理が上手で
今までみかん一筋だった千代に
家事を仕込んだりしますし🔪
彼女のキャラもリアルで
昔は本当にこういう人いてそうだし
他人事とも思えません
この後 幸せになってくれるといいなぁ
まったりとして 物語を彩る紀州なまり
「今日は良いお天気ですのし」
他にも語尾が
「~よし」「~かし」が多くてのんびり
「うん」という相づちがなぜだか
「いん」とフシギな形に変化するのも独特
当時は 海が遠い地域という事で
お寿司というと鮎:あゆだったそう
匂いはきついみたいですが
美味しそうで食べてみたいな
「有田みかんは日本の印
外は日の丸 中は菊」という
歯切れよくて 景気が良い
江島節が折々登場しますが
「不老長寿の薬はコレよ
有田みかんを日に三度」も良い
みかんと洪水に彩られた千代の人生
人生の終盤でまさかの大洪水が
またまたおそってきます
それだけはやめてあげて~~
いつでも愛情と骨折りを惜しまない
バイタリティあふれる千代にも
ちょうどその頃 老いの影が忍び寄り
肥満を始めた外見よりも深刻な
老いによる頑迷や
精神の衰えのようなもの
無名の若者が 千代が聞いた事のない
薬剤を駆使して 栽培に従事している
時代についていくのも大変ですが
まずは感情的に
ありのままの現実を受け入れるのが難しく
並の人は ここで成長が止まりますが
千代は現実にしっかり向き合って
今まで以上に大きな成果を得ます
私なら無理かもな
そこが本当に分かれ目だし 敬服モノですね
彼女が生まれた年に洪水
そして12歳の時にも 死者200人
千代が60代の時におそってきた
昭和28年の水害は 死者1000人との事
悲観主義の私としては
「今度こそ助からんな」と思うワケですが
それこそがネガティブ発想
何を根拠にそう思うのかですよね
そんなネガティブは
もはや問答無用で 手放しが必要です
私の予想に反して 千代は安泰で
亡くなるのは もっとずっと先
みかん栽培コンテストで
自分を追い抜いて受賞した若者が
「米を作っても結局水に流される
何をやってもムダ」
絶望状態に陥っているところへ
こう言ってきかせます
「家が流されたかて 田がつぶされたかて
山があるさかい 有田は大丈夫や」
先程の江島節にもどこか通じるコミカルで
やや無責任なほど明るい言葉
キンチョーを彷彿とさせる
(というか それ以外考えられない)
蚊取線香の会社についての言及があり
調べると 実際に創始者は有田郡の方
妹の悠紀はこの家に嫁ぐのですが
ムコどのが早々に亡くなってしまうと
一族は彼女を残して
芦屋に移り住んだというのもリアル
最後に今週のお花 赤ダリアさんです
白ダリアと違い 香りがありません