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もうすぐ航海に出る。船出をすることになった。
九月の下旬にやる二人芝居という海への船出だ。90分間二人だけで演じ続けるバトルロワイヤルになる。観客に笑いながら泣いてもらうこと、それが合い言葉だ。
それぞれが同じ台本を持っているのだけれど、読み方がちがう。相手がどう出てくるか分からない。取り舵か面舵か。どんな波が来てどんな風が吹き、どんな海流が先に待っているのか、その戦いがもうすぐ始まる。
実際に国を越え、国境を越え、現実の人々に逢う、そういう旅もあるだろう。が、いま私の前にあるのは芝居という名の行方の分からない大海。行き着くところさえまだ分かっていない。

長い台詞に迷い、短い台詞に悩んでしまって一晩眠れなかった。だから私はプラカノンの通りに出た。まだ東の空が少し白んでいるくらいで、通る車の数は少ない。その車たちもヘッドライトをそのまま点けて走るか消していいのか迷っている。空気のなかに夜中に降った雨のにおいがまだ混じっていた。
歩道橋に登ってみると、ペットボトル、コーヒーの紙コップ、煙草の吸い殻、ビニール袋、誰かの嘔吐のあとまであったりするのだけれど、一番鶏はまだ鳴かない。けれど驚いたことにバスの中にはちらほらと制服姿のOLがいたりするのだった。まだ、影も定かでないこの時刻に彼らの表情にもう眠気はないように見えた。
いつものバンコクがそっぽを向いた顔で始まろうとしているのだった。
この街は私を呼んでいない。
けれど、舞台という名の海が行方も定まらぬままに私を呼んでいる。
                               2018/08/20