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タマサート大学構内で行われる政治芝居に私も出演する。
その芝居のポスターの撮影をある公園のなかでやった。
広大な公園の一角、緑の草が広がるなかに一本の大樹があった。幹は太く、数人が手を広げてつないでやっと囲めるほどだ。根は地のなかに収まらず、うねり踊りながら土に割れ目をつくって這い出していた。しかし周りは静かで、遙か向こうに見える高速道の音は全く届かない。

演出家から指示が飛んだ。樹の前で全員が並び、目の前に現れた恐竜を見上げろ、という。恐怖、おののき、諦め、防戦の決意・・・、私たちは次々と演技を続けた。カメラのシャッターが息もつかず切られる。
そんなことをやっている私たちのすぐそばには園を巡る遊歩道があった。そこにかなりの数の人々が一度立ち止まっては去って行く。
ただ、彼らは私たちのおかしな様子を見るのではなかった。手にしたスマホを一心に見ていたのだ。この大樹がポケモンGOとやらのポイントになっていた。
虚構を演じる私たちと虚構を追う者たちが機を一にして樹の回りに集っていた。

そしてもう一人。制服警官。彼は一度カメラマンに身分証の提示を求め、そのまま少し離れたベンチに座ってじっと私たちを観察し続けた。なるほど。スマホの中の虚構を追う者たちは個人個人でばらばらだが、樹の下で十数人が集まって演劇という世界を作るとそれは監視の的になる。
そう、演劇とはこの国ではそんな扱いを受ける現実なのだと、私は改めて覚悟した。のどの渇きを覚え、見上げると大樹の枝葉は無言で陽光を遮っている。
ふっと涼しい風が吹いた。
                                     2016/08/13