異文化体験とはいつだって胸をときめかせるもので、
中国東北の長春を訪れた際に食べに行った
北朝鮮直営の料亭「仁風閣」もまた格別だった。 
入り口近くでキラキラ目を引くLED仕立ての国旗と、
ウェイターさんのチマチョゴリ以外に
取り立てて朝鮮を感じさせてくれる風物はなかったものの、
それでも僕らはまるで密入国者のごとく
ビクビクしながら声を潜めて話したりと、
怖いもの見たさの好奇心に任せて有りもしないスリルを
自分たちで演出し、それを楽しんだ。
気分はまさしく秘密任務中のスパイそのもの。
 

料亭側にとって全く心外な楽しみ方をしてしまったわけだが、
仏頂面のウェイターさんが持ってきたメニューの
半分以上が犬料理だったという
罰ゲーム並のラインアップにはさすがに閉口せざるを得なかった。
次の日も市内観光とはいえ終日ハードスケジュール。
使う予定のない精力をつけては体力を浪費したくなかった。 


「どうしましょうか?」と、
連れの日本人弁護士の先生が精一杯笑いを堪えながら聞いてきた。 

「と、とりあえず、青島ビールいっときますかね。あと、このもやしと人参の和え物を」
 

「まさかチャミスルしか置いてなかったりして・・・」 

「聞いてみますか」 

ウェイターさんを呼ぶ。素性?がバレないよう、
発音・イントネーションともに完璧流麗な中国語で
「青島ビール」と注文する。
その瞬間、僕のかっこ良さは東方神起すら超越した。 


チマチョゴリのウェイターさんが瓶二本下げて持ってきた。

相変わらず見事な能面だったが、
マスカラを盛りに盛った派手目のギャル風姉さんだった。
平壌に原宿を作ったら儲かりそうだなと
愉快な発想を肴に開けたてのビールを一口舐めたらびっくり。


それはそれはもう、中国本土のレストランのビールよりも、

よほど美味しく冷えていたのである。