「このまま天帝の塔に戻る。ファロたちに伝えてくれ。お前が来てくれなかったら、ここまで大規模に動けはしなかっただろう。恩に着るぜ」
アイケスの風に負けまいとする大声は、確実に羽上に届いた。
「存在に価値があったなら、ありがたいよ。正直、どう動いたらいいのか、途方に暮れてたから。手伝えて光栄だったし、みんなに会えてうれしかった」
上空の空気は徐々に冷たくなりつつあり、風も強い。感傷に浸るには疲労しすぎており寒すぎた。
「ありがとう、羽上さん」
穏やかで優しい声がかすれていた。大きな声で話していたし、ここ数日ろくに寝ていないし、休んでいない。ヒューは今にも眠ってしまいそうな顔をしていた。
泣き事は言いたくなかった。解決したのであれば、羽上がこの世界にいる必要はないし、もう扉は現れないだろう。
名残惜しいけれど、今は、ゆっくりと風呂に浸かりたい。
「いえ、こちらこそ。いろいろありがとうございました」
深々と頭を下げると羽上は、二人の姿に目をやってから扉を呼び出した。
突然に羽上の姿が消えた。
強くなってきた風から逃れるように、その場から宿屋に飛んだ。何はともあれ、休まなくてはならない。かたわらにいるヒューも引きずるように連れてきた。
「ファロが使っている宿屋ですが、意外に心地がいいんですよ。とりあえず休まないと」
ヒューがどさりとソファに倒れ込み、まもなく寝息をたてはじめた。黒くふちどられた目の隈が気の毒だ。おそらく自分も同じような、みすぼらしい顔になってるだろう。
アイケスはベッドのふちに座ってから、押し寄せてくる眠気に対抗ように今後のことを考えた。
リューボフィが残るので、他の三人は各地に戻るに違いない。
また明日も、朝から忙しい。ヒューは目覚めたらすぐに、天帝の塔に戻るだろう。一日二日と停滞している仕事に追われる。
「あ~、俺は見回りでもしようかな。とりあえずブッケル国にでも行くか」
おわり
