先日、ニューイングランド地域の大学で働く、Institutional Researcher(以下IR)のカンファレンスに参加してきました。前の職場にいたときに提出したProposalが通っていたので、そのプレゼンをするためです。
プレゼンはまあまあうまくいったと思いますが、州レベルの財政政策の話がテーマなので、なんか自分のセッションは参加者が少なかったかなぁと思いました。
IRのカンファレンスに参加するたびに思うのは、ほとんどのセッションが研究手法に関するテーマばかりで、政策論議(大学レベルも含めて)の場所がほとんどないということです。IRこそ、大きな視点で大学というものを観察する視野が必要だと思うのですが、しょうがないのかもしれません。
ところで、このカンファレンスのメインゲストとして、ペンシルバニア大学の、ロバート・ゼムスキー教授が来てました。Spelling Commission(日本で言う教育再生会議みたいなもの)の一員でもあった教授が、アメリカ高等教育の現在と未来に関する話をしたのですが、非常に良い話が聞けたと思います。なんか前日まで日本に滞在していたようで、教育再生会議かなんかに参加していたのでしょうか?
特に印象に残ったのは、なぜSpelling Commissionが失敗に終わったのか、ということに関する彼の意見でした。
(Spelling Commissionは昨年、いくつもの会議を経て、2006年9月にアメリカの高等教育の今後のグランドデザイン的な報告書を発表しました。)
教授は、報告書はいいことを言ってはいるけれども、誰が何をすべきかというところまで踏み込んでいないという問題点を指摘し、「だから報告書が発表された後も、何も変わらなかった」と結論付けました。
個人的には、初めて公式にSpelling Commissionが失敗だったという発言を、Commission Memberの口から聞いたということが印象に残りましたが、しかし、一方で、それが本当に失敗だったのか、ということに関してはあまり賛成できないように思います。
Spelling Commissionの一番の貢献は、世論をまとめた、ということにあるような気がします。すなわち、今まで様々な人たちが別々の場所で、高等教育の問題点を部分的に指摘しあっていたに過ぎなかったのが、このSpelling Commissionを通して一つの文書として公式見解としてまとめられたわけです。また、政府の役割という点にも言及し、政府がどこまで大学にかかわるべきか、という議論も行われ、これは政策議論をする上で非常に有効な文書だと思います。
(個人的には、日本の教育再生会議もいきなり問題点を議論しあうのではなく、政府の役割と大学の役割の明確な定義から始め、その役割の上で、政府は何をすべきかという議論を行う方がいいような気がします)
ゼムスキー教授も認めているように、Spelling Commissionの報告書の内容自体には、様々な専門家を巻き込んだだけあって、特に問題提起の部分は、非常に広範囲にわたってカバーされていて、そこまで問題はないと思います。従って、「Spelling Commission Reportでこう指摘されているように・・・・」という形で議論を整理することがある程度可能になったわけで、今後の政策議論のある程度の方向性を定めたというだけでも十分すぎる貢献なのではないのかという気がします。
一方で、もう一つ印象に残ったのが、教授の主張した、卒業生に対する学校満足度調査を国レベルで行うべきだと言う意見でした。
Spelling Commissionの報告書の中で、おそらく一番議論を呼んだのが、国レベルのStudent Unit Recordのデータベースを作るべきだと言う主張でした。今までは、各大学がIPEDSと言われる7種類に渡る調査書を毎年連邦政府に提出してきているのですが、その機関レベルのデータから、さらに踏み込んで学生一人一人の個人に関するデータを提出させるということです。これには私立大学を中心に猛烈な反対があり、現在のところは、まだどうなるか見通しが立っていないのが現状です。
この話を通して、ゼムスキー教授は、Unit Recordも大事だが、それよりも必要なのは、一人一人の学生が、自分達の受けた教育をどう評価しているのかということを政策立案に関わる人たちが知ることではないかと述べ、卒業生に対する学校満足度調査を全国レベルで行うべきだと主張していました。しかもUnit Recordを設立するより、ずっとコストがかからないし、より政策に役に立つと言う利点があるわけで、なるほなどと思いました。
データはあればあるほどいいというのではなく、使われなければ意味がないわけで、役に立つデータと役に立たないデータの分別をはっきりさせる必要がある、ということを改めて認識させてもらいました。
というわけで、こういった教授の話が聞けたので、総合的にはいいカンファレンスだったかなと思います。