私の大神楽師としての生涯、常に共に在り続けてくれた伝統「芸」は、(「獅子舞」を前提として)曲芸わけても「出刃皿の曲」(先代正楽譲りのお家芸)なのです。

 

国レベルの受賞のときも、海外公演のときも、高松宮殿下記念「世界文化賞」歓迎奉演(明治神宮)・茂山千作先生文化勲章叙勲祝賀会(京都ホテル)・「江戸開府400年記念・東叡山 寛永寺奉演」・第50回全国民俗芸能の集い(文化庁 日本青年館)・・・「ここ一番」の時々、あらゆる披露の瞬間(とき)、「出刃皿の曲」を上演したのです。

 

とくに導入部分である演技冒頭の「出刃 三丁取り」は、緊張のなかにも精神的高揚が漲(みなぎ)る瞬間であります。「地取り・立て山越し・牛蒡抜きこぼれ松葉さらに地取り」のテゴト(手事)から受け留める刹那、そして笑みつつ成す三方(左右中)への会釈に、思わず「誇り」湧き、「自尊」の念起こり、「至福」の境地に至れり、なのであります。(このとき「出刃包丁」そのものや手元を観ては成りません。目線は正面を見据えつつ、稽古で体得した「勘(かん)」を信じきることが肝要なのです)

 

初世菊蔵、先代正楽ら歴代家元、お師匠さんの足元にも及びませんが、当代正楽、凡庸なる吾が人生、に「光」を与え続けてくれた水戸否日本の伝統技芸に赤心、深く感謝いたします。