(前回より続き)



里のものたちは、連日連夜の鳩首凝議にて、ひとりの稚児に白羽の矢を立てたのでございました


そして

かわいそう哉

いよいよ、その供養者を入れたひつぎを担ぎ、山を登る日がやってくることになりもうした


すすり泣きしながらの里人たち


哀れふびんなるその行列を、禊ぎを終えた城主従羅天(じゅうらてん)は、早朝の木陰からそっと見るばかりじゃった…


が、しかし、何を思ったのか

愛馬に跨がり、踵をめぐらし、ひと鞭入れると、里人の行列とは正反対の方角に早駆けするのじゃった


一方

里人たちは、どこまで続くとも知れない深い山を、ただ黙々と、悲しみにくれながら登っていくのみじゃった…


やがて

ひときわ大きな巨木を見つけると、そこの藪の中にひつぎを置きましてな…

すると

何か急に恐ろしいものが現れる気配を察し、あわてふためき、一目散に山を下りていったのでございました



我らが城主、従羅天は何処におわす…


早駆けの行く先は、弓の名人と音にも聞く

高倉城の城主、市川将監のもとであった


そして

とって返するは里人たちの行列の先

その残した獣道をたどりますると、うち捨てられ、ひっそりとしたひつぎを見つけましてな

哀れなる幼子を、ひつぎの中よりお助けしたのでございます


従羅天と将監

もとより、山の神の正体を兇獣と見立てておりましたから

そはやがて姿を現すであろうと、待ち伏せしていたのでございます…


木をよじ登り

影をひそめて待つこと半時じゃろうか

日は傾きだし、見上げる空には上弦の月が浮かんでおった


やがて


丑三つも過ぎようかとの頃合、一陣の風が不気味に吹きましてな

妙な生臭いものを感じとったふたりは、互いに目と目を合わせ、息をのむのでございました




續く