むかしむかし…
そなたのおじいさんのそのまたおじいさんのそのまたおじいさん…と数えるとおじいさんが十にもなる昔の話じゃがのぉ
常陸の国は南部地方の、とあるむら山奥の深いところに山の神が住んでおりましたと
ところが山の神ともうしましても、これが農作物やら家畜などに害を及ぼすとんでもねぇ神さまじゃった
村人たちはこれに困り果て、なんとか元の平和な里にしたいものだと、来る日も来る日も思案を重ねておったのじゃ
このままではむらのくらしは悪くなる一方、なんとかせにゃならんと思案するばかりで途方にくれとった…
ある日、何か妙案はないかと、里の衆が集まりましてな、名主どんを中心に話し合いましたとさ…
そして、ある里人が申すのには
「…山の神つうのは、なんでも嫁入り前の年端もいかねぇ生娘が好みなんだとさ…そんだら、里のために、かわいそうだがよ、人っ子一人犠牲になってもらってよぉ…村人のためなんだがら仕方なかっぺよぉ…つまりなんだぁ、ひとつものを供えてみっぺよ」
と、人身供養を提案したんだと
何ともまあ、人でなしの考えじゃったが、ほかによい考えもないもんじゃから、それにきもうてしまったのじゃ
そんな無慈悲な里のうわさ話は、そこいら一帯を治めておりました、山の荘甲山城主で従羅天とうたわれた小神野越前の守の耳にまで聞こえなすったんだと
それでなぁ、賢明で人徳のある城主さまは、里人を呼び出して言いつけたのじゃ
『神が祖先代々の田畠を荒らし、子孫を苦しめるはずはない!…まことの神であれば邪気を払い、里の者に平和と繁栄をもたらすはずじゃ…おそらくそれは、兇獣にちがいあるまい』
しかしなんじゃあ、いちど盲信に取り憑かれますると、なかなか抜け出られません…城主さまの言うことも上の空じゃった
城主さまは、その様子を見て哀れふびんに思い、これはなんとかせねばと、ひとり東城寺に籠もり、“駒ヶ滝”を登ってその水に身を清めなすったんだと…その水の冷たいの、肌も切れるような冷たさを七日七晩祈ったのじゃ…
續く